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スキル発動後

部屋へと戻り、四人の前に正座させられている俺は、黒服の頃のことを思い出して、少し懐かしくなっていた。


「何、ニヤニヤしてんのよ!」


「そんなに責めないで、彼は私が肌のことを気にしてると知って、治してくれてんだから、全く悪いことはしてないわ....」


「あんたは、黙ってて!」


「....はい」


「ねぇ、もしも、もしもだけど、わたしが少し小鼻が大きくて鼻が少し団子なのを悩んでるって言ったら、エリスみたいに治せるの?」


恐る恐る、そう口にしたナユの顔を見て、猫耳によく似合っている鼻だよなぁ、直す必要なんてないのにと思いつつも、それがコンプレックスなら治してやりたいなと思ったヤマハは、ごく自然にそれを肯定した。


「えっ?本当にできるの?皮膚とか切って強引に形を整えるとかはしなくて良いの?」


「全然必要ないよ。鼻には軟骨という骨があるけど、その形をスキルで皮膚の外から整えて、不要な脂肪とか皮下組織を除去するだけだから、すぐに終わるよ。」


「やって!今すぐやって!目の前で、あなたのスキルを確認したら、みんなも判りやすいと思うの。」


「わ、判ったよ。じゃあ、するよ。そこの椅子に座ってくれる。」


俺が、椅子に座ったナユの顔をじっくりと観察し、修正するべき形を頭の中にイメージして、優しくその顔に触れながら、少しずつその鼻を変形させていくのを、他の三人は目を見開きながら観察していた。


鼻だけを修正すると、他の部分とのバランスが崩れてしまうところもあったので、顎の形や頬骨の部分にも少し手を加えた。イメージはたくさんのホステスの顔や、趣味の一つであったコスプレイヤーの写真集のお陰で纏めやすかったこともあり、手技は三十分ほどで終了した。


作業を終えた後には、ピンクの猫耳を生やした、美少女と言っても全く問題のない少女がそこにいた。


「はい、完成したよ。あそこの鏡の前で見てきなよ。」


と言うと、ナユは急いで鏡の前へと座り、自分の顔を見て泣いた。泣き続けていた。


あんなに強いコンプレックスがあったんだったら、もっと早く気づいてやれば良かったなと思い、俺が振り返ると、そこには般若のような顔をしたユリアとトモカがいた。俺はあまりの恐怖に後退り尻餅をついていた。


「なんなんですか?怖いんですが....」


「あんな事、普通の人にはできません。一時的な変装や幻影を見せることなら可能ですが、人間の外見を永久的に変えてしまうような魔法は存在しません。もしもあるとすれば、それは神や悪魔の領分です。あなたが悪魔だとは申しませんが、少なくとも神でないことは間違いないです。事実をお話しください。」


あまりのユリアの迫力に、俺は自分の持つ人体形成スキルのことを説明した。


「私は、魔法学校ではかなり優秀な方だったとは思いますが、そのようなスキルは効果や名前も含めて一切聞いたことがありません。」


すずいと顔を寄せてくるユリアの迫力にタジタジとなりつつも、少しずつ落ち着きを取り戻してきた時に、更に爆弾が追加された。


「そう言えば、ヤマハはどんな職業に適性があるの?教会の鑑定ではなんて出たの?」


その質問で俺は気づいてしまった。この世界にはステータスボードなど存在せず、自分の適性やランクは教会やギルドの鑑定水晶、鑑定魔法で判別されるのだと。これは中途半端に答えることは、今後の俺の生活に差し障ると考え、俺は周囲のメンバーにまずは確認した。


「俺はね、多人にものを尋ねる時には、まず自分から説明するのがスジだと思うんだよ。俺の言うこと間違っているか?」


「そうだね。その通りだね。じゃあ私から説明するね。」


そう言って、まずトモカが自分のことを話し始めた。


「私の職業は、『魔法使い』のレベル9だから、もうすぐ『魔道士』になれると思うわ。使える魔法は、風と光と水と土の四属性だから、魔法使いの中ではまぁまぁ優秀な方だと思う。固有かどうかは知らないけど『魔力自動回復』というスキルは持ってるわ。」


それを聞いてから、ユリアが言葉を続けた。


「私の職業は、『槍使い』のやっぱりレベル9。同じく、もう少しで『槍士』にランクアップするわ。固有スキルとして『狂戦士』を持ってるから、生命力が一定のレベルを下回ると、力が倍化するわ。」


「固有スキル持ちかぁ、固有スキル持ちは私だけかなと思ってたけど、仲間がいて嬉しいよ。」


そう言って、ナユがその後を引き継いだ。


「私の職業は、『猟師』のレベル9で、もうすぐ『斥候』か『狩人』のどちらかにランクアップすると思う。スキルに『遠見』と『感知』があることが影響してるんじゃないかな。」


「みんなスゴイなぁ、私なんて非戦闘職だからね。これから付いて行けるか不安になるよ。」


最後にエリスが、自分のことを話し始めた。


「私の職業は、『小間使い』だからね。戦闘力なんて皆無だと思うよ。レベルは9だから、もうすぐランクアップするけど、何になるかは全く判りません。ただスキルに『分別』ってあるから、これがどういうスキルかによって次の職業が決まると思うわ。」


「ちょっと待て、エリスは分別というスキルがあるのか?」


「何?何か知ってるの?」


「分別とは、物を分類する能力なんだ。判りやすく言うと、魔物を解体して必要あるものと無いものに分けるために解体するだろ。おそらくそのスキルを使えば一瞬で解体できると思う。」


その俺の説明を聞いた他の三人は、そんな事ありえないよという顔をしたが、エリスはそれに食いついてきた。


「じゃあ、私はどんなことができる?」


と聞かれて、ヤマハはクエスト用に昼に採集した鉄鉱石を一つ取り出した。


「この鉄鉱石には、鉄の部分とそうでない部分が混じり合っている。本来は鍛冶師が炉を使って鉄を取り出すが、エリスならスキルを使って、一瞬で分類できると思う。鉄は判るだろ?それをイメージして、スキルを使ってみな。」


エリスが眉を寄せて、額に汗を流しながら集中すると、暫くして鉄鉱石が発光し、その後にはゴロッとした鉄の塊と、岩の屑が残された。


「最初は慣れてないから時間もかかるし、小さいものしか分別できないだろうけど、スキルが成長すれば一瞬でできるようになるはずだよ。それに分別というのは、仕事を割り振るという能力でもあるから、管理職になる可能性もあると思う。」


それを聞いたエリスは、またまた泣いていた。


「私って、足手まといじゃないの?これからもずっと一緒について行って良いの?」


他の三人と違って、戦闘職ではない職を持つ彼女は、見た目も悪いし、いつか自分が置いていかれるんじゃないかと、いつも不安だったらしい。


その言葉の後には、四人で輪になって泣いていた。


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