第五話 突然の呼び出し
前世の記憶を取り戻してから早い事にもう15年が経つ。
あの後分かった事だが、俺の得意属性は前世と同じ土、闇、空の3つだった。これを知った時は嬉しすぎてつい部屋の机を重力魔法で潰してしまったぐらいだ。いや〜うっかりうっかり。
冗談はさておき、それ以来はやはり性格ゆえなのかこの時代の魔法学についてのめり込み日夜研究をして引きこもる生活をしていた。
ここで勘違いしないで貰いたいのだが引きこもると言っても同年代の子供と比べればだ。俺だって新しく覚えたことや実験をするのに庭に出ることは何度もあった。嬉しいことに家の庭は広かったからね。
それと、もう1つ気になることがあった。これは6歳の時に図書館で読んだ本の中にあるおとぎ話についてだ。
どうやらこの国ができるよりも遥昔、この土地には魔法と魔術を極めた伝説の魔導師が居たらしい。
500年前に起きた異種間戦争。彼はその戦中、各地の戦場をたった一人で周り次々と戦場を制圧していたと言う。
独自の魔法で敵を次々と地へ落とすその姿は、誰が言ったか奈落の魔法使いと恐れられたと。
いや〜、誰だろうなー是非会ってみたいなーはっはっはっはっー!
ごほんっ、話を戻そう。
そんなこんなで周りの子供とは少し違った生活をしていた天才美少年グレイ君も順調に成長していき今から数年前には王都の魔法学園中等部に入学を果たした。
そして、彼は知る事になる。この世界の現状を。
魔道具の開発や生活を支える周辺器具の増加と世界の技術レベルが発展していったことにより魔法の使用用途が戦闘で使われる程度まで少なくなってしまったこの時代ではその魔法のレベルが500年前よりも格段に下がっていたのだ。
宮廷魔術師や魔法使い、冒険者やハンターなど戦闘職を目指す者以外は基本的に魔法が苦手で、出来るとしても竈に火をつけたり、桶に水を貯めたり、洗濯物を乾かしたり等とろくな魔法も魔術も使えない。戦闘員でない者でも基本的に魔物を1人で狩れる程度には魔法が使えた500年前とは大違いだ。
ちなみに、現代の一般人の魔力量が平均500と例えると500年前の一般人は2500、戦闘員ともなれば5000代の物も居るだろう。この数字を見てもらえればその劣化がはっきりとわかるはずだ。
え、じゃあ俺は幾つかだって? まぁ、そこまで多くはないけど、ざっと計算しても4000の数倍かな。500年前は詳しく図る方法が無かったから曖昧だけどね。
しかしこれは500年前の最盛期の時代、現代の子供の俺じゃあさすがにそこまでは多くない。恐らく1万程度だろう。
え、それでも多いって? いや〜そんなに褒められると照れちゃうな〜
あぁ、それともう1つ。小さい頃に母さんの前で空属性の魔法を使った事があるのだがその時の母さんの反応が500年前とは明らかに違って少し気になった事があった。
詳しく説明すると500年前は空属性の使い手は稀でその数は千人に一人と言われていた。そんな珍しいはずの空属性を見たのにも関わらず母さんの反応はと言えば――
「あら、グレイは空属性も使えるの? 便利な魔法が使えて良かったわねぇ」
とこんな感じでいつも通りふんわりと褒められたのだ。可愛……じゃなくて、可笑しい。500年前は驚愕のあまり目が落ちそうになる奴も居たというのに。
だが、その理由はすぐに分かった。その事を父さんに聞いたら何でも人口増加に伴い空属性の使い手の数は500年前よりもはるかに増えており、今では百人に一人程度らしい。確かに他の属性の使い手に比べれば未だに少ないけどそれでも全く見かけないという程ではないようだ。
まぁ時代が進むんだ。変わるのは当然、逆に変わらない方がおかしいか。
そんなこんなで驚く事の多かった中等部入学当初だが、その後は割と好き勝手にさせてもらった。
授業免除に空き教室を研究部屋用に借りたりとその所業は到底中等部の学生ができるようなことでは無い。
確かに、中等部で習うことなんで500年以上も前に独学で学んでいる。それに加え魔法の腕や術式への理解も他の生徒はもちろん教師陣よりも遥に高かった。教師や学長からは学園の歴史上最も優れた生徒だの学園きっての天才などと言われていたがそれでも普通はこんな待遇有り得ないだろう。
にもかかわらず、一生徒でしかない俺のわがままを聞き入れてくれた学園にはとても感謝している。
そんな俺が現在どこにいるかと言えば、学園長室へと呼び出されていた。
(一体何の用だ? 特に問題は起こしてないんだが。まさか、今まで自由にさせてもらったツケを払わされるとか? 十分に有り得るな……)
そう考えている内に学園長室の前へと着き、俺は扉をノックして中はと入った。
「失礼します。来ましたよ学園長」
「おぉ、グレイ君。急に呼び出して済まないね」
「いいですよ、どうせいつもとやる事は変わりませんし。それで、用って何ですか?」
「それなら良かった。あぁ、用と言ってもだな、特に何かして欲しいという訳では無いんだ」
(お、そうなのか。じゃあツケを払わされる心配はしなくてよさそうだ。ふぅ、一安心)
「ただ一つ提案があってだな」
「提案、ですか?」
「そうだ。グレイ君、君さえ良ければリアスハイド学園の入学試験、受けてみないかい?」
ちょ、ちょっと待て……今、なんて言った?
「えっと……リアスハイドってあのリアスハイドですか?」
「あのリアスハイドだ」
「あのお隣にある貴族様たち御用達の学園の高等部、リアスハイド王立魔法学園ですか?」
「そのリアスハイドだ」
「……学長、その真意を聞いても?」
「君の実力ならあの学園でも十分やっていけると思ったからだ。それに、君の成績を見ても合格間違いなしだろう。もしかしたら学年主席も狙えるかもしれん!」
(確かに俺の実力であれば主席なんて余裕だ。本気を出せば良いだけだからな。だが、少し引っかかる所がある)
「なるほど。……で、本心は?」
「我が校きっての逸材を貴族の子供らに自慢したいです……」
「嫌だ、受けない」
(何か隠してると思えば、やっぱりかこのたぬき親父が!)
「仕方ないだろう〜自慢したいんだよォ! 特にあの学長には昔から何かと自慢ばかりされてきて……クッ! 思い出すだけでも腹立たしいわい!」
「だからって俺を大人の意地の張り合いに使おうとするな。それに俺を自慢しようとするの、これで何度目だ。俺はあんたの孫でもなんでも無いんだぞ!」
「そこを何とか、頼むよぉ〜!」
そう言って学長は机を乗り越え俺の腕をガッチリ両手で握ってくる。
あー、もう、鬱陶しい!
「あんたは子供か! 絶対に嫌だからな、受けないったら受けない!」
「はぁ、そうか。それじゃあ仕方ないか……」
「え?」
(何だ、いつもと違ってやけに諦めが早いな……)
「きっと優秀な生徒が揃うリアスハイドなら珍しい魔法を使う子もいるかと思ったんだがな……」
「……何を言って」
「王国最高峰のあの学園なら研究施設も充実してると思ったんだけどなぁ〜!」
「クッ……!」
「何なら、私からあっちの学長に直接、研究用に部屋を貸すよう頼むこともできるんだけどなぁ〜。もちろん、グレイ君専用の」
「……そ、そうだな。やっぱり考えるぐらいはしてやっても……」
「受けてくれないと言うのであれば、この申込書もここで破り捨てる事になるな。もう申込期限がギリギリで手に入らないんだけどなぁ」
そう言って学長は1枚の紙をヒラヒラとチラつかせる。
(クッ、このたぬき親父、どこまでも卑怯な手を使いやがって! 最初から俺が断れないように期限ギリギリに話やがったな!)
「はぁ、仕方ない。この話は無かった事に……」
「……かった」
「ん?」
「分かった! 受ければいいんだろ受ければ」
「おぉ、そうかそうか。受けてくれるか!」
「ったく……その代わり、今の件ちゃんとあっちの学長には言っといてくださいよ」
「嗚呼、分かっているとも」
(まぁこの3年間、何だかんだわがままが通ってきたのはこの学長のおかげな部分もある。最後の恩返しって考えればこれぐらい別にいいか)
「それで日時なんだが、明日の朝9時からだ。よろしく頼むぞ」
「は、はぁー!?」
そうして俺のリアスハイド王立魔法学園入学試験は突如決まったのである。