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第80話、食べた物

「さて、報酬の話をしに行きましょうか」


 キャスさんがひと騒ぎした後、皆が落ち着いてからリーディッドさんがそう告げた。

 視線はギルマスさんに向いていて、彼はにこりと笑って頷いた。


「ええ、ギルドに戻って報酬を―――――」

「いいえ、貴方とではありません。領主様にですよ」


 今度はリーディッドさんがニッコリと答え、ギルマスさんが一瞬固まった。

 けれどすぐに動き出し、顎に指を当てて考える様子を見せる。


「今からすぐ会える、って事?」

「浴室に向かう前に使用人に声はかけておきました」

「それはまた・・・それで対応してくれる、って事よね?」

「ええ、先程使用人の方から、何時でも構わないとお返事を頂きました」


 そういえば風呂から上がった時、使用人さんに声をかけられていた。

 アレはそういう事だったのか。なら領主さんを待たせている事になる。

 偉い人を待たせると怒られるから、早く行った方が良いと思う。

 因みに魔道具使いの女性は既に居ない。お風呂から上がったら何処かに行った。


「・・・気になる事は幾つも有るけど、黙っておく事にするわ」

「あら、別に聞きたいなら聞かせてあげますよ? 後戻りが出来るとは言いませんが」

「勘弁して頂戴。今までの事は私が悪かったです。すみませんでした」

「解りました。謝罪を受け取りましょう。キャス、ガン、これで良いですか?」


 リーディッドさんが顔を向けて問いかけ、何となく私もキャスさんとガンさんを見る。

 すると二人は小さくため息を吐き、しょうがないと言いたげな表情を見せた。


「んー、了解。何時までもウダウダ言うのはどうかと思うしねー」

「俺も構わねえぞ。つーか言いそびれてたけど、俺は既に風呂場で謝られてるし、色々と事情を聞いた。そもそも俺はそこまで怒ってないしな・・・後はまあ、な」


 ガンさんはそこで私をチラッと見て、すぐに視線をギルマスさん向けた。

 私が何かしただろうかと首を傾げていると、リーディッドさんがニヤっと笑う。


「と、いう事らしいです。良かったですね」

「本当に良かったわ・・・貴女目が本気だから怖いのよ。でもまあ、これも自業自得だと思っておくわ。実際自業自得だしね」


 二人がリーディッドさんの言葉に応えると、ぐったりと項垂れるギルマスさん。

 全く解らないまま皆が怒っていて、全く解らないまま解決したらしい。

 私は結局最後まで何も解らないままだった。でも皆が納得してるなら別に良いや。

 皆が無事ならそれで良い。後はお腹いっぱい食べられたら嬉しい。


「・・・あれ?」

『どうした、グロリア』

「回復魔法、あんなに、使ったのに、お腹、減ってない、ですね」


 前回赤い光をいっぱい使った時は、倒れる程に力を使い切った。

 けど今回は花畑いっぱいに光を放ったのに、全然お腹が空いていない。

 それどころか力が溢れている様に感じる。ちょっと、おかしい。


『ああ・・・おそらくだが、あの魔獣は君と似た様な体質、だったのかもしれない』

「・・・私と?」

『あの魔獣が保有していたエネルギー・・・魔力が非常に多かったのだ』

「そう、ですか・・・その割に、弱かった、ですね」


あの魔獣がそんなに魔力をいっぱい持っていたなら、もっと強くてもおかしくないと思う。

実際私はガライドのおかげも有るけど、魔力が有れば有るほど強い攻撃を打てるし。

多分あの紅い光は、その気になれば私の全てを乗せて打つ事も出来る、と思う


「・・・なら、私とは、違う、様な?」

「ああ、力を使いこなしている君とは違うな・・・おそらく持て余していたのだろう。人を殺して食らって手に入れた魔力を。いや、あの生命力を考えると、生存に特化した能力だったのかもしれないな。生きる為に食らい、蓄え、更に食らおうと、か』

「生きる、ため・・・それは、確かに、同じ、ですね」


 あの魔獣は生きる為に人を殺して食べて、私も自分が生きる為に魔獣を殺して食べた。

 それはきっと同じ事だ。私もあの魔獣と変わらない。生きる為に、他の生き物を殺しただけ。

 何より私も魔獣も、魔力ごと全てを食らっている点が完全に同じだ。


「・・・ガライド、大丈夫、です。解って、ます、から」

『っ、そうか』


 ガライドは今、きっと私の為に、一つ言わなかった事が有る。

 けど幾ら鈍い私でも解る。ガライドが言った事を考えれば私でも思いつく。


『魔獣は人を殺して食い、私はその魔獣を食った。つまり私もその人の力を食った』


 直接食った訳じゃない。私が殺した訳じゃない。それでも彼らの力は私の中にある。

 つまり私は、人を食っても力が満ちる。人を食べる事に意味が在る。

 きっとガライドは言うのを躊躇った。言わないように誤魔化した。


 けど、そんな事は今更だ。私は今まで偶々人を殺さなかっただけ。

 もし闘技場で飢えている時、対戦相手が人間だったら食べなかったか。

 食べない。とは、言えない。きっと食べていた。生きる為に。死なない為に。

 あの声援に応えながら、肉片も残さず人を食べたに違いない。


 今日私がやった事も同じ事だ。私は生きる為に魔獣を食らった。

 魔獣に殺された人達を食らった。そうやって命を食らって生きている。

 だから運良く今まで人を食べなかっただけ。運良く殺さなかっただけだと解っている。


「私は、リーディッドさんが、好きです。ガンさんが、好きです。キャスさんが、好きです。屋敷の皆が、ギルドの皆が、街の皆が、友達が、好き、です。だから、人は、殺しま、せん」

『・・・そうか。私の心配とは少々違ったが、今はきっとそれで良いのだろう』

「違い、ました、か」


 てっきり私が人を食べる心配をしたんだと思っていた。

 けれどガライドは違う所の心配をしていたらしい。

 一体何の心配か気になるけど、今はこれで良いんだろう。


 私もそう思う。大事な人たちと一緒に居る為に、彼女達との約束を守る。

 余程の事が無い限り、私は人を殺さない。殺しちゃいけない。

 彼女達と一緒に居る為に、私はその約束を守り続ける。












 私が人を殺す時は、大事な誰かが殺されそうな時。

 その時は、たとえ相手が人でも、全てを食らってやる。

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