表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/99

閑話、大人の後悔

 古代魔道具の使い手。グロリアという名の少女。

 あの子に対し最初に抱いた印象は、意思の無いお人形。


 自ら意見を発する事は無く、常に周囲の人間の顔色を窺う少女。

 強大な古代魔道具を有してはいても、貴族の指示に従うだけの小娘。

 貴族の為に戦うだけの、政治の闘争に使われるだけの人形。そう感じた。


「くだらないわね、世の中ってやつは」


 あの子に罪が在る訳じゃない。けれど同時に忌々しいと思ってしまう。

 何故強い意志を持つ人間に、その力を与えてくれなかったのかと。


 あの子を連れた、リーディッドと名乗った娘が貴族な事は知っていた。

 だから彼女に対してやった事は、半分我が儘な八つ当たりに近い。

 彼女が悪い訳ではない事は解っている。悪いのは対応の遅い領主だ。


 もっと言えば、古代魔道具の使い手でありながら、ふらふらと好き勝手に生きている娘。


 あの娘が貴族の地位を捨て、恩恵を受けずに生きているというのであれば納得出来る。

 けれどあの娘は貴族だ。民の税で生きている。その為の義務を果たすべき立場のはずだ。

 なのに娘は来なかった。領民の危機に応えなかった。その間また命を落とした馬鹿が居た。


「すぐに動いてくれたら、助かったかもしれないのに・・・!」


 領主からの返答は、今すぐ娘を動かす事は出来ない、の一点張りだ。

 その上あのクソ領主は、私の神経を逆なでしやがった。


『被害は花畑と従業員に、幾らでも替えのきく程度の傭兵だろう。慌てる必要もあるまい。報告を聞くに魔獣は移動をしない。なら緊急を要するとは思えんな。兵を出す必要も無いだろう』


 今思い出しては腸が煮えくり返る。その場でくびり殺してやろうかとすら思ったわ。

 替えがきくですって? 人間をなんだと思ってんのよアイツは!

 それでも我慢はした。娘を動かす事自体は了承したと返して来たから我慢できた。


 いいえ、たとえ動かしてくれなかったとしても、我慢するしかなかったでしょうね。

 私がちゃんと押さえておかないと、また被害が出る可能性がある。

 幸いは衛兵も下っ端は友好的な事よね。住民の避難の相談は受けてくれたし。


 とはいえその後も暫く事態は動かず、そしてグロリアちