完全勝利
はぁ。
大きなため息を心の中でつく。
そんな感じで学校での1日がスタートした。
アレンと過ごすこと以外に学校に行く意味がなくなってきた気がする。
つまんないな。
ホームルームが終わり朝のちょっとした放課になった。
みんながそれぞれ話をしたり、遊んだりしている。
私は読書をしている。
早く昼放課にならないかな?
…ずっと昼放課ならいいのに
そんなのことを思っているとクラスがザワザワし始めた。
「ねえねえ!あれってもしかして!」
「そうそう!こっちにきてるよ!」
何かあったのかな?
まあいいや。私には関係のない話だし。
「ごめんね。ちょっと通してくれるかな?」
ん?この声まさか…嫌な予感がしてきたんだけど。
そんな予感は的中した。
「わ、私たちに何か用があるの?」
「ごめん。君たちには用はないんだ。和乃ちゃんっている?」
アレンだ。アレンがこの教室に来たのだ。
しかも私の名前をみんなの前で呼んだのだ。
ヤバいかも、
「お、いたいた。和乃ちゃん。貸して欲しいものがあるんだけど」
話しかけて来ちゃったし、ヤバいよ。
ただでさえみんなによく思われてないのに、女子から人気のあるアレンが話しかけて来たんだ。
何かが起こらないわけがない。
「和乃ちゃん。今日って体育ある?」
「あ、あるけど…」
「じゃあ、ジャージって持ってる?忘れちゃってさ」
なるほど。ジャージを貸して欲しかったんだ。
それだけならいいでしょ。
「はい。ジャージ。2時間目から体育だから返してね。てか、男子とかに借りれなかったの?」
「うん。話しかけようとしたら女子に邪魔されてね。あれ以来まだ話しかけてこようとする奴がいるんだよね」
大変だな。と思いつつアレンと話し終えた私は本を読むのを再開した。
ちなみに身長は、私が167cm、アレンが170cmなので問題なく着ることができる。
この時は女子の視線に気づいてなかった。
「ほい。貸してもらったジャージ。助かったよ、ありがとう」
「いや、いいよ」
「今は何もできないけどもし困ったことがあったら俺がなんとかするから言ってね」
「うん。ありがとね」
さあ。2時間目は体育。バスケだ。
運動は結構好きだから嬉しいな。
バスケのチームは5人チームを三つ作って回している。
自分のチームにバスケ経験者はいないけど、敵チームにはいた。
しかも、1年生にして女子バスケ部の先発メンバーになり、2年生である今もその座を維持しているという化け物だ。
精一杯頑張ろう!
試合が開始した。
ボールは自分たちが取れたのでパスがしやすい位置に移動した。
でもパスは回ってくることはなかった。
それからも自分にパスが回ってくることはなかった。
なぜなら、自分たちのチームメンバーが私のことを無視しているのだ。
おそらくアレンのことだろうな…
あまつさえ、相手にわざと渡しているようにも見えた。
バスケ部の子もつまらなさそうな目をしていた。
つまらない。
でも…
私にも意地はある。
そっちがその気なら上等だ!
私は仲間が相手にパスしようとしているのをカットした。
「なっ!?」
ほとんど9対1の状況だから正直かなりきつい…
だからっと言って諦めない。
仲間がボールを取ろうとしてくるのを1人、2人と抜いていった。
残る2人は諦めたのか、ぼーっと突っ立ているだけだった。
あと5人!
私はドリブルで抜こうとした。
「させない!」
敵チームの4人が一斉に飛びかかってきた。
私はそのうちの1人の股下にボールを通して
「そこ空いてるよ」
と言った。
急に股抜けをされて対応できるはずがなくあっさりと突破することができた。
残るは1人!!
例のバスケ部の子だ。
「へぇ〜。バスケ上手いね。ぜひバスケ部に来てほしいレベルだよ」
「部活の勧誘は断っているので、それに私より上手い人は他にもたくさんいるでしょ」
「そんなにいないと思うけどな」
ていうか、普通に話してるけどこうやって普通にはなしてくれる人はアレン含めないで初めてかもしれない。
「君面白いね。ぜひ名前を聞かせて欲しいな」
「一橋和乃です」
「和乃ね、覚えた。ちなみに私の名前は多兎名すみれ。よろしく。さあ、始めようか!」
その言葉で私たちは同時に動き出した。
この人、当たり前だけどバスケ上手だ。
私が動こうとした方向に動いてくる。
フェイントを仕掛けたとしても全く通用しない。
「上手いね。やっぱバスケ部に…」
「結構です」
そんなことをしているうちに私はコートの右端に寄せられていた。
そしてすみれが右側を少し開けていた。
おそらく右に入ったところを一気に叩く作戦だろう。
普通はフェイントをかけて左に行くはずだ。
でも、今は楽しみたい。
だから、
「その勝負、乗った!」
私は右側に全力で走った。
それに合わせてすみれも右側に来て走る。
そして、私は急に止まった。
「え?」
その動きに対応できなくてすみれは転んでしまった。
「アンクルブレイク!?」
私はその声を無視してドリブルをしながら走った。
その後、ゴール前でジャンプをし、ボールを手に持ったままゴールに入れた。
いわゆるダンクシュートってやつだ。
ブザーが鳴る。
それは私の完全勝利の合図だった。