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#52 判断が必要なとき

 途端に全身の毛穴が開いた。

 ウォルラース。忘れたくとも忘れられない名前。

 ディナ先輩と、ディナ先輩の家族の人生に絶望と破滅とをもたらすきっかけとなった、なんでも屋の男。

 もちろん単なる同名の別人かもしれない。

 この世界ではどんな名前が多いとかよくわからないが、状況が状況だけにとにかく血液が泡立ちそうになった。

 だってそいつが野盗に絡んでいるのなら、ケティをさらったのだってそういう目的だったということだろ?


 俺の腕をぎゅっとルブルムがつかむ。

 わかってる。落ち着けと言いたいんだろう、と振り返り、ルブルムの表情にぎょっとした。

 今までに見たことがないくらいの、怒りと悔しさと悲しみとが混ざった顔。


「ルブルム」


 ルブルムの耳元に顔を近づけ、そっと耳打ちする。


「戦わずに生き残ることも一つの勝利だよ」


 もし本物だとしたら、防衛手段も罠もきっと無数に用意しているはず。

 確実に倒せるとき以外は、チャンスを無駄に潰すだけ――というより、冒険者で言ったら駆け出しの俺たちが倒せるような相手じゃないと考えていた方がいい。

 それよりも俺たちはこの情報をディナ先輩へ持ち帰ることの方が大事だ。それも関係者だとは悟られずに。

 ここからは正念場。

 ルブルムもケティもマドハトも、皆を無事なまま連れて帰る。

 こんな危険を冒しているのは、解毒剤のためだけど、いざとなったらちゃんと逃げて――カエルレウム師匠やディナ先輩なら、この麻痺毒を癒やす方法を知っているかもしれないし。


 ルブルムの表情を見て少し落ち着いた。

 というより、心の準備が出来た。

 注意せよ。気を配れ。焦らず、見失わず、常に最良の判断を探せ。

 紳士たれ、俺。


「ウォルラースもね、街道で襲われたらしいのさ。君たちと一緒だねぇ」


 それって、チェッシャーたちが乗っていた馬車からさらわれた商人と同一人物ってこと?

 チェッシャーたちへの疑惑が再び脳裏を(よぎ)る。

 いや、思考を固定するな。

 もしかしたらチェッシャーたちも狙われた側な可能性だってある。

 そして『死んだふり』のおかげで死んだと思われて、運良くウォルラースの魔の手から逃れられたってことも。


「そのウォルラースも、バータフラたちが助けたのかい?」


 試しに尋ねてみる。


「そう言ってたよ」


 襲ってきた野盗を「助けてくれた」と表現するなんて、これって、つながっているよな?

 ウォルラースが野盗の仲間という確率が高くなる。

 スノドロッフの子どもたちをさらって、その子たちを人質にして魔石(クリスタロ)を略奪とか企んでそうじゃないか。

 本物のウォルラースなら、「さらう側」も得意そうだし。

 じゃあなぜ、わざわざ自身もさらわれてみた?

 被害者を装うため?

 なぜ装う?

 表の顔と裏の顔がある?

 そりゃ野盗どもとの接点なんてない方がいいに決まっている。

 堂々と口裏合わせているのは、ロービンなら騙せると思ったから?

 それって、いざとなったら口封じできる強さがあるってこと?

 さもなくば、脅されたんだと言い張る?

 もしかして、既に警察みたいなのに容疑者として疑われているとか?

 警察――については、リテルの記憶の中を探ると、領兵がその役割を担っているようだ。

 領主が法であるのは地球の封建主義と変わらなさげだが、リテルの記憶の中にある法は比較的近代化されていたようにも感じる。

 そう。リテルは「スクール」と呼ばれる学校的な場で法律を学んだことがある。


 ストウ村では、集会場で領監さんや国監さんが講師となって子どもたちに教える「スクール」という時間が時々あった。

 「スクール」では簡単な読み書きや計算から、魔物の危険性、法律や税のことまでを教えられた。

 魔法についてはストウ村では一切教えてくれなかったけど、地域によっては半成人くらいからちゃんと教えることもあるとカエルレウム師匠がおっしゃっていたっけ。

 で、その授業で学んだのは、領主が法律や税を設定するのは、領民を守るためだと、だから領民も協力してそれらを守るべきだと、そんな感じだった。

 魔法という、自らの命を懸けて意思を通すための手段を誰もが持っているこの世界(ホルトゥス)では、良く言えば互いを思いやり、悪く言えば他人を刺激しないように気をつける、そんな思考がかなり一般化しているようだ。

 悪政を強いる領主は民衆に討たれる場合もあるし、かと言って民衆だけによる自治が可能となるほど、安全な世の中ではない。

 異門(ポールタ)から時折現れる魔物に対抗するには、国や地域としての連携や指導者による統率が必要であり、戦力を維持するにはお金がかかる。

 国や地域としてまとまるためのルールや、戦力やインフラの維持にかかる費用については説明によって理解と協力とを仰ぐ。

 特にこのラトウィヂ王国においては、そのような政治形態でうまくまとまっているらしい。


 ディナ先輩もおっしゃっていた。

 領主によって法律は若干異なるが、ラトウィヂ王国内においては領主が領土を追われるほどの地域は今のところ存在しないと。

 ディナ先輩の故郷であるモトレージ白爵(レウコン・クラティア)領は、領主が自分の利益最優先で私腹を肥やしまくる酷い領主だったせいで内戦が勃発して大変な状態になっているようだし。

 ウォルラースはそこの領主キカイーともつながっていたんだっけ。

 もしもウォルラースがここの領兵に追われているのであれば、クスフォード紅爵領(うち)はウォルラースとつながっていないと考えられるのか?

 いや待て判断を()くな。

 ウォルラース自身がここに来なきゃいけない理由があったという可能性も忘れるな。

 あいつは魔法品をたくさん持っている。

 さらった子どもたちをうまく人質にできるような何かを持っていて野盗と取引した、とか。

 その場合、厳密には仲間ではないが、表立った取引はできないから「さらわれた」ことにした――そういや、野盗連中、先祖返りを偽装している奴が多かったよな。

 なんでそんなことしていたんだ? 罪を被せるため?

 そういえばチェッシャーが言っていたな。アイシスでは半返りは差別されているって。

 半返りが差別されるなら、先祖返りだって差別されるよな?

 もしかして、その原因ってこの野盗のせいだったり?


 落ち着け俺。

 思考を細かく広げ過ぎている。

 まずは事態を見極める。

 そして常に全員が助かる道を探し続ける。

 最悪のパターン、本物のウォルラースだとしても油断せず、冷静な思考を続けるんだ。


「この先を曲がったらすぐさ」


 思考も対策も十分に練れていないというのに、その三叉路の右側がほんのり明るくなっているのが見えた。

 俺の心臓の音がやけに大きい。

 狩りの時と一緒だ。

 この鼓動も落ち着かせて――「相手に鼓動を合わせて」とマクミラ師匠がよくおっしゃっていた言葉。

 深呼吸を一つ。


「どうした?」


 立ち止まった俺にメリアンが気付く。


「マドハトは下がった方が良いかと思って」


「はいです!」


 眼の前の分かれ道付近は洞窟が少し細くなっている。

 今まで歩いてきた場所は多少の幅の増減はあったもののロービンとメリアンが並んで歩けるくらいの広さはあった。

 ただここからは一列にならないと厳しそうだ。

 結果的に隊列はロービン、メリアン、マドハト、ケティを背負った俺、そして殿(しんがり)がルブルムとなった。


 左側は通路状の洞窟がまた伸びているようだが、現時点ではそちらに大きな寿命の渦(コスモス)は感じない。

 右側はさらに少し下り、その先が広くなっている。

 この洞窟の入り口があった竪穴よりも広い地下空間。しかもひんやりとした風を感じるし水の音までする。

 メリアンたちに続いて俺もそれを直に目で見た。

 地下空間の向こう半分が水に呑まれている。

 地底湖というには少し小さい地底池といった感じだが、奥の方は水路となってまだ先がありそうな気配。

 風が来ているのはその水路の奥の方からのようだが、舟のようなものは見当たらない。まあ、魔法品のある世界なら見たまんまが全てれはないだろうけど。

 地底池の手前には小さな焚き火があり、その傍らに敷かれた布に幼い子どもたちが三人寝ている。

 うちの双子よりももっと幼そうな――四、五歳くらいかな。

 そして肝心のウォルラースは、思ったとおりのウォルラースだった。

 子どもたちのすぐ脇に、でっぷりと太った禿げ男がしゃがんでいる。

 口の両端からサーベルタイガーのように大きめの牙が飛び出しているせいで、浮かべている笑顔が歪んで見える。

 間違いない。

 ディナ先輩に魔法で見せてもらった容姿とそっくり。

 名前も同じだし、こいつはあのウォルラースだ。

 今まで会ったことがない獣種――サーベルタイガーだと猫種(バステトッ)の亜種になるのか?

 それにしては寿命の渦(コスモス)猫種(バステトッ)派生っぽくない。半返りだとしても、猫種(バステトッ)系ではなさげ。

 そしてウォルラースの背後には、ぴったり寄り添うようにバータフラが無表情で立っている。


「た、助けてくださいっ!」


 突然、ウォルラースが転がるようにこちらへ向かって駆け出した。

 全身に力が入る。ケティを巻き込まないように下がろうとした途端、ウォルラースはみっともなく転ぶ。

 そこで火花が散った。

 小剣を抜いて数歩踏み出したルブルムの、ウォルラースを貫こうとしていた刃を、メリアンが盾で止めたのだ。

 いや、気持ちは分かるけれど今は無理だ。

 ロービンを敵に回したら勝てるかどうかもわからない。

 逃げられるならまだマシで、反対にやられるかもしれない。

 さっきまで胡散臭い笑顔を浮かべていたウォルラースの顔がひきつっているが、演技にしか感じられない。


「ごめんなさい。彼女は大きな牙には……酷い思いをしたことがあって、反射的に拒否反応が出ちゃうんです」


 慌ててルブルムの手を引き、下がらせる。

 半返りに対してこのようなことは言いたくなかったが、場を収めるための言い訳としては一番無難そうなのを選んでみたい。

 こういうときの言い訳は正直な方がいい。

 元の世界にいたときにはよく英志(ひでし)に指摘されたっけ。

 俺はバカ正直だから嘘を混ぜるとすぐ相手にバレて余計に怒らせるって。

 代わりに言葉を少し減らしなよって――当時はそんな要領よくはできないよって出来の悪い自分を嘆いていた俺だけど、メリアンやロービン、ウォルラースあたりの表情を見る限り、信じてもらえたのかな。

