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冒険者ギルドにて

門番に倒した角兎を一羽渡して、やっと街に入れてもらった俺は、ウルバスと呼ばれている街の冒険者ギルドに向かって歩き始めた。


WEB小説で見かけるように、保管庫(アイテムボックス)はなるべく知られない方が良いという知識もあったので、途中の雑貨屋で、角兎の角を大きなズタ袋二つに替えてもらい、誰にも見られぬように角兎十羽をそれぞれに詰め込み、冒険者ギルドへと入っていった。


ちなみにケンは、額の赤い宝石のお陰で従魔だと確認され、何も問題なく街へと入れている。大きい魔物だとそうはいかないが、ケンくらいのサイズだと全く問題ないらしい。


受付でまずは登録して貰おうと向かうと、おばさんと呼んで差し支えない女性が座っていたが、元がホストだったこともあり、その辺は抜かりなく対応できた。


「あのぉ、お姉さん、冒険者の登録をしたいんだけど手続きをお願いして良いですか?」


門番や雑貨屋でのやり取りで、自分の言葉が普通に通じると判っていたので、満面の笑顔で尋ねると、そのおばさんはにっこりと微笑んで、丁寧に対応してくれた。


従魔士としての登録も終わり、Fランクの木製のギルドカードを受け取り、途中の草原で狩ってきた角兎を納品したいと伝えると、五本の角兎の角の納品するクエストを教えてくれ、二十羽袋に詰めてあると伝えると、あと六回のクエストの完了でF+ランクに上がることができ、更にもう十回クエストを重ねると、新人冒険者として認められるEーランクに上がることも教えてくれた。


こんなにすぐにランクアップできるなら、俺はやっぱり最強に慣れそうじゃんと思いつつ角兎を納品して、クエスト報酬としての銀貨四枚と、兎角代として銀貨八枚、兎肉代の銀貨二枚、兎皮代の銀貨二枚を渡された。


この辺りの一泊二食付の宿代が、銀貨ニ枚であることを考えると、時間単価で考えれば十分な報酬と言えた。


その後一ヶ月の間、俺は角兎をメインに狩り続け、後半はもう兎肉は飽和しているからと買い取って貰えなかったが、その他の報酬で金貨三枚を手に入れることができた。


兎肉を棄てるようなことはせず、しっかりと保管庫に収納し、ケンの餌や俺の昼食に活用したのは言うまでもない。


それを資金に、軽防具と片手剣、解体用のナイフを揃え、その後の三ヶ月を毎日クエストに費やすと、俺のランクはDーまで上がっていた。ケンの身体も大きくなり、今では体長一メートル程の大きさとなっており、ゴブリン程度の相手なら、一噛みで絶命させる程の強さとなっていた。


ギルド内では、ラビット殲滅者(スレイヤー)とか、ゴブリン殲滅者と揶揄されていたが、ソロプレイの人間にとって、安全第一は譲れないところだった。いくら怪我を一瞬で治すことができても、最初の一撃でクビチョンパ等の致命的な一発を喰らえば死んでしまうのだから、用心するにこしたことはなかった。


その日もいつものように、街の近くの草原へと向かい、兎狩りやゴブリン駆除をしていると、草原の向こうからボロボロの姿をした三人の冒険者が走ってくるのが見えた。


よく見ると、その後ろには僅かに砂埃が舞っており、何物かに追われていることが推察された。俺の危険察知能力が働き、街へと向かうように踵を返すと、その俺に向かって槍が投擲され、それは右脚を貫通し、俺はその場に倒れこんでしまった。


慌ててその槍を抜こうとしている俺の横を、三人組が駆け抜けていったが、その顔に嫌らしい歪んだ笑みが浮かんでいるのが見えた時、俺はハメられたと直感した。この槍は後ろから迫っているゴブリンが投げたものではなく、俺を囮とするために、移動を阻害するために、奴らが投げたものだと簡単に理解することができた。


槍を引き抜き、人体形成での治療が終えた時、奴らは街へと消え去り、俺の周りには百体ほどのゴブリンが溢れて、俺を取り囲んでいた。そのニヤついた顔には獲物を見つけた喜びが溢れており、苛ついた俺は一番近くにいたゴブリンを片手剣で両断した。


そこからは、まるで高校の時に経験した暴走族との喧嘩を思い出させるような凄惨な場面が展開された。俺の女を誑かして盗ったと因縁をつけられ、思い当たることもなかったのでボコボコにしてやったら、次の日に族の仲間を引き連れてやってきて、バットやら、バイクやらでボコボコにされ、全治二ヶ月の怪我を負わされて、空手のインターハイへの出場を辞退させられたなぁと考えながら、場違いにも程がある精神状態で、斬られ、刺され、魔法を撃たれながら、一匹ずつ確実に仕留めていった。


俺を一撃で仕留めることのできるレベルのゴブリンが居なかったことが幸いして、二時間程の時間は必要としたが全てのゴブリンを倒しきり、周りを見渡すと、俺以外に動くものは何一つ見当たらなかった。


そこで俺はすぐに気がつくべきだった。


相棒が俺を見捨てる訳がないことに気がついたのは、全てを倒しきり、草むらに横たわって満天の星空を見て一息ついた時だった。


「ケン!どこだ、どこにいる!」


そう叫ぶ俺の声に答えるものは誰もおらず、背中にドッと冷や汗が流れ、星空の中、僅かに見える視界の中を、ゴブリンをかき分け必死になって探したが、ようやく何頭ものゴブリンの下敷きになって、横たわるケンを見つけたのは、月が周りを照らし、少し明るくなった頃だった。


全身が血まみれで、身体の至る所が喰われ、齧られ、手足はボコボコに折られたようにありえない方向に曲がっており、その命を終えていた。


そのあまりの凄惨さ姿に俺は吐いた。吐くのが止まらなかった。吐きながら、ケンを抱き上げ、叫んだ。心の底から絞り上げるような声で叫んだ。涙は止まることを知らず、慟哭とはこんな感じなのかと変に冷静な自分がいることにも驚きながら哭いた。ひたすらに哭いた。自分がこんな大声で泣くことができたことにも驚いていた。


この世界に来て始めてできた心許せる友達だった。いつも一緒に暮らしてきた。最初噛みついてきた時の子犬みたいな姿や、じゃれて絡みついてきた時の嬉しそうな顔や、尻尾をぶんぶん振り回す姿が、頭の中に次から次へと浮かんできて、俺は泣くことを止められず、その場で天を仰ぎながら泣いていた。泣き続けた。


その身体を撫でながら、人体形成スキルで少しでもマトモな姿に戻してやろうと頑張ったが、俺の役立たずのスキルは死体には作用せず、血に塗れた体毛を濡れタオルで拭いてやるのが精一杯だった。

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