異世界へ
「ここは?」
そこまで言って、俺は地下鉄の前に放り出された状況を思い出し、自分の身体を弄りまくったが、傷が一つもないことに気づいた。こんな状況に俺はたった一つの理由しか思い当たらなかった。
「異世界転生....いや、元の姿のままだから異世界転移か?」
テレビを見る暇などなく、ひたすら働かされる俺には移動している最中に触れる携帯しか楽しみがなく、僅かな時間でも覗くことのできるWEB小説だけが俺の娯楽だった。中でも、転移とか転生ものは大のお気に入りだったと言っても差し支えない。
チート能力でオレ最強とか、スライム連れて冒険とか、最強パーティから放り出されてとか、あっこれは違うか。とにかく、異世界には現実世界で得られることのなかった俺の夢が詰まっていると、この時の俺はそう思ってた。
そこで異世界転移した人間が叫ぶ定番の言葉を叫んだ。
「ステータスオープン!」
すると、その瞬間に自分の前に透明なボードが出現した。そして、その書かれた内容に俺は固まってしまった。
名前:山葉・博
年齢:22歳
職業:商人(0)、ホスト(0)
スキル:人体形成、魅了、空間庫
武術:
魔法:
体力:Fー
魔力:F+
耐久:Fー
知力:D+
魅力:Aー
幸運:B+
「えっ!えぇぇぇぇぇ!」
そこには、最強とはほど遠い数値が並んでいた。
「しかも、職業が商人、それはまだ良い。なんだこれは、ホストだと!そんな職業がこの世界にあるのか?普通ないだろ!」
そんなことを叫びながら、呆然として草原に突っ立ってた俺は、草むらをかき分けてくるような、背後から近づいてくる足音に全く気がつけずにいた。
「あぎゃぁぁぁぁぁ!」
突然後ろから突き飛ばされるように体当たりされ、同時に尻に激烈な痛みが走った。恐る恐る俺が尻を見るために振り返ると、頭の角を俺の尻に突き刺したままぶら下がっている体長五十センチ程の兎を見つけた。
何も武器など持っていない俺は、角が固定されて動けない兎の首を締めた。雑巾を絞ることで鍛えられた俺の腕の力は、兎を締め落とすには十分だったらしく、五分程で兎は動かなくなり、尻にダランとぶら下がった。
恐る恐る兎の角を引き抜くと、そこから血がどくどくと流れ出し、その量の多さにゾッとしていると、頭に声が響いた。
[人体形成スキルを使用しますか?]
「はっ?なんだ?使えばどうにかなるのか?」
そう叫びつつ俺が人体形成スキルを使うと、尻の痛みはあっという間に消失し、流れる血はピタッと止まった。
恐る恐るスラックスに開いた穴から手を入れて、尻に触れるとそこに開いたはずの穴は綺麗に塞がっていた。
自分の持つスキルの有用性に気付き、これから怪我は全部完治させることができるんじゃないかと思い、それから俺は草原に散らばる角兎を片っ端から処理していった。
自分の身体を刺させて絞め殺す。傷はスキルで治す。それを繰り返していく間に、俺は不思議なことに気がついた。いくらスキルを使用しても、体力は減っているが魔力は減っていなかった。体力は刺されたことで減少したと考えると、スキルの使用に魔力は必要ないんだと理解した。
「俺って無敵じゃん!」
そう考えていた時もたしかにありました。またまた浮かれていた俺の足に刺されたのではない、断続的に繰り返される別の鋭い痛みが走った。
足元を見るとやはり五十センチ程の小型の犬のような獣が、繰り返し繰り返し噛みついているのが見え、しかも、俺がその獣をどうすることもできずに見つめていると、その獣の目がトロンとしてきて、噛み付くことを止めて俺の足にじゃれつき始めた。
[草原狼幼体の魅了が完了しました。この個体を従魔としますか?]
そんなアナウンスが頭の中に流れ、俺は驚きで固まった。下を見ると、草原狼が尻尾をぶんぶん振りながら、お座りしてこちらを見ている。あまりの可愛らしさに、俺は「はい」と答えた。
[草原狼の従魔化が完了しました]
というアナウンスが流れ、じゃれつき始めたそいつに、俺が[ケン]という名前をつけると、その身体が一瞬白く輝き、額に赤い宝石が出現した。どうやら、これが従魔の証らしかった。
俺がケンとじゃれていると、突然草むらから角兎が飛び出してきたが、ケンはそれを一瞬で噛み殺し、褒めてというようにお座りしたので、思いっきり頭や身体を撫でてやると、すぐに次の獲物を探しに飛び出し、わずか一時間ほどで三十匹近い角兎が俺の保管庫に収められた。
[従魔士の職業を獲得しました]
の言葉にステータスを確認すると、
名前:山葉・博
年齢:22歳
職業:商人(0)、ホスト(0)
従魔士(1)
スキル:人体形成、魅了、空間庫
武術:
魔法:
体力:F
魔力:F+
耐久:F
知力:D+
魅力:Aー
幸運:B+
新たに職業欄に、従魔士という職業が増え、おそらくはレベルだと思われる数字が1と加えられていた。体力や耐久のランクも少し上がっており、例え従魔が倒したとしても、自分の経験値として加算されることを理解した。
これって、俺が最強になれる可能性があるってことじゃないか、獣魔を増やして、どんどん魔物を倒せば、ランクやレベルが上がるということだろ。最高じゃん。
そんなことを考えながら、草原を抜けて街道に出ると、これからの薔薇色の人生を思い描きながら、遠くに見える街に向かって、俺は歩き始めた。




