第79話、臭い移り
魔獣を倒して、花畑の毒も消えた。後は魔獣に殺された人達を外に出してあげよう。
そう思い彼等に近付こうとすると、ギルマスさんに肩を掴まれた。
ただその手はとても優しくて、私を気遣う様なふわっとした掴み方だ。
「グロリアちゃん、いいの。貴女はもう仕事をしてくれた。彼らの事は、私達に任せておいて」
「・・・わかり、ました」
素直に頷いて踵を返し、リーディッドさん達の元へ戻る。
すると彼女に優しく頭を撫でられ、キャスさんにギューッと抱きしめられた。
ガンさんは優しい笑みで私を見つめていて、リズさんも微かに笑っている気がする。
ちゃんとお仕事が出来たみたいだ。みんな褒めてくれた。
「さて、取り敢えず出ましょうか。外に居る連中にも、魔獣を倒した事を伝えないとね」
ギルマスさんの言葉に従い、皆で花畑の外に。
その際ギルマスさんが見張りの人達に指示を出して、花畑に人を送っていた。
多分あの人達が死んだ人達を運びに向かうんだろう。
「ギルドにも連絡送ったし、あとは・・・ねえリーディッドお嬢様、一つ良いかしら」
「・・・何でしょう、聞くだけは聞きますよ。後私をお嬢様と呼ぶのは止めて頂きたいですね。今の私はただの傭兵リーディッドです。宜しいですか、ギルドマスター?」
「あらごめんなさい。そんなに怒らなくても、ちょっとした軽口じゃないの」
「別に怒ってはいませんよ。ただ不快なだけです」
リーディッドさん良く家の人に『お嬢様』って呼ばれてるけど、嫌だったのかな。
いや、今の私はって言ってるし、お仕事中はそう呼ばれたくないって事かも。
でもリズさんが何度か呼んでた様な。家の人は良いのかな?
「で、何ですか?」
「大した事じゃないわよ。魔獣の近くに長時間居たせいか、鼻がマヒしてないかしら」
「あれだけの臭いを今はほぼ感じませんから、当然麻痺しているでしょう」
「あの匂い、解らないだけで服に付いてるわよね、確実に」
「グロリアさんは一番酷い臭いを発しているでしょうね。嗅覚が少し麻痺している私の鼻でも、彼女からは臭いを感じますから。洗って着替えさせてあげたいですね」
『そうだな。私は臭いを感じないが、かなりの臭気を放っている事は解る。臭いも分解出来ない事は無いのだが・・・そんな事にグロリアの力を使うのもな』
リーディッドさんとガライドに言われて、改めてすんすんと自分の臭いを嗅いでみる。
やっぱり臭いが解らない。多分今は、何の臭いも感じなくなってる気がする。
でも考えてみれば、魔獣があの臭いを出していたんだし、私は魔獣の中身を被っていた。
なら服にあの臭いが移ってもおかしくない、のかな。
「では一旦城に帰りましょう。すぐに風呂の用意をさせますし、服も洗わせますわ」
私から少し距離を取り、ハンカチで鼻を抑えながら魔道具使いの女性がそう言った。
彼女は嗅覚がマヒしていないらしい。相変らず嫌そうな表情をしている。
「そうですね! お姉様にしては珍しく良い提案だと思います! リーディッドお姉様、先ずは臭いを落としてから、後の話はそれからに致しましょう!」
「そう、ですね・・・そうしますか。ギルマスも一緒に如何ですか」
「あら、誘って頂けるならお言葉に甘えちゃうけど・・・良いの?」
ギルマスさんはフッと笑いながら問い、けれどリーディッドさんは静かな目で返す。
「構いませんよ。貴方が悪意を持ってやった事は不快ですし、その分を報酬に上乗せして貰う気は満々ですが、貴方の気持ちも解らなくはありませんので」
「そ。じゃ、甘えさせてもらうわ」
ギルマスさんの悪意? リーディッドさんに何かやったのかな。
でも彼の気持ちも解るって言ってるから、そんなに悪い事じゃないのかも。
