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スラムにて3

「これは、僕からの提案なんですが、ここは引き払って移動した方が良いと判断します。」


「それは、今日来たあの男達みたいな奴らのことが理由?」


ミレイラは、あんなことは日常茶飯事であった為に、それを理由に引っ越そうとは考えにくいところがあった。


「それもあるけど、一番の理由は別にある。」


その僕の言葉に、黙って聞いていた幼い兄が言葉を挟んだ。


「もしかして、僕達のことですか?」


「さっき飛ばした奴らの中に、今は無き国となってしまったとある王国の暗部と思われる人間がいた。他の理由もあるかもしれないが、君達の安否を調べている可能性もその理由の一つだと思う。このスラムには奴らにとって有意義な情報もかなり転がっているから、ゴロツキに紛れ込ませているんだと判断した。」


その言葉にハッとして、兄の方は顔を上げたが、妹はまだ小さいこともあり、キョトンとした顔をしていた。


「....もしかして、僕らのことをご存知なんですか?」


「さっき救命する時に、現在の状況を知る必要があったから、申し訳ないけど鑑定させて貰いました。その情報は、その時に知りました。」


兄は一度下を向いたが、決心したかのように顔を上げた。


「まずは、ミレイラさんに一言謝りたいと思います。自分達の素性を隠していたこと本当に申し訳ありませんでした。僕と妹は、この国の遥か東方にあったエングリス王国の前王アキュリース・ハルテンブルグ三世の子供になります。」


「えっ?確かあの国の前王は結婚もしてなくて、子供が居なかったから現王が後を継いだんじゃないの?」


そのミレイラの言葉に、二人は複雑な表情を見せ、決心したかのように面を上げて、僕と妹を見た。


「私達の母はエルフなんです。エングリス王国は人間しか王族と認めないと法に定めておりますので、母は后とはなれず、父は他の女性を娶ることを良しとはしなかったので、父に正式な後継ぎはおらず、弟殿下に王位を譲り、身を引いたのです。父は納得して王位を譲ったのですが、それを良しとしなかった勢力が父を拉致し、不当な手段を用いて貴族の数人の娘に父の種を植え付けて子を成し、激しい相続争いを始めました。すると、その隙をついて隣国のプロンス帝国とランセン王国がめ込んできて、母国は戦火に沈み、父と母は私達を逃がすために、その命を....」


もうそれ以上は、僕も妹も聞き続けることができなかった。


「もう良いよ。僕達もある程度の事情は知っているから、無理に話す必要はないよ。事情を知って君達を放り出すようなことはしないし、それを利用しようとは微塵も思わない。それは判って欲しい。」


涙でグチャグチャの顔で話すような内容ではなかったが、二人は納得してくれていた。


「ところで話は戻るけど、二人は子供達と一緒に僕が受付として勤務している冒険者ギルド本部に来る気はないかい?」


その提案は、二人にはかなり意外なものであったようで、呆けたような顔を見せた。


「....冒険者ギルド本部ですか?余計に身元のバレてしまう可能性が高くないですか?」


その返事を聞いて、彼らは今の冒険者ギルド本部の実情を全く知らないと思い当たった。


「一般的なギルド本部の状況といえば、多くの冒険者に溢れ、百人以上の職員が勤務するものだと考えると思うけど、その理解で合ってる?」


その僕の言葉に、三人は大きくウンウンと頷いた。僕はその反応にそっと肩を落とした。


「特殊な事情があって、今の冒険者ギルド本部にはギルドマスターと僕の二人しか勤務していません。ワンフロアが闘技場位もある三階建てのかなり大きな建物で、三階の半分はギルドマスターの個室に改造したけど、一階と二階は全くの空き家だから、部屋には全く困りません。それにギルドマスターも、殆ど僕の家に入りびたりだから、殆ど全部空き家と言っても良いかもしれないから、遠慮する必要は全く無いからね。」


その言葉に、ミレイラが反応した。


「えっ?お兄ちゃん、ギルドマスターと一緒に暮らしてるの?」


睨みつけるような目つきに、背中に冷や汗が流れた。


「きゃ、客間は使われてるけど、同じ部屋で寝てるわけではないよ。僕の作る料理に完全にハマってしまったみたいで、毎食食べにきて、お風呂に入って、酔っ払って客間で寝るのが習慣になってしまったんだよ。」


「はぁ、お兄ちゃんは相変わらずだね。頼まれたら断れないんだから。」


ある決意を顔に出して、彼女は握りしめた両拳を掲げていた。僕は事実なだけに全く否定できず、正座の姿勢で頭を垂れ反省している僕を見て、二人はミレイラは絶対に怒らせないようにしようと思ったと、後になって話してくれた。


「それともう一つ理由があるんだけど、そのことを話すのには彼女の許可を得る必要があるから、今はそれ以上は勘弁してほしい。」


僕の言葉に二人は軽く頷いてくれた。


「王都の現況として、街にはスラムだけでなく孤児が溢れている状態なんだ。ここだけでも、もっと大きな子も含めて二十人近い孤児がいるけど、教会の孤児院にも三十人ほどの孤児がいる。僕はその中でも五歳くらいまでの小さな子達をギルド本部で預かろうと思ってる。最初は教会のシスターの協力もお願いすることになるかもしれないけど、僕はそこで彼らに生きていくための知恵と力を与えてやりたいと思ってる。」


「お兄ちゃん、いくらお兄ちゃんでもそれは無理だよ。村で子供達の世話をするのとはわけが違うよ。第一食糧だけでもかなりの負担だよ。私がここの子供達の食糧....」


涙ぐんで訴える妹を、僕はギュッと抱きしめた。


「知ってるよ。よく頑張ったな....」


僕のその言葉に、ミレイラは泣いた。大声で泣いて、僕にしがみついてきた妹の背中を、僕は昔よくしていたように軽くポンポンと叩きながら慰めていた。


「僕の空間庫には、五十人くらいの子供が一年間は楽に食べていける量が確保されている。ミレイラが知ってるように僕の空間庫は、時間停止機能付きだから、腐る心配もない。安心して引っ越してきてもらっても大丈夫だ。」


僕のその言葉に、ミレイラの目は砂兎の目のように細くなった。


「....お兄ちゃん、ますます人間離れしてきたんだね。」


その言葉を聞いて、最近では更に僕の空間魔法が進化しており、一つの階層が一キロ四方の広さを持つダンジョンさえ作り出すことができ、そこで稲や小麦や牧草を栽培したり、そこで穀物を栽培したり、各地方の有名ブランドの牛や豚や鶏を放牧して、酪農まがいのことをしているなどとは、決して今は口に出してはいけないと痛感した。


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