 ディナ先輩の過去話に対してルブルムがつらそうにしていたのは事実だし。


 ルブルムは抵抗せず、俺の言う通り小剣を鞘へと収めた。

 それを合図に、まるで一時停止を解除したみたいに、ウォルラースが再び動き出した。

 ウォルラースは腰が抜けたみたいにロービンに近づきながら、バータフラを指さす。


「あ、あいつ! あいつ実は盗賊団です! 私の馬車を襲ったのもあいつらです! 私は脅されて仲間のフリを演じさせられていたんです!」


「本当かい?」


 ロービンがバータフラをにらみつけると、バータフラは口をパクパクさせている。

 相変わらず無表情なままで。

 でもなんでバータフラはずっと棒立ちのままなんだろうと思ったそのとき、バータフラの右手に消費命(パー)が集まるのを感じた。

 それも大量に。

 メリアンとロービンが同時に動いたが、メリアンがバータフラに突撃するには位置的にウォルラースが邪魔だった。

 その横でロービンは前のめりにしゃがみ込む。

 ロービンの背中の大剣の切っ先が地面へと届き、必然的に剣だけがロービンの背中から突き出て残る。

 ロービンは両手を伸ばして大剣の柄を自分の頭越しにつかむと、刃の向きを変えながら大きく振りつつ前へと跳んだ。

 次の瞬間にはその大剣が、バータフラの右手を肘のあたりで切り離す。

 集中していた消費命(パー)は集まりきらずに弾けるように消えた。

 ロービンは手を休めることもなく、大剣の腹をバータフラの顔面に炸裂させる。バータフラは後頭部から背後の地底池の中へと倒れ込んだ。


「あっ、ありがとうございます。私のことを信じてくだすって感謝です!」


 勢いがついたバータフラの体が水路の奥へと流れる前に、メリアンがバータフラの足をつかんで引っ張りあげた。

 水に濡れた革鎧や服を即座に剥ぎ始める。


「盗賊団の入れ墨がないかどうか調べるよ」


 ウォルラースはまだ腰が抜けっぱなしなのか、両手だけでズルズルとロービンの方向へ進む。

 この姿、どこかで――ああ、セイウチ!

 セイウチに似ているんだ。

 それにしてもウォルラース、あんだけ太っているのに、動きは機敏だし腕力もかなりありそうだ。


「あった。街道であたしらを襲った連中と同じ入れ墨だ」


 上半身を剥いた時点でもう、心臓の真上あたりに入れ墨を見つけている。


「ね、ね、言ったでしょう?」


 ウォルラースはロービンへと近づいてゆくが、ロービンはそれを手で押しのけつつ、子どもたちの元へと駆け寄った。


「この子たち……いつからこの状態なんだい?」


 メリアンもロービンと一緒に子どもたちを見始める。


「この症状、街道であたし達を襲った盗賊団の一人が持っていた麻痺毒と似ている……ウォルラースさん、ずっと捕まっていたのなら、あいつらがこの子達に何かしたのを見なかったか?」


「わ、私は……」


 ウォルラースはこちらをチラ見する。

 ルブルムは俺に右手をつかまれたまま、大人しくしている。

 マドハトまで俺の足にしがみついている。

 ケティを背負う手が一本になったことで、ケティの体が背中からずり落ちかけている。


「ごめんなさい」


 ルブルムが突然謝ったからか、ウォルラースの表情が少しだけ落ち着きを取り戻す。


「わ、私は……言う通りにしないとお前もこの子たちと同じようにしてやると脅されました」


「その時、バータフラはどのようなものでこの子たちに傷をつけていたか?」


 メリアンが尋ねる。


「……え、えっと。長い針のようなものを刺してました」


 ウォルラースは素直に答えた。

 今回の件について、ウォルラースは本当に被害者なのか?

 だとすると、ますます手を出しにくい。

 そうなると俺たちにできることは、出来得る限り手の内を見せずに安全平穏にこの場を切り抜け、ディナ先輩へしっかりと伝えること、あたりか?


「なるほどね、針かい」


 メリアンはメリアンで、とぼけたままでバータフラから脱がした衣服の確認をしている。

 洞窟の床の中で比較的平たい場所へバータフラが身につけていたものを片っ端から並べ、握りこぶしで端からちょっとずつ叩いてゆく。


「この手の輩は何人か居たら一人ぐらいは解毒剤を持っているものだがな……おや?」


 メリアンが手を止めたのはバータフラの左ブーツ。

 盾の内側から小さなナイフを取り出し、ブーツを裂いた。


魔石(クリスタロ)じゃないか。それも上等品の白魔石(レウコン)だ。ルブルム、ちょっと見てくれ」


 メリアンが白魔石(レウコン)を放り投げたので俺はルブルムの手を離す。

 ルブルムは上手に白魔石(レウコン)をキャッチした。


「魔法が二つ格納されている。一つは『生命回復』。もう一つは……使ってみないと分からない。けど蜂や蜘蛛の毒を解毒する魔法に似ているかも」


「なるほど。なぁ、ロービン。この子たちに使ってみてもいいか?」


 メリアンが、子どもたちの横へと移動する。


「メリアン、待って。毒消しの効果をもたらす魔法の中には毒の効果を打ち消す別の毒を生成するものもある。子ども相手に使うときには量の制御が必要になるかもしれないから、いきなり使うのは危険を伴う。一度発動して、内容を理解できれば微調整が可能となる場合もある」


「じゃあ、まずはあたしに使ってみてくれてもいい」


「健康な人へ使うと、ただ単に毒の状態にしてしまうだけの場合もある」


 メリアンとルブルムの話を聞いていて思ったのは、これ、まずはケティに使ってみたいってことだよな?

 ああ、途中でエルーシを置いてきちゃったことが悔やまれる。

 だけどここであまり時間を無駄にはできない。

 野盗の――盗賊団の仲間が合流する恐れがあるからだ。

 そのとき、できればケティが自分で歩けるとありがたいのは確かだ。


「……あのさ」


 声をあげたはいいが、その先を言い出す前に声が詰まった。

 ここで一番ケティに近い、いわば身内はリテル()だ。

 だけど毒に関わるリスクの高い効果の、しかも盗賊団が持っていた得体のしれない魔法を、使用許可なんか俺が勝手に出して許されるものなのだろうか。

 ルブルムの解析を信じないわけじゃないが、責任と不安とが俺の喉を塞いでしまう。


「そうだな。ケティも恐らく同じ毒にやられているんだ。ルブルム、ケティを頼む」


 言い淀んでいる俺の代わりにメリアンが指示を出す。

 肝心なときに判断をもたつかせる自分自身に苛立ちながら、ケティを背中から下ろして洞窟内にしゃがませ、後ろからケティの上体を抱きかかえた。

 ルブルムは白魔石(レウコン)を消しゴムみたいにつまんで持ち、ケティの首元へと押し当てる。

 消費命(パー)が集中されるのを感じる――これは白魔石(レウコン)の中に貯められている消費命(パー)を使っているようだ。

 緊張の一瞬、そして魔法が発動した。


● 主な登場者


有主(ありす)利照(としてる)/リテル

 猿種(マンッ)、十五歳。リテルの体と記憶、利照(としてる)の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。

 ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。


・ケティ

 リテルの幼馴染の女子。猿種(マンッ)、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。

 リテルとは両想い。フォーリーから合流したが、死にかけ、今は盗賊団による麻痺毒を注入されている。


・ラビツ

 久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。

 フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。


・マドハト

 ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種(アヌビスッ)の体を取り戻している。

 リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌とゴブリン語を知っている。


・ルブルム

 魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種(マンッ)

 槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ケティがリテルへキスをしたのを見てから微妙によそよそしい。


・アルブム

 魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種(ラタトスクッ)の兎亜種。

 外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。


・カエルレウム

 寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種(マンッ)

 ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。


・ディナ

 カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。

 アールヴを母に持ち、猿種(マンッ)を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。


・ウェス

 ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種(カマソッソッ)

 魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。


・『虫の牙』所持者

 キカイー白爵(レウコン・クラティア)の館に居た警備兵と思われる人物。

 『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。


・メリアン

 ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。

 ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種(モレクッ)の半返りの女傭兵。


・ノバディ

 ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの用意してくれた馬車(ゥラエダ)の御者。尻に盗賊団の入れ墨がある。

 ちょっと訛っていたが、盗賊団仲間に対しては普通に喋っていた疑惑がある。


・エルーシ

 ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種(クヌムッ)。娼館で働くのが嫌で飛び出した。

 仲間の猿種(マンッ)鼠種(ラタトスクッ)と共に盗賊団に入団しようとしたが、現在は盗賊団の毒で麻痺中。


・ブレドア

 横転させた馬車(ゥラエダ)で街道を封鎖し、襲撃してきた牛種(モレクッ)

 メリアンに返り討ちに合い、死亡。左脇腹に盗賊団の入れ墨がある。


・小道の襲撃者たち

 二人組の爬虫種(セベクッ)。馬に乗り、片方は寿命の渦(コスモス)を見えなくしていた。魔法も用いる。

 盗賊団の入れ墨はなかった。ルブルムの活躍により、二人とも死亡した……はずだったのだが。


・バータフラ

 広場の襲撃者である二人の爬虫種(セベクッ)の片方。ロービンの居る竪穴の底まで馬に乗って逃走。

 洞窟内へと逃げたがロービンに倒された。「スノドロッフの子どもたちを保護した」と言っていたらしいが盗賊団の入れ墨があった。


・ロービン

 マッチョ爽やかイケメンなホブゴブリン。メリアンと同じくらい強い。正義の心にあふれている。

 マドハトと意気投合し、仲良くなれた様子。


・スノドロッフの子どもたち

 魔石(クリスタロ)の産地であるスノドロッフからさらわれてきた子どもたち。ケティやエルーシ同様の毒で麻痺している様子。


・ウォルラース

 キカイーの死によって封鎖されたスリナの街から、ディナと商人とを脱出させたなんでも屋。金のためならば平気で人を殺す。

 キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。盗賊団にさらわれた被害者の素振り。




■ はみ出しコラム【魔石の中の魔法】

 魔石(クリスタロ)には、消費命(パー)や魔法を格納することができる。


・改めて魔法について

 魔法を使用するには、術者が使用したい魔法の効果について想像し、発動を強く意識する必要がある。

 このときに作り上げた魔法のイメージが、どれだけ世界の真理(ヴェリタス)に近いかによって魔法自体から要求される発動の対価である魔法代償(プレチウム)が増減する。

 要求された魔法代償(プレチウム)に対し、相当する量の「寿命」を引き渡すと、魔法が実際に発動される。

 「寿命」とは、生命の肉体と魂とを結びつけているものであり、『魔力感知』で確認すると渦を巻いて見えることから魔術師からは「寿命の渦(コスモス)」とも呼ばれる。


・改めて寿命について

 「寿命」は一般的な獣種の場合、ホルトゥスにおける四百年分ほどのエネルギーを持つが、獣種の肉体自体が百年ほどで活動限界を迎えるため、一般的な獣種の平均死亡年齡は二桁に留まる。

 例え、肉体が活動限界を迎える前であっても、魔法の大量使用により「寿命」を使いきった場合は、魂と肉体とは結びつく力を失い、肉体は停止する。

 肉体は、大きな負傷や毒によっても停止する。活動限界を迎えた肉体や停止した肉体は「寿命」とつながる力を失う。


・改めて消費命(パー)について

 魔法代償(プレチウム)に対して引き渡す「寿命」は、術者側で引き渡す量を制御しない場合、本来要求された魔法代償(プレチウム)以上の「寿命」を消費してしまう恐れがある。

 それを防止するため、魔法代償(プレチウム)へ引き渡す「寿命」を、本体の「寿命」から予め分離させておいたものを「消費命(パー)」と呼ぶ。

 「消費命(パー)」を分離・制御する技術については、徒弟制度である魔術師たちそれぞれが秘伝技術として師弟間でのみ共有し、一般には漏らさない。

 魔術師たちが組合(コレギウム)を作り、国家や領主に対して技術や労働の継続的な提供を約束したからこそ、この「技術の秘密化」が許容されている側面もある。

 ただ、この「寿命」を制御する技術については、魔術師であってもうまく実行できない者は少なくない。

 この制御がうまくできない者は魔法を使うたびに大量の「寿命」を消費し、早死にする。


 本編の主人公が制御技術に秀でているのは、一つの肉体に二つの魂が結びつく「魔術特異症」(の一種)であるために、自身の中の魂や寿命といった抽象的な存在を具体的に把握できたことによるところが大きい。


