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喫茶ホメダにて

その後、ルナストリートの中央交差点に建つビルの三階にある喫茶ホメダの通り沿いの窓際の席に場所を取り、僕とユフィと拾った女の子の三人で、お茶を飲みながら話をすることになった。


最初は、緊張している上に警戒して何も話せなかった女の子も、僕達二人が年齢の近い?ギルド本部に勤務する人間だと知ると、少しホッとしたのかやっと自己紹介を始めてくれた。他人に聞かれると不味いことになるかもしれないと思って、僕は周囲に遮音結界を展開した。


「私はホメイスト大公の娘のエルカティーナと申します。先程は危ない所を助けて頂き、誠に有り難うございました。」


そう言いながら、彼女は深く頭を下げた。


かなりの大物を拾ってしまったと少し対応に苦慮している僕の姿が面白かったのか、彼女は口元を隠して笑っていた。僕は照れ隠しにどうしてあんな場所にいたのか尋ねてしまった。


彼女は、その質問に答えることに少し躊躇いを見せたが、僕達がギルド本部の人間であり、知り得た情報に対する守秘義務があることを知ると、ぽつりぽつりと理由を説明してくれた。


彼女の同級生がホスト倶楽部にハマってしまい、小遣いばかりでなく、家のお金や宝石、家宝にまで手を出してしまい、どうやら家から勘当されて放り出されたらしい。


それでも、倶楽部通いが止められずに貴族倶楽部で勤めるようになったが、家から勘当されたのがバレてクビになったらしく、それでもホスト倶楽部通いが止められなかった彼女は、足りないお金を、どうもあの路地で商売をして手に入れていたらしい。


それを知った彼女が何とかしようと、あの路地で彼女を探していたところを、あの男に捕まり騒ぎになったことが判った。


「エルカティーナさんは、彼女を見つけてどうしたいの?」


僕の問いかけに、彼女はすぐに答えることができず、どうやら取りあえず彼女に会って事情を聞こうとしたらしい。


「少し年配の私から話をしても良いかしら?」


エルカティーナが頷いたのを確認してユフィが話し始めた。


「これまでも私は自分の周りで倶楽部にハマってしまって、全財産を使い果たした後は、身体を売ったりして全力で相手に尽くし続けた挙げ句、最後は金の切れ目が縁の切れ目で、突き放すように棄てられてしまって、王都を出ていったり、自ら死を選んだりした人を何人も見てきたけど、その人達は幾ら相談に乗っても、まるで洗脳されているかのように、忠告しても全く聞く耳を持たないの。だから、私はあなたは彼女のことを諦めた方が良いと思う。悪くすれば、彼女はあなたを利用してまで相手に貢ごうとするかもしれない。さっきみたいなことが、もっとひどい形であなたを襲うことになるかもしれない。」


それを聞いたエルカティーナは、顔が真っ白になって両目から涙をポロポロ零しながら、下を向いてしまった。


しばらくの間、彼女は俯いて涙を流していた。


「判りました。彼女のことは諦めます....私は男と女の沼に落ちたような感情の縺れは、あまり理解できません。ただ、この街に来てホスト倶楽部とか貴族倶楽部の美男美女を見ていると、それにハマってしまう人達の気持ちも少し判るような気がします。」


その彼女の言葉のある部分に違和感を覚えた僕は、その言葉を止めた。


「ちょっと待って。」


「えっ?何ですか?私、変なことを言いましたか?」


「美男美女ってどういうこと?」


その僕の質問には、ユフィも驚いたようで、


「カイナちゃんの美的感覚は判らないけど、あの人達は普通の人達から見たら十分に綺麗だと思うわよ。ほら、ここから見える人達も美男美女揃いじゃない。」


ユフィのその言葉に、エルカティーナもウンウンと頷いた。


あっ、僕にはこの眼があるから騙されないけど、一般の人達は上っ面しか見えないから、本来の姿が全く判らないんだ。そう思った僕はポーチから出したフリをして、鼻パッド付きの片眼鏡を二人の前にそれぞれ置いた。


「それを付けて、あの人達を見てもらえる?」


そう言われた二人は、おそるおそるその片眼鏡を付けて窓の外を眺めて声を上げた。


「「えっ!」」


その片眼鏡を通して見た交差点で客引きしている人達は、確かに小綺麗にしているが、とても美人とは言えない、品の欠片も感じない中年の男女が多く、時に嫌らしい欲望丸出しの顔をする見るに耐えない人間達だった。


二人はそれをすぐに信じることができず、片眼鏡を付けたり外したりしながら、かなり長い時間、窓の外を眺めることを止めることができなかった。

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