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閑話、娘の思惑

「貴様は何をやっているんだ!」


 ダァンとテーブルを叩き激昂する父に、思わず大きな溜息を吐いた。

 この人は叫べば事態が好転するとでも思っているのだろうか。

 そもそも策略にまんまと嵌ったのは自分だろうに。責任転嫁も甚だしい。


「お言葉ですがお父様。私は事前にお父様にお伝えしましたわね。まだ魔力の回復が終わっていないと。なのに私を送り出す事を決めたのはお父様では?」


 他領の貴族が自領の魔獣を倒した。単純にその事実だけが広まるならば良い。

 けれど、この領地には『古代魔道具使い』が居る。

 そして倒した人間はあの回復魔法の魔道具の使い手。

 となればまさか、領主の娘は倒せないと判断して逃げたのでは。


 そう思われかねないと判断したから、父は『古代魔道具使い』を送り出した。

 けれどそれは所詮噂だ。事実とは異なると突っぱねる事が出来た事。

 現場で実際に魔獣と戦って倒せなかった、という事実さえなければ良いだけなのだから。


「まんまと私を先に戦わせ、私では倒せないと認識させて、あの娘に戦わせる。最初からそのつもりだったのか、その場で思いついたのか・・・どちらにせよ決断はお父様の仕事ですわ」

「貴様がその場で断ればよかっただけだろう!」

「断る? 私が? 古代魔道具使いの私が? その時点で勝てないと言っている様な物ではありませんか。そもそも何もしないのも不味い、と思ったから面子の為に私をその場に向かわせたのでしょう。何よりも、私に、彼女の提案を、断る権利があるとお思いで?」

「ぐっ・・・!」


 忌々しそうに睨みながら、父はそれでも何かを言いたげな様子で押し黙る。

 それを見ていた母が立ち上がり、大げさに指を差して叫んだ。


「貴女、父親に向かって何なのですかその態度は!」

「お母さま、何なのですか、古代魔道具の使い手に向かってその態度は」

「なっ、今の貴女は所詮傀儡でしょう!」

「傀儡でも古代魔道具使いにしなければいけないのですよ。貴女が変わらず大貴族の奥方で居る為には。それすら分からない無能が母な私の気持ちも汲んで頂きたいですね」

「この・・・ひっ!」


 魔道具を手に持って母を睨み返すと、先程までの勢いが嘘の様に怯えだした。

 古代魔道具は未だ私の手の中にある。そしてこの古代魔道具は『自己防衛』なら使える。

 所有権を奪われた後はまだ不安だったけれど、魔獣退治で動かす事が出来た。


 ならリーディッドの言っていた事に嘘は無い。

 私はまだこの魔道具の『所有者』として居られる。

 父と母の判断も理解した。この二人はプライドよりも立場を選んだ。

 つまり私だけは安泰だ。彼女に媚びておけば何も問題は無い。もう遠慮は要らない。


「あ、あなた・・・どうしましょう・・・」

「くそ、せめて見ていたのがギルドマスターでなければ・・・!」


 傭兵ギルドのマスター。その肩書にはそれなりに意味がある。

 たとえこの街のギルドがチンピラの巣窟でも、それでも彼らを纏めている手腕が有る。

 それは同時に彼に信用が有るという事だ。その彼が私の戦闘を傍で見ていた。


 万が一彼が街で今回の事を吹聴すれば、それは事実だと判断されるだろう。

 魔獣退治へ向かう道中、私が一緒に歩いているのを見た人間もかなり多いしね。

 つまり私がグロリアより下だ、という事が周知の事実となってしまう。


「あなた、あの男は他の街のギルドマスターに話したりはしないでしょうか・・・」

「可能性が無いとは言えんな。奴は私の事を嫌っている様だからな」

「ごろつき共の纏め役ごときに良い様にされかねないんて・・・」

「ああ、不愉快にも程がある」


 それにギルドマスタ―であれば、別の傭兵ギルドのマスター達と会う機会が有る。

 今の彼らは傭兵とは名ばかりの組織だ。何でも屋ギルドに名前を変えれば良いのに。


 思考が逸れた。そんな彼らは定期的に情報のやり取りをしている。

 理由は単純明快。自領と他領、自国と他国、その違いを見比べて生き延びる為だ。

 自分の居る場所が不味いと判断したら、即座に避難する用意を常にしている。


 そしてギルドが逃げ出すという事は、傭兵も食べて行けはしないという事実。

 つまり傭兵ギルドの存在は『その国や領地が安定して運営出来ている』という指標。

 ただし不安定さは一攫千金に繋がる。本来傭兵とはそういう時にこそ稼げる職業だ。

 

 その辺りの匙加減も見定めないといけない以上、傭兵ギルドの頭に馬鹿を据える事は無い。

 勿論例外は常にあるけれど、基本的にギルドは傭兵が生き残る為の組織だ。

 なのに判断をする頭が馬鹿じゃ、お話にならないにも程がある。


 故にギルドマスターの言葉という時点で、それなりに信用がある発言となる訳だ。

 彼が今回の約束を破り、真実を他のマスターへ伝えていれば、その話は国中に広まる。

 他の貴族からすれば丁度良い噂話だ。下手をすれば家の立場が少々揺らぐ。

 

