今日、戦士がやって来た!~お前にとってメディアは道具だろうがな、俺にとっちゃかけがえのない存在なんだよ!
秋月 忍様主催の『アンドロメダ型企画』参加作品ですが、並びに黒森冬炎様主催の『螺子企画』参加作品でもあります。
ここは紫の世界『ケイブガルド』と黒の世界『デッドガルド』の狭間のヘイム『カースヘイム』。
カースヘイムには人の血で出来た海『血海』の上に鉄の匂いがする複数の島『ケッセン諸島』が浮かんでおり、『世界塔ブルドラシル』最下部の地獄と揶揄されるデッドガルドに近い事と相まって禍々しい雰囲気だ。
そんな地に背中に大剣を背負った屈強のオーバーティーンのニュートラルの男性が舟でケッセン諸島に乗り込んで来た。
舟を漕いでいるのは騎士型カムクリ『ジェネラロイド』だ。
カムクリだけあって極めて高い操舵能力を誇り、疲れ知らずなまでにすいすいと舟を目的地に進めて行った。
(この島々のどこかにメディアが囚われているのか……。思えば長かったな……。メディアが連れ去られて十年……、俺はフレッシュティーンから各ガルドでAUの訓練に勤しんでは紋章を集めてこのカースヘイムにやって来た……。やはり禍々しいな……。お陰で紋章どもが厭に光ってやがる……。)
男性は今まで手にした紋章を見つめた。
(!……とうとう岸に着いたか……。)
「目的地に着きました。何かあったら、『月の紋章』を通じてわたくしにご連絡下さい。」
「ああ、ありがとよ。じゃあ、行って来るぜ。」
「『ベルゼウズ』様に闇のご加護がありますように。」
ベルゼウズという男性はジェネラロイドにしばしの別れを告げて島に乗り込んだ。
上陸から道なりに進んで暫くして、ベルゼウズは島の先に建つ城らしき建物を見つけた。
(なるほど……、ここにメディアが囚われてるんだな……。待ってろメディア……。お前を救ってやるからな……!……!!)
ベルゼウズがメディアを救おうと息巻いた矢先に血色の悪い屈強の女性らしき者が血から造られし赤黒い斧を携えて彼の前に立ちはだかった。
彼女の両眼は赤く光っていた。
「……『ブリジット族』の女の『モータロイド』か……。悪いが俺はまだやられる訳にはいかないんでね!」
ベルゼウズは背中の大剣を構えて女傑型モータロイドと向き合い、死合いを始めた。
そして死合いから3m後……
(くっ……、今まで色んな奴と死合ってきたが……、かなり手強いな……。)
ベルゼウズは膝をついて息切れした。
そんな彼に女傑型モータロイドは歩み寄り、とどめを刺さんばかりに斧を両腕で天高く構えた。
「そこだぁっ!!奥義、『爆裂斬』!!」
ベルゼウズは起ち上がり、女傑型モータロイドの腹を斬り付ける形で斬撃型火属性ELアーツ『爆裂斬』を繰り出した。
女傑型モータロイドは彼の赤色に光る太刀が自分の腹部を狙う様に気付くも刻既に遅く、刃が彼女の精悍な腹部を捉えた瞬間……
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
刃に帯びた火属性EL粒子と女傑型モータロイドの体内の異臭を放つガスが反応して爆発が発生し、彼女の悲鳴と同時に上半身が弾け飛んだ。
横たわった女傑型モータロイドの両眼の光がじわじわと消失し、アルカイックスマイルで活動を停止した。
(……死者の身体を魄とするモータロイドとはいえ、精悍ながらも美しい生身の身体を斬り裂くのは胸が痛むぜ……。せめてもの償いだ……。安らかに眠ってくれよ……。)
ベルゼウズは破壊した女傑型モータロイドの上半身と下半身を合わせ、予備のマントで断面を覆って彼女を弔った。
女傑型モータロイドの弔いを済ませたベルゼウズは遂にメディアが囚われている城に差し掛かった。
(いよいよ来たか……。ん!?扉が閉まってやがるな……。なら……、力づくで開けるまでだ!)
ベルゼウズは大剣を抜いて入口の堅牢な扉に向けて構えた。
「行くぜ!奥義、『金剛斬り』!!」
ベルゼウズは扉の中央に斬撃型土属性ELアーツ『金剛斬り』を繰り出し、橙色の光を放つ太刀は扉の裏の閂を両断した。
(よし……、これより突入!)
ベルゼウズは城に突入した。
城の中では、何体ものニュートラルに似た容姿の者が待ち構えていた。
(こんな禍々しい場所にニュートラルどもが!?……いや、待てよ……。生身のニュートラルなら紋章でも無い限りこんなBEだらけの場所に長くいて平気な筈がない。という事は奴等はカムイかカムクリか……!?)
城の者達は剣や槍等の得物を携えてベルゼウズに襲いかかった。
(くっ……、カムイやカムクリは『カムイ三原則』という奴がある……。造られた者であれ奴等がカムイなら……、人への攻撃をする筈がない!となれば奴等は間違いなく……、『アヤカシ』か『アヤクリ』だ!)
相手が人と違う存在に気付いたベルゼウズは躊躇なく大剣を構え直した。
「喰らえ、ELアーツ!ダイヤモンドォォォォォォォォォ、デストラクショォォォォォォォォォン!!」
ベルゼウズは土属性ELアーツ『ダイヤモンドデストラクション』を繰り出して、相手を手当たり次第に破壊した。
破壊された個体からは歯車や螺子等の体内の機構が地面にぶちまけられた。
(やはりアヤクリ共か……、こいつは何かありそうだな……。)
ベルゼウズは奥へと進んで行った。
ベルゼウズが奥の部屋に入ると、大量の未起動カムクリが並んでいた。
さらに奥には、大型機械が動く傍ら、その機械によって製造されたカムクリが次々に出てきた。
(何だ……、これは……!?なっ……、嘘だろ……、メディア……!)
ベルゼウズは今まで見た事のない光景に動揺した。
大型機械の動力源らしき機関にメディアなる少女らしき者が縛り付けられていた。
彼女の身体には大型機械より延びる複数のケーブルが接続されており、まさに彼女が人ではない事は明らかだ。
「いかがかね?このカムクリ共は?」
ベルゼウズの前にモノクルをした黒装束の老獪な男性が現れた。
「……わかんねえな……、一つだけわかんのは……、結構趣味悪いって事くらいだな……。……そもそも誰だあんた!?」
「吾輩か?……吾輩は『ケータス』なる科学者だ。貴公も名乗るがいい!」
「俺は……、ベルゼウズ!メディアという女を救うために……、キョウ戦士がやって来た!」
「メディア!?……ああ、あそこのカムクリの事か?」
ケータスは生体ユニットと化したメディアを指さした。
「……そうだ……。何故彼女を連れ去った!?」
「彼女が高性能のカムクリ『ニュートラロイド』だからだよ。カムクリどもを製造するこの大型機械を制御するのに彼女が必要なのだ。そして、このカースヘイムの血海の血もな。」
「何故血も必要なのだ!?」
「血から鉄が抽出されるのだよ。血海の海は地上の人々の争いによって流れた血で出来ておるのだ。その血より抽出した鉄で人を超えた力を持つカムクリ兵器を量産して、地上に放つのだ。自分達の争いで生み出されたカムクリ共に人々は根絶やしにされるのだ……。これ以上に面白い筋書きはあるまい……、くっくっくっ……。」
「……貴様……、貴様……、きっ、さっ、まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ケータスの独善的な言動に怒り狂ったベルゼウズは大剣で彼に斬りかかった。
「ぐわっ!!」
ケータスはベルゼウズの怒りの刃を受け、喀血して倒れた。
「お前にとってメディアは道具だろうがなぁ……、俺にとっちゃかけがえのない存在なんだよ!!」
ベルゼウズはケータスにメディアが自分にとって大切な存在だと言い放った。
「……ふっ……、吾輩もここまでか……。だが……、吾輩のココロザシは……、これしきでは潰えぬ……。さあ……、カムクリ共よ……、目覚めるの……、だ……!!」
ケータスは手にした『業の紋章』を掲げながら破裂して散っていった。
間もなく、城中で眠っていたカムクリが両眼を赤く光らせ、動き出し、ベルゼウズに一斉に押し寄せて来た。
(なっ……、何だ……!?何がどうなってやがるんだ……!?)
ベルゼウズは動揺した。カムクリ達が暴走しながらも何かに操られているかのように足並み揃えている様も拍車をかけた。
(だが……、ここまで来て退く訳にはいかないんでね!)
ベルゼウズは大剣を構えて暴走カムクリ達を破壊していった。
しかし、破壊された暴走カムクリ達は暫くして起ち上がり、再び活動を始めたのだ。
(くそっ……、キリがねえ……。このままじゃメディアまで辿り着けねえ……。悪い……、メディア……、俺……、お前を……、救えそうもね……!!)
諦めかけていたベルゼウズの元に先程、死合いを繰り広げた女傑型モータロイドが斧を携えて出現した。
彼女の腰は先程の死合いの傷が生々しく残っているも、上半身と下半身の骨格が繋がっていた。
(なっ……、何故だ……!?そうか……、モータロイドだからな……。何にせよいい悪夢だぜ……。!……)
ベルゼウズは再起動した女傑型モータロイドを見て戦慄したが、彼女は彼に味方するようにカムクリ達に対して斧を構えた。
「……ELアーツ……、『サイコシャット』!」
全身を紫色に光らせた女傑型モータロイドは斧を地面に打ち付ける形で闇属性ELアーツ『サイコシャット』を繰り出した。
斧から放たれる紫色の光が地面を伝い、カムクリ達を包み込み、カムクリ達は機能停止した。
「……もしかしてお前……、いや……、あんたは……、ただのモータロイドではないな……。」
ベルゼウズは女傑型モータロイドの立ち回りにただならぬ何かを感じた。
「……いかにも……、私は『屍女傑シレイア』、闇属性のモータロイド型カムイだ……。」
女傑型モータロイドは自分の名と種族をベルゼウズに明かした。
「なるほど……、カムイだったのか……。どうりで身体を自然修復させる事が出来たんだな……。俺はベルゼウズっていう狂戦士だ。この先のメディアっていうニュートラロイドを救う為にここへ来た。早速で悪いがあんたの力を俺に貸してくれねえか。『敵の敵は味方』って事だしな。」
ベルゼウズもシレイアに名乗り、自分が手にしている闇属性のELエムブレム『月の紋章』を掲示して彼女に協力を頼むと、月の紋章が紫色の光を放ち、シレイアを包み込んだ。
「……うむ……。丁重にしてくれたお礼だ……、喜んでそなたの力になろう……。」
「ありがとよ。」
シレイアは快諾し、ベルゼウズは感謝した。
「……マントを返そう……。」
「いや、そいつはあんたがそのまま持っててくれ。そのつもりで遣ったんだからな。そいつがあんたの役に立ってくれるなら俺は満足だ。」
「……かたじけない……。」
シレイアはベルゼウズに先程彼が自分の傷を隠すために渡したマントを返そうとするも、彼はそのまま持っていて欲しいと返した。
暫くしてカムクリ達の両眼が赤く光り、再び活動を始めた。
「……ここは私にお任せあれ……。そなたはすぐ様メディアの元に往くが良い……。」
「ああ……、あんたにご武運をな……。」
「そなたに……、闇の加護を……。」
「ああ……。」
ベルゼウズはシレイアに見送られ、メディアの元に向かった。
「メディア!俺だ!ベルゼウズだ!お前を助けに来たんだ!」
メディアのいる部屋に入ったベルゼウズは眠っているかのように動かぬ彼女に呼びかけるも、全く反応しなかった。
(くっ……、やはりメディアの身体に付いている紐を断ち切るしかないのか……!)
ベルゼウズがメディアの身体に接続されているケーブル群を大剣で断ち切ると、カムクリを製造する大型機械の歯車が激しく回り、城壁に亀裂が入り始めた。
(……なっ……、火に油を注いだか……!?それとも……!?……とにかく……、脱出だ!)
大型機械から解放されても相変わらず眠っているメディアを抱きかかえたベルゼウズは脱出を図った。
「……何とか脱出出来たが……、シレイアは無事だろうか……。」
崩壊しては血海に沈みゆく城から何とかメディアと共に脱出したベルゼウズは中にいたシレイアが気になった。
暫くして月の紋章が紫色の光を放った。
「月の紋章が光ってるって事は……。どこかで生きてるって事か……。まあ、メディアを救ったんだ……。後は眼を覚ましてくれればいいんだがな……。」
ベルゼウズは舟でメディアと共にカースヘイムより帰還した。
メディアはメンテナンスによって再起動するも、記憶が失われていた。
ベルゼウズは一時動揺したが、一から絆を育み直す事にした。
そして、メディアは記憶こそ戻らねど、相棒としてAUとして活動するベルゼウズを支えていくがそれは別の物語。
お読み下さって有難うございました。