ミナミサークルにて
王都の一番南側の地域に円形に広がる繁華街はミナミサークルと呼ばれ、その中でも通りが東側から西側へと走るルナストリートが最も賑やかな通りだと言えた。
僕達は、ユメフィリア改めユフィに手を引かれ、お買い物に来た風を装って通りを歩いていた。
両側の建物には、蛍光色の灯りをこれでもかと取り付けた派手な装飾の看板が多く取り付けられ、どんな魔道具が使われているのかは理解できないが大音量の音楽がこれでもかという勢いで垂れ流されていた。店の前にはそこの店員と思しき男性や女性が、道行く人々を一人でも多く案内しようと努めるために、店同士の争いもあるようで、至る所で言い争いや喧嘩を見ることができた。
通りは酒の匂いや怪しい甘い香り、女性や男性の香水の匂いが立ち込めており、軽く頭痛や目眩を覚えるほどだった。
「これは、かなり末期的だねで。しばらく来ぬ間に更に退廃は進んだように見える。」
「この王都には、神を信奉し崇拝する教会のような存在は無いのですか?地方の街では結構見かけましたが。」
「王都にも昔は大きな教会があったんだが、そこの教皇が真っ先に倶楽部に籠絡されて、三年ほどで崩壊してしまってね、今は数人のシスターが、使わなくなった教会でかなりの数の孤児の面倒をみているみたいだよ。」
「えっ?争いもないのに王都では孤児が多いんですか?」
顔を見上げてくる僕の言葉に、一瞬返答に詰まったユフィだったが、僕が見かけ通りの人間でないことをすぐに思い出し、ありのままの事実を教えてくれた。
「哀しいことだけど、ホスト倶楽部遊びに走って、子供ができてしまった貴族の夫人や娘が、教会に赤子を捨てることが増える傾向にあるし、望まぬ子供ができてしまった貴族倶楽部の女性達が、推しから避けられることを嫌って、スラムに赤子を捨てていくようなこともあるようだよ。教会ならばまだ世話をしてくれるシスターがいるから、何とか生命を拾うこともできるけど、スラムでは誰もが自分が生きることで精一杯だから....」
そこまで話して、ユフィは僕の両目から涙がポロポロと零れていることに気づき、慌てて会話を止めて僕をハグして背中をそっと擦ってくれた。
しばらくヒックヒックしていた僕が落ち着いたのを見計らって、僕達はルナストリートの散策を続けた。
「すみません。僕はまだ十歳の時に家族や村中の知り合い全てを失いましたから、自分の子供を捨てるという行為が信じられなくて、感情を抑えることができませんでした。幾ら不義の子供で自分に都合が悪いからといって、どうして自分の子供を捨てることができるんですか?」
その答えに少し悩んだ顔を見せたユフィさんが、少し悩みながら言葉を返してくれた。
「なんだかんだ言っても、貴族は血統主義だからね、伴侶はより高位の貴族の血を求めることが当たり前だし、どこの誰とも判らない異性の子供は大切にされることはないと言うことだろうね。でも、恋愛の相手としては自分の好みの異性を選びたいという人の欲望を利用したのが、ホスト倶楽部や貴族倶楽部ということなんだと思うよ。当然、一人対多人数の恋愛となるので、その中で一番になりたいというのも本能としてあるだろうから、お金や体を貢ぐのだろうね。私には理解できない世界だよ。」
そんなことを言いながら、ルナストリートの外れに近づくと、既に営業を止めている廃れた二軒の店の間の狭い路地に多くの女性が、一定の距離を開けて並んでいるのを見つけた。
「あれは何ですか?何をしているんですか?」
そこでは数人の女性の前に男性が立ち、その前に女性がしゃがんで、何かしているのが見えた。
その路地を見たユフィは、僕の顔の向きを両手で挟んで強引に向きを変えて目を覆うと、そのまま空いてる手で僕の右手を引っ張りその場から離れた。
「....あれはね」
「キャァァァァァ!」
路地から響いた女性の悲鳴に、僕はユフィの手を振り切って、その場へ駆けつけた。
そこには先程通った時には見かけなかった、かなり上質なたっぷりの生地を使い、レースを多用している貴族服を身につけた少女が、いかにもガラの悪いでっぷりと太ったかなり大柄な商人に頭を押さえつけられ、商人の下ろしたダブっとしたパンツの上にそそり勃つかなり太くて大きなチ◯◯に、その彼女の唇を押し付けようとしていた。
「や、やめて下さい!私は違います!何だろうと興味を持って覗いただけです!」
「うるせぇ!オメェが、この路地に入ろうか辞めようか、どうしようかと悩んでる所から俺は見てたんだよ。決心がつかないようだから、俺が背中を押してやろうとしてんだろ!」
その言葉を聞いて、大体のことは理解できたので、僕はおっさんの襟首を掴んで、後ろに放り投げると、縮小の魔法を使った。
「テメェ、何しやがるんだ!殺されたいんか!ガキだと思って手抜いてもらえるなんて思うなよ!」
僕がこのおっさんと揉めている間に、ユフィが少女を保護してくれていた。
「ガキ?それはあなたの股間にぶら下がる何のサイズのことですか?」
「....何?」
男はゆっくりと視線を下げて、自分の林の中に勃つ赤ちゃんの小指サイズの己の分身を見て固まり、その赤ら顔が真っ青に変わり、やがて真っ白に変わり、慌ててバンツをずり上げると、手で押さえながら、その場から逃げ出していった。
その場面を見ていたユフィが、何が起こったのか判らず、少女の手を引いて近づいてくると、開口一番に説明を求めてきたので、ありのままの事実を説明すると、彼女は立っていられないほど大笑いして、僕達はその場から移動することもできずに、しばらく通りの真ん中に立ち続けていた。