・ディエス

 消費命(パー)の最低単位。一日分の「寿命」を指す。

 なぜ最低単位とされるようになったかというと、魔石(クリスタロ)へ格納できる消費命(パー)の最低単位だからである。


・改めて魔石(クリスタロ)について

 消費命(パー)や魔法を格納することができる石。

 特定の地域からのみ産出されるが、その産地や取得方法については国や領主により最重要級に秘匿されている。

 それ自体とても貴重なものではあるが、同じ魔石(クリスタロ)でもその色によりさらに希少度が分類されている。

 希少度が高い魔石(クリスタロ)ほど、格納できる消費命(パー)や魔法の最大容量が大きい。

 希少度が高い順に、虹魔石(イーリス)紅魔石(ポイニクス)白魔石(レウコン)紫魔石(モヴ)濁り魔石(メイグマ)となる。

 ただ、濁り魔石(メイグマ)であっても、魔石(クリスタロ)自体の価値が高いためにそれなりに高価ではある。


魔石(クリスタロ)への消費命(パー)の格納について

 寿命の渦(コスモス)から一部だけを消費命(パー)として引き剥がし、魔石(クリスタロ)の中へと移動する。

 移動した消費命(パー)は、格納者であれば自身の体内で分けた消費命(パー)と同様に使用が可能。

 ただし、消費命(パー)の制御が下手な者は、一ディエス分の寿命を格納するのにそれ以上の寿命を消費することがあり、そうして格納時に一ディエスより多い量を消費してしまった場合でも、魔石(クリスタロ)から取り出して使用する時には一ディエス分としてしか使用できない。


・他人の格納した消費命(パー)

 基本的には、使用できない。

 魔石(クリスタロ)内の格納領域を使用していること自体は『魔力感知』にて感知ができる。


・魔術師組合(コレギウム)による魔石(クリスタロ)への消費命(パー)格納

 魔術師組合では、特別な魔術により、魔石(クリスタロ)へ「誰でも使用できる消費命(パー)」を格納することを可能とした。

 魔術師組合へ魔石(クリスタロ)を持ち込み、しかるべく対価を支払うことにより、(主には犯罪者が刑罰として提出させられた「寿命」=魔術の糧(プレイミウム)をもとにした)「汎用(ヴェッサーティレ)消費命(パー)」を格納してくれる。


・魔術師が自身の魔法を発動する際、魔法代償(プレチウム)に充てる消費命(パー)魔石(クリスタロ)から流用する

 魔術師の最も一般的な魔石(クリスタロ)の使用方法がこちらである。

 自身で格納した消費命(パー)か、魔術師組合にて格納してもらった汎用(ヴェッサーティレ)消費命(パー)を、通常に魔法を発動時に消費することができる。

 自身の体内に分けた消費命(パー)と、魔石(クリスタロ)内の消費命(パー)とを併用するのは、技術的にかなり高度なことであり、通常はどちらか一方のみからの使用となる。


魔石(クリスタロ)に魔法を格納する

 魔石(クリスタロ)に魔法を格納する際は、『魔法を魔石(クリスタロ)に定着させる』系の魔法や、『特定の呪文を唱えることにより魔石(クリスタロ)内の魔法を発動する』系の魔法と共に魔術として一体化させた上で格納することが一般的である。

 そのため、これらの一体化に必要な魔法を理解できていない者は、魔石(クリスタロ)に格納されている魔法については窺い知ることはできない。

 逆に言えば、理解さえしているのであれば、魔石(クリスタロ)内に格納されている魔法へ触れることは可能である。


 通常、「魔法へ触れる」行為は、魔法が発動するタイミングで、発動する術者の肉体へ触れている必要があるが、魔石(クリスタロ)へ格納されている魔法については、発動しない状態であってもある程度の把握は可能である。

 ただし、その魔術師がその対象魔法について既知の魔法と同じか類似していない場合については、把握できるのはせいぜい、発動条件として設定されている「特定の呪文」情報に留まる。


 魔術師が魔石(クリスタロ)に格納されている魔法を一度でも自身で発動した場合、師匠魔術師が弟子に触れさせた状態で魔法を使用してその魔法自体の概念を伝える「魔導合一(クーペランテ)」のように、魔術師は魔石(クリスタロ)内の魔法を覚えられる可能性がある。

 なぜ可能性なのかというと、対象魔術を構成する思考が理解できない場合は、自身でそれを再現できないからである。


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