クラン『ホスト倶楽部』誕生
「さぁ、いよいよあんたの職業を教えてもらうわよ。」
俺の部屋にあるテーブルをベッドのそばへと持っていき、ベッドに二人、長椅子に二人、俺が椅子に座る形で話が始まった。
「俺の職業は、『従魔士』のレベルが10、『剣士』のレベルが4で、『魔魔道士』のレベルが3だ。」
「ちょっと、待ったぁ!なんで、職業が三つもあるのよ。そんな筈ないわよ。いったい誰に鑑定して貰ったのよ!」
フザケたことを言ってるんじゃないと怒ったユリアを押し留めて、俺はそのまま発言を続けた。
「他にも三つの職業があるけど、レベルはどれも1だから、大したことはない。」
「「「「はぁぁぁ!?」」」」
ヤマハの言葉に、四人は驚きのツッコミを入れた。通常、人族に与えられる職業は一つの職しかなく、それのレベルが上がって上級職へと移行するが、その際に幾つかの職業の中から選択される職は、スキルや本人の成長具合によって神が選択するものとされていた。それ故に、一人の人間が複数の職を持っているということは、考えられないことだった。
「しかも、あんたの職業って、どれも上級職だから、そのレベルが完遂したら、呈示される職は、国に数人しかいない特級職や王級職になるんだよ。そんなのありえないよ!」
ユリアの言葉に、他の三人もウンウンと頷いていた。
「そうだよね。もしも教会とかで複数の職が判明したら、大騒ぎになるはずだよ。大丈夫だったの?」
そこまでの説明を聞いて、彼女達に正直に話して良いものか悩んでいたが、ここまで自分のスキルを見せてしまっている以上、隠しても仕方ないと判断して、正直に話すことにした。
「俺には、自分の状態つまりステータスを確認する手段がある。」
「えっ?もしかして『鑑定』が使えるの?」
そのナユの言葉で、この世界にも鑑定が使える人間がいることを理解した俺は、もしも自分を鑑定されたら、色々とまずいことになるかもしれないと思い当たり、その鑑定を阻害したり、ステータスを偽造する手段も手に入れないといけないと考えていた。
「いや、『鑑定』は使えない。自分の今の状態を知ることのできる能力だ。なんて呼ばれているかは知らないが、『ステータスオープン』と口にするか念ずると、目の前に自分の現在の能力が透明なボードの上に表示されるんだ。」
その俺の言葉を聞いて、四人は全く理解不能といった感じで、暫く反応できずにいた。その中でトモカがボソッと口にした言葉は、
「....ステータスオープン」
暫くそのまま固まっていたが、なんの反応もなかったのか、諦めるように呟いた。
「何も起こらないけど。こうすることであなたは、そのステータスボードというのが見れるわけね。」
「その通りだ。」
その言葉に誘発されるように、他の三人も、ステータスオープンと唱えていたが、何の反応も起こらないようだった。
「私達には、そのステータスオープンの発動が無理だと判ったけど、あんたの他の二つの職業を教えてもらうわよ」
まぁ、こいつらになら話しても良いかと思い、俺はありのままを話すことにした。
「一つは『商人』、もう一つは『ホスト』だ。そして最後のは、『形成外科医』だ。」
「ん?商人は判るけど、ホストと形成外科医って何?」
「私も判らない。ヤマハは何か知ってるの?」
「この世界にも、酒場があるだろ。その酒場で男の世話をして楽しませるのがホステス。女の世話をして楽しませるのがホストだ。」
「えぇ〜、酒場で働いてる女の人をホステスなんて言わないよ。給仕とか女給って言うんじゃないの?」
「そうよ、そうよ。例えば私達の貴族社会では、パーティ開いた時の主催者をホストとかホステスと呼ぶことがあるけど、それは職業じゃないしね。楽しませるというのは共通するけど、それは主催者として参加者を楽しませることが大切だからであって、仕事だからということはないわ。」
俺はその言葉を聞いて、この世界にはキャバレーやホストクラブなどはまだ存在せず、精々酒場があるくらいで、勤めているのも酒やツマミを運んでくるだけで女給という仕事しかないことを確信した。
今なら、俺はこの世界でホストとして天下を取れるかもしれない。俺の人体形成スキルや魅了を使えば、美男美女は思いのままだし、裏切られる可能性も極めて低いだろう。こんな田舎の街では、客も固定客ばかりで落とす金も大した額にはならないと推察されるから、精々田舎の金持ち程度で終わるだろうが、王都まで出れば、貴族や金持ち相手にかなりの儲けを手にすることができるはずだ。この時に初めて、この世界にやってきた俺の目標が定まった。
「ねぇ、まだスキルのことを聞いてないんだけど。」
「まずは、『人体形成』。これは最後の職業の形成外科医に関連したスキルだな。生きている人間や動物の身体を、自分の思うように整えることができる能力だ。形や大きさを変えたり、表面を綺麗にしたり、たぶんやろうと思えば、色まで変えることができると思う。それに傷を治すことも可能だ。斬られてもすぐに修復できるし、欠損してもすぐに再生できる。たぶん病気や毒は治すことができないと思うがな。」
「そうか、それで私の皮膚を治してくれたのね。だから医者の医という文字が使われてるのね。」
「物理的なダメージを即座に修復できるなら、戦闘ではかなり有利ね。もしも貴族や王族にバレたりしたら、もう飼い殺し一直線ね。これは極秘にしておいた方が良いと思うわ。」
「えっ?かなり優遇されるんじゃないのか?」
そのヤマハの疑問に、ユリアは申し訳無さそうに首を振った。
「あいつらは、自分さえ無事ならそれで良いの。部下がどんだけ傷つこうが死のうが、戦争に勝ちさえすればそれで良いの。だから、自分が無事に生き残るために、あなたを自分の側から離すことは絶対にないわ。例え、平時であってもね。一生牢屋で飼い殺し間違いないわね。」
そこまで聞いて、残りのスキルのことを話すのは諦めた。魅了にしても空間庫にしても、他の人間に知られることはリスクしか生み出さないと考えたからだ。
今の俺は弱すぎる。力も地位もないこのままの状態では、自由に生きることなど、到底夢物語でしかない。そう考えて、俺はまず、この世界をホストの力でのし上がることに決めた。
まずはクラブという名のクランを創り、暇を持て余している貴族や大商人を集めて良い気分にさせてコネを作る。そして、スポンサーとして資金を提供して貰うことができるようになれば、その資金を元にクランメンバーを強くしていける。そうすれば、誰もが一目を置くような組織を作り上げることができるんじゃないか、その時の俺はそう思っていた。