私には何も解っていないし、あんまり気にしないで良いか。
「じゃ、行きましょう!」
エシャルネさんがニコニコしながら先導し、皆一緒に城へ向かった。
そして迎え入れてくれた兵士さんに事情を伝え、直ぐに風呂の用意がされる事に。
リズさんは私達とは別行動を取ろうとしていたけど、リーディッドさんが引き留めた。
「貴方は他の者達に事情を伝え、着替えの用意をお願いしたら戻って来なさい。その状態で普段通りの仕事など邪魔でしかありません。どうせ洗うのですから一緒にきなさい」
「畏まりました。ではグロリアお嬢様のお手伝いをさせて頂きます」
「・・・まあ、良いですよ、それで。何時もの事ですし」
普段も良くリズさんに洗われているから、確かに何時もの事だと思う。
ただ洗われるのは私だけで、彼女は服を着たままだけど。
今日は一緒に入る訳だし、自分の事を優先してくれて良いんだけどな・・・。
「じゃ、ガンって言ったかしら? 男同士、裸の付き合いと行きましょうか。ねえ」
「まって。ちょっとまって。俺この人と二人で入んの何か怖いんだが。誰か助けて」
「ガン、頑張ってね。応援してるから」
「健闘を祈ります、ガン」
「おほほ、お仲間も応援してくれているし、仲良く入りましょうねー」
「何に頑張って健闘しろって言うんだお前らは! いやまって、ちょっと、放してー!」
『ガン・・・何故お前は何時もそんな不憫な役回りなんだ・・・』
ガンさんは助けを求めるも、誰も手を伸ばす様子は無い。
私はリーディッドさんとキャスさんに掴まれて、動けずにオロオロするしか出来ない。
彼はそのままギルマスさんに引きずられ、私達とは別の場所へ案内されていった。
ガンさんお風呂嫌いなのかな。でも銭湯に行った時は嫌がってなかったような?
ギルマスさんが大きいから威圧感が有って怖いのかも。私もちょっと驚いたし。
でも仲良く入ろうって言ってたし、多分大丈夫、だよね?
「さ、グロリアちゃん、私達もいこっか。ガンは一歩大人になって帰って来るよ」
「もしかしたら泣いて帰って来るかもしれませんが、その時は慰めてやりましょう」
「お姉さま方、本気か冗談か解り難いですよ・・・」
「どっちでも良いわ。早く行きましょ。ああもう、髪にまで臭いが付いてそうだわ・・・」
彼等を見送ると私達も使用人さんに案内され、皆で同じ風呂に入った。
リズさんに何時もより念入りに洗われ、皆もかなり丁寧に洗っている様だ。
風呂を上がった頃には鼻が治っていたけど、その頃には石鹸の香りしか感じなかった。
ガンさんはぐったりしてた。何があったんだろう・・・。
『グロリア、余り聞いてやるな・・・いや、聞かない方が良い』
ガライドにはそう言われたから、何も聞かずに頭を撫でてあげた。
「きぃー! 悔しくなんてないんだからね! 私なんて良くグロリアちゃんに頭を撫でて貰ってるんだから! 頑張ったね、キャスさん、って言って貰えるんだからね!」
「それ貴女がお願いしてやって貰ったやつじゃないですか・・・」
「ふーん、そんな事言うんだ。この間リーディッドも一緒に撫でて貰ったくせにー」
「なっ、そ、それは、グロリアさんの視線に負けただけで、私から望んだ訳じゃ・・・」
「何ですかそれ。リーディッドお姉様は撫でられるのがお好きなんですか? そんな、まさかそんな、お姉様が・・・可愛らしい! 私が、私がお二人を撫でてあげますから・・・!」
「わーい、エシャルネ様やさしーい」
「ああもう、私は要りません! 二人とは違いますから落ち着いて下さい!」
『昨日からキャスがやりたい放題だな。移動と城内で多少我慢していた反動か?』
キャスさんが悔しがってたけど、エシャルネさんに撫でられてるから大丈夫、かな?




