第78話、浄化
「もぐもぐ、んっく・・・動かなく、なりました、ね?」
『ああ。どうやら死亡した様だ』
魔獣の根を兎に角食べ続けていたら、途中で根が動かなくなった。
また死んだふりかなと思ったけど、ガライドが言うなら大丈夫だろう。
『だが植物の生命力は中々侮れない。その上魔獣になった植物だ。死亡したからと根を放置すればそこから再生する可能性がある。全て食らい尽くすのが得策だろう』
「もぐもぐ・・・わかり、ました・・・もぐもぐ・・・」
ガライドの指示通り手元の根を食べたら、落ちている根を拾ってまた食べる。
そして全ての根を食べ尽くしてから、ガライドにもう無いか確認を取った。
『・・・反応は無いな。完全に倒したと考えて大丈夫だろう。とはいえ種子の類が万が一既に撒かれているとすれば、少々面倒な事にはなるが・・・いや、行けるか?』
「?」
ガライドが少し悩む様な声を上げ、少し動かなくなった。
首を傾げながら彼の答えを待ち、答えが出たのかガライドはこっちを見た。
『グロリア、少々魔力を使うが、この土地の毒素を抜いてしまおう』
「そんな事、出来るん、ですか?」
『私と君ならば可能だ。ただしかなり魔力を使う。枯渇する程ではないが、回復した分の殆どを使う事になるだろう。それでも構わないか?』
「やらないと、また、あの魔獣、出て来るんです、よね?」
『解らん。だが可能性は有る』
「なら、やり、ます」
あの魔獣がまた出てきたら、また誰かが死んでしまうかもしれない。
誰かを助けようとした人が、助けられずに死ぬかもしれない。
以前の私ならこんな事は全然気にしなかったと思う。
でも今のは私には、その事実はどうしても無視できない。
『解った。ではグロリア、この畑の毒を抜く為に・・・回復魔法をかけてくれ』
「毒を、ぬく、回復・・・やって、みます」
回復魔法の為には手足を光らせないといけない。
普段手足が光る時は、戦意や怒りで満ちている時だ。
だからそれ以外の事で光らせるのは、頷いたもののちょっと自信がない。
けれどガンさんにかけた時の事を思い出して、膝を曲げて地面に手を突く。
「毒を抜く・・・毒を抜く・・・」
ブツブツと呟きながら腕に力を込めてみる。けれど腕は光らない。
何か間違えているんだろうか。けれど何が正解なのかも解らない。
どうしよう。指示された事が出来ない。やらなきゃいけないのに。
『・・・グロリア、少し顔を上げて、前を見てくれ』
「前?」
言われた通り顔を上げると、そこには酷い状態の畑が広がっている。
そしてその畑に、ここで魔獣に殺された人達の死体が転がっていた。
『この畑を管理していた従業員の為に正常に戻してやろう。人を助けに駆け付けた者達の為に、その遺体から毒を除去してやろう。彼らの死を悼む事が出来る様に、彼らの遺体を引き上げられる様にしてやろう。グロリア、彼等を、救ってあげるんだ。助けて、やるんだ』
「すく、う・・・あの人達を・・・たす、ける・・・」
突然紅い光が体から迸った。彼らを助けてあげたいと、強く思ったからだろうか。
光が広がる。畑を覆うように広がって行く。死んだ人達を優しく包んでいる。
その光景に少し胸が苦しくなり、同時に助けてあげられたと思えた。
「・・・おやすみ、なさい」
『ああ、そうだな・・・安らかに眠られる事を祈ろう』
自然と出た言葉を、ガライドが優しい声で肯定してくれた。
彼等は眠った訳じゃない。その目は二度と目覚めない。
けれどそれでも、私はその言葉が良いと思った。
そして覚えておこう。名前も知らない人達で、顔も崩れてしっかりとは解らない。
けれどこの人達は確かに生きて、そして誰かを助けた人達なんだ。
私が何時か死ぬその時まで、この優しい人達の事をしっかりと覚えておこう。
「・・・終わり、ました、か?」
そして光がゆっくり収まると、地面の色から赤みが消えている気がした。
死んだ人達の残った衣服や体からも、赤い色が消えている。
何となく自分の服を見ると、赤い汁を被ってい変わっていた色が戻っている様な?
『あの紅い組織がまるまる毒素であり、毒素を分解する事によって無色になった様だ。視覚的に毒が抜けたというのも、彼等にとっては解り易い安心になるだろう。良くやった、グロリア』
そっか、だから赤い色が消えていたのか。上手く行って良かった。
これで私も少しは助けられたかな。この人達の事を、少しでも。
「グロリアさーん! もしかして毒を消したんですかー!?」
じっと倒れている彼らの事を見つめていると、リーディッドさんの声が響く。
なので頷いて返すと、彼女達は下へと階段を降りて来た。
ただ魔道具使いの女性だけは動かず、つまらなそうな顔でその様子を見ているけど。
私も彼女達の元へ行こうと、トテトテと歩き出した。
「嘘みたいね・・・暫くは近付けないと思ってたんだけど・・・」
「グロリア様、凄いです!」
ギルマスさんは下に降りると、土の様子を見て驚いている。
エシャルネさんはキラキラした瞳を向けるけど、凄いのは私じゃない。
「凄いのは、ガライド、です」
光も消えて黒くなった腕を前に出し、私の傍を飛ぶガライドを見る。
私にあんな事は出来ない。全部ガライドが居るおかげだ。
ガライドが居るから戦えた。あの人達を、助けられた。
「それは違うわ、グロリアちゃん」
けれど私の返事を聞いたギルマスさんが、否定を口にして私の前でしゃがんだ。
それでも私より高い彼を見上げると、彼は優しい笑みを見せて私の頭を撫でる。
「確かにその魔道具の力は凄いわ。けれど道具は使う人間によってどうとでも変わる。貴女は魔獣を倒して、彼等を助けてくれた。それどころかこの土地ごと清浄化した。それは貴女だから出来た事で、貴女がやった事よ。だから称えられるべきは貴女自身よ」
「そう・・・なん、でしょう、か」
良く解らない。私は私の出来る事をやっただけだし。
でも皆が喜んでくれたなら、きっと間違った事はしていないと思いたい。
「にしても帰りどうすっか。その両手そのままじゃ目立つよな」
「ガンの上着着せてあげたら? ガンの袖の長さなら手も隠れるでしょ?」
「え、いや、まあ、グロリアが嫌じゃないなら良いけど・・・キャスかリーディッドの服の方が良いんじゃねえの? 男の服よりさ」
「グダグダ言わずに早く脱ぎなさい。ほら」
「いだだだだ! リーディッド、髪! 髪引っ張ってる! 痛い!」
言われてふと気が付いた。両手が黒い。つまり手袋が、無い。
両腕とも肘まで手袋が無くなっていて、残っている部分もボロボロだ。
何時からだろう。戦っている時は全く気が付かなかった。これじゃ目立つ、かな。
「ほんとコイツらひでぇ・・・ほら、グロリア。今はこれでちょっと我慢してくれな」
「はい・・・」
申し訳なく思いながら、ガンさんの服を受け取り羽織った。
彼の袖は当然私の手より長くて、袖から手が出なくて先が垂れる。
「・・・えへ」
ただ、彼の服を着ているという事実を思うと、何故か笑みが零れた。
『私はあの笑みをどう受け止めれば良いのだろう・・・いや保護者への好意。うん、そうだ』




