ヤマハとの出逢い
「もうすぐウルバスだね。」
「今回の遠征は、初めての長期遠征で少し長かったもんね。」
ウルバス近くの街道を三人組の女性冒険者が歩いていると、遠くから風に乗って聞き慣れない楽器の音と音楽が聞こえてきた。
「ん?ねぇ、歌が聞こえない?」
「えっ?こんなとこで?吟遊詩人が歌う場所じゃないでしょ。」
「あっちの方だね。ちょっと行ってみようか。」
「トモカは、お暇ちゃんだねぇ。」
そんなことを話しながら、四人は草原の南側にある崖の方へと足を進めた。
・・一生そばにいるからぁ・・・
崖に近い所の岩に腰掛けて、見慣れぬ楽器を弾きながら聞いたこともないような歌を歌う、一人の成人したばかりかそれに僅かに足りないような見かけをした冒険者を見つけた。
その歌は、連れ合いを亡くした狼の遠吠えのように、哀しすぎるほど切ない思いを伝えてきていた。
「ナユ、何泣いてんのよ。」
「エリスだって泣いてるじゃん。」
平気なのはトモカだけかと、二人が彼女を見ると、口を開けて、鼻水ダラダラ流しながら、顔面中を涙で濡らしながら号泣していた。
「そうだよね。泣かずにいられないよね。私は弟を魔物に殺された時のことが頭の中に溢れて、もうダメだった....」
そんな事を話していると、知らないうちに、既にその冒険者の姿はなく、いったい何だったんだろうと三人が近づいてみると、そこには十字の形をしたツルツルに磨かれた石が建てられており、土台の四角い石には、『初めての相棒、ここに眠る』と記されており、十字の石には見たことのない文様が刻まれていた。
「....お墓みたいだね。」
「そうだね。大切な人を亡くしたんだね。」
「ウルバスの冒険者かなぁ?」
「もし会えたら、一度話しをしてみたいなぁ。」
三人はその墓石に手を合わせ、ウルバスへと向かった。
街に入ると、四人は集めてきた戦利品を売却する為に、まずは買い取りカウンターへと向かった。
「おじさ〜ん、久しぶり。元気だった?」
「なんだお前らか、今回はどこまで行ってきたんだ?」
「バニスだよ。お魚いっぱい食べてきた。」
猫獣人のナユの言葉に、そのオヤジは笑みを浮かべた。
「あそこの魚は、ホントに美味いよなぁ、俺もこんな仕事してなきゃ、あっちで仕事離れて、暫くのんびりしたいくらいだよ。」
「ところでさ、最近、この街でパートナーとか相棒亡くした人っている?」
その言葉に、オヤジは眉を寄せた。
「時期からして、たぶんお前らの言ってる奴は、二十歳そこそこの黒髪黒目のちょっと細身の男じゃなかったか?」
「そうそう、そんな感じ。吟遊詩人みたいにむちゃくちゃ歌が上手い人。」
「歌がうまいかどうかは知らないが、そいつは二日前までは、このギルドに所属してたけど、百体以上のゴブリンの魔石や戦利品を叩きつけて出ていった....」
その悲しそうな顔に、三人は何か事情があることを察した。
オヤジが、ヤマハが街を出ていった経緯を三人に丁寧に説明すると、彼女達はまるで自分のことのように激昂した。
「何なのよ!その受付嬢、よっぽどのトーシロか、その男のパーティに袖の下でも渡されてるんじゃないの!」
「あぁ、お前らの言う通りだよ。あいつは、奴らからかなりのリベートを受け取っていて、クエストでもかなり優遇していたらしい。ギルマスも激怒してな、領主の親戚だったらしいが、即座に退職させたらしい。」
「で、そいつは、その後どうなったのよ?」
それを聞いたオヤジは、不快そうに口元を歪め、更に説明を続けた。
「聞いて驚けよ。そいつは例の三人組のパーティに参加したらしいんだ。」
「えっ?そんな奴らのパーティに参加して大丈夫なの?」
「あぁ、奴らも相手が領主の血縁ということを知っているからな、無茶なことはしないだろうよ。」
オヤジからの説明を聞いて、宿へと戻った三人は、怒りの持っていき場所がなかったことから、イライラしながら夕食を食べ、酒を飲んで、不貞腐れたように床についた。
その頃の三人は、どうして自分達がこんなにもあの若い冒険者が気になり、その扱いに腹が立っているのかを理解することができなかった。
その後しばらくの間、三人はウルバスの近辺で、狼わ狩ったり、羊を狩ったりしながらクエストを続けていた。そんな生活が一ヶ月続いた後にその事件は発生した。




