第一話 「プロローグ」
澄んだ、空。
私は、それをいつまでも見つめていた。
透明な淡いブルーと、白い雲。そして……少し冷たい空気。
周りに住宅はほとんど無い。道路が一本果てしなく、地平線の彼方に延びている。一時間に一回くらい、のろっとしたスピードで車が通過する。
典型的な、田舎だ。
私は、つい最近この田舎町にやってきた。
それは父の仕事の関係で、三ヶ月の間だけこの町に転勤をすることになったため。
色々私には分からない「大人の事情」があるらしく、私はこの町の中学校に転入する必要は無いと言われた。なんでも家で相応の自学習をすれば、元住んでいた町の学校に戻った時、単位不足の恐れもなく無事に中学を卒業出来るとのこと。
なんだかよく分からないが、そんな周囲のことは私の生来のずぼらさも相まって、取りあえず忘れてしまった。
ここにくる前の学校生活は、ある程度の充実もあったし、ある程度の大変さもあった。
気の合う同級生との学びや部活の中では、人間として生きることはとても楽しいことだと感じたこともあった。一方、自分をよく思わない同級生と触れあう中では、人間の汚い部分を拡大鏡で覗いているような感触を受けることもあった。
そんな、普通の学生とごく変わらない日々を送っていた時、不意にそのコミュニティから切り離され一人田舎町にやってきた。
私は民家の二階に割り当てられた自分の部屋で一人勉強をし、疲れたら少し外に出て、田舎道をブラブラと歩く。
延々と続く田んぼ、澄み切った空気。そして……ほとんど誰も通らない道路。
その先には、時代の風を受けて古びた商店街が待っている。
そのことが、何故か、言いようもなく楽しかった。