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スラムにて3

青果店の親父にこれまでのお礼ですと、金貨二十枚ほどが入った小袋を渡し、俺は急いでスラムへと向かった。


後ろで親父のヒェ〜っという悲鳴が聞こえたが、それは無視して走り続け、五分ほどでスラムに到着すると、先程ミレイラにマークした反応をサーチした。反応は意外に近いところにあり、瓦礫の隙間を縫って入っていくと、目の前に屈強な男六人が背中を見せて通路を塞いでおり、幼子の前に両手を広げて彼女が仁王立ちしていた。


「何度来ても同じです。この子達には指一本触れさせません!」


そのミレイラの絶叫に男達はニヤニヤと笑い、


「いやいや用があるのは、ガキもそうだが、一番の獲物はお前だから。今度もうまくいくと思うなよ。では、兄貴お願いします。」


すると、一番背後にいた男が一歩前に出て、厭らしそうな笑みを浮かべて腰の刀を一閃した。すると、パリンと音がして、彼女の前にあった障壁が割れて砕けた。


「俺には、お嬢ちゃんの結界なんぞ、紙と同じだぜ。が、何度も破壊するのも面倒なんで、取り敢えずは意識を刈り取らせてもらうな。」


そう言って、更に刀をもう一閃しようとしたので、俺はミレイラの前に分厚い障壁を張り、それに気づくこともできずに、振り抜いた男の刀は、その障壁にもろに当たり、粉々に砕け散った。


「な、な」


その言葉が終わらぬうちに、俺は奴ら六人を王都の外の草原の遥か上空へと転移させた。運が良ければ助かるが、あのレベルでは全員即死すると思われた。


「え、えっ?」


緋色の綺麗な目を見開いて驚くミレイラの顔が眩しすぎるので、少し下を向いて照れながら、彼女達の前に出て来た俺に気づいて、ミレイラが声を掛けた。


「だ、誰?」


ショックを受けた。一分一秒も忘れたことのなかった妹に判ってもらえなかったショックは半端なく、俺はその場に崩れ落ちた。


「じょ、冗談だよ。カイトお兄ちゃんだよね?生きてたんだよね、ホントにお兄ちゃんだよね、ありがと〜」


その言葉に顔を上げた僕に、ミレイラが抱きついてきてハグしてくれた。感情が溢れてきて止めることができずに、僕も座ったままハグ仕返して、またまた二人で号泣した。


「相変わらず、甘えん坊ちゃんなんだから。」


そう言うミレイラも両目から大粒の涙を溢れさせていた。久しぶりに嗅いだ妹の匂いは臭かったので、すぐに浄化の魔法をかけたら、すぐに平手が飛んできて、僕はふっ飛ばされた。


「な、なにすんだ!」


「お兄ちゃん!それはレディに対して、あまりに失礼だよ!こっちも好きでこうなってんじゃないから。」


そんな僕らのコントを見ていた子供達の中でも少し年長に見える五歳くらいの男の子が、不思議そうに声をかけてきた。


「お姉ちゃん、この人誰なんですか?」


「うん、この人は私のお....姉ちゃんの....」


「カイナです。よろしくね。」


事情を察したのか、言葉を止めたミレイラの後を引き継いで、僕が言葉を続けた。


「ところで、みんなお腹空いてない?」


床に転がってぐちゃぐちゃに潰れている、さっきのフルーツや野菜を残念そうに見ていた子供達に、僕が尋ねると、即座に答えが返ってきた。


「「「はーい!ペッコペコです。お腹空いてます。」」」


「わたちも、わたちもペコペコでちゅ。」


「あーい」


と元気なたくさんの声が返ってきたので、僕は早速準備のために、食堂と覚しき場所まで、妹に案内してもらった。


保管庫から白菜、しいたけ、エノキ、焼き豆腐、お麩、しらたき、三つ葉、を取り出した。大きめの五十センチほどの径の、両取っ手の付いた大きめのスキレットで、最初に魔物のミノタウロスのロースを薄切りしたものを、遺跡で手に入れた今◯というすき焼きのタレで煮込むように焼き、それに野菜や豆腐を次々に加えて、出来上がったものをテーブルの真ん中に置き、各自のお椀に生卵を割って溶いたものを入れて、準備を整えた。


あまりの匂いに、八人の子供達が既に食堂に集まっていて、椅子に座って今か今かと両手にフォークを持って待っていた。


「これで全員かい?」


「二人は少し体調が悪いの....」


そういうミレイラのイントネーションで事情を察し、僕は子供達にすき焼きの食べ方を教えて、食事を開始させると、彼女に二人の元へと案内してもらった。


廊下から二人の容態を確認すると、一刻の猶予もできない状態と判断できたので、躊躇なく二人の寝ている部屋へと足を運ぶと、その部屋には既に腐敗臭が漂い始めていた。既に意識はなく、眼窩は落ち込み、皮膚は強く乾いていた。


超回復(エクストラヒール)


回復呪文に対する反応も悪く、生存できるかどうかは半々と判断した僕は、ミレイラを食堂に戻して、子供達の世話をするように言い、全力で、自分が今持っている全てを使って救命することに決めた。医学の知識のないミレイラにはキツすぎると判断していた。

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