 けれどそれも心配は無いだろう。彼はリーディッドに手を貸していた。

 それにあの娘、グロリアを大分気に入っていた様だし。

 あの二人が不利になる事は、あの男は喋らないと思って問題無い。


 大体リーディッドの目的は面倒を起こさない事だ。この家は今まで通りでないと困る。

 勿論彼女に逆らえば敵対するつもりだろうけど、従っている間は何もしないはずだ。

 それでもこの二人にとって、自分達を脅かす存在は許容しきれないらしい。


「あなた、せめてギルドマスターだけでも暗殺を・・・」

「駄目だ。それは駄目だ。あの男は腕が立つ。数で囲むなら兎も角、暗殺となれば相当の手練れでなければ通用しない。それに失敗した時、あの田舎娘と手を組む可能性がある」

「では、数で囲めば・・・適当に罪状を作れば兵も動かせましょう?」

「傭兵ギルドと事を構える事になるぞ、それは。この街のごろつき共だけならば構わんが、国中のギルドから抗議が来るだろうな。馬鹿娘を自由に使えん今、それは得策ではない。下手をすれば魔道具使いが乗り込んできかねんしな。所詮ごろつきだ、後先を考えるか怪しい」


 あれは既に組んでいると思うけどね。だから手を出さないのが正解。

 本当にこの母は頭が足りない。保身の為に首を絞めてどうするのやら。

 それに父も後先を考えるか怪しいとか、盛大な自虐かと思い笑いそうになる。


「幸いはあの小娘がエシャルネを気に入っている事か・・・」

「話し合いの場に居られないと解ったら、何かを手渡していましたものね」

「ああ。それが小石の様な物という辺りが、まさに田舎の小娘と言った所だが」

「それを喜んで受け取った娘も神経を疑いますけど」


 エシャルネか・・・ま、精々あの子も私の役に立って貰いましょうかね。

 あの子がグロリアと仲が良ければよい程、私の立場も安定する訳だし、ね。
















「・・・大体そんな所でしょうか、あの姉の考える事は」


 建設的な意見が出ない様子にため息を吐き、姉の態度に更にため息が出る。

 話し合いの前にグロリア様から受け取った、黒くてとても小さな丸い物。

 父に「部屋に帰ってなさい」と言われた私に、彼女は慌てた様に手渡して来た。


 その丸い物から淡く紅い光が放たれ、今あの部屋で起こっている出来事が宙に映っている。


 お渡しくださったグロリア様は、私に渡す際に説明を濁した。

 ただ受け取って欲しいと、それだけを告げて。そして自室で一人になったらこれだ。

 最初はかなり驚いたけど、目の前の光景に段々心が死んでしまった。


「解ってはいましたが・・・本当に、自分の事しか考えていませんのね。グロリア様はこれを見せて何をさせたかったのでしょう。いえ、指示をしたのはお姉様なのかしら」


 グロリア様は少々思考が読めない。常にポヤッとして何処か他所を向いている。

 そして良く、魔道具とお話をしている。お人形とお話をする子供の様に。


 ただその魔道具を使って戦闘をする彼女の姿は、背筋が震える程に恐ろしかったけれど。

 アレはまるで別人だった。目の前の生き物を全て食らわんとする迫力に呑まれた。

 そういえばあの時も、あの丸い魔道具と話している素振りがあったっけ。


「・・・あれはやはり、魔道具が意思を持っているのかしら」


 我が家の古代魔道具も言葉を話し、戦況によっては意見を述べる。

 彼女の魔道具もその類なのかもしれない。

 ならこの映像は、もしかして魔道具が私に見せた?


「魔道具にも認めて貰えた、という事かしら。そしてお前はこうなるな、という警告?」


 それだけとは思えない。けれど警告も確かにある気はする。

 何だろう。何故私にこの映像を、この状況を見せたのか。


「・・・ああ、そういう事、ですか」


 やはりこの映像は警告だ。企みがあるとしても筒抜けだぞという意味の。

 たとえお姉様との交渉が上手く行ったとしても、自分を欺けると思うなよと。

 当然だわ。あの部屋での会話を、今こうやって見ていられるんだもの。


「ふふっ、怖いですわね。でも、それぐらいの方が安心しますわ」


 グロリア様の魔道具は、皆が思っている以上の魔道具だわ。

 こんな事が出来る魔道具なんて、私は初めて見たもの。

 手に入れたのが彼女で、そして彼女を保護したのがお姉様で、本当に良かった。


「・・・私は認めて頂きましたわ。精々短い絶頂を謳歌なさいませ」


 両親の話し合いを馬鹿にしたように見つめる姉に、聞こえないだろうけどそう告げた。

 そしてきっと、この言葉は魔道具にも伝わっているのだろう。

 けれど構わない。私とて傀儡なのだ。ならば何を隠す必要が有るのか。

 精々お姉様よりも役に立つ人形として生きてやろう。





 ・・・それにしても、あの姉の思考が解る、という点は何時も嫌になりますね。

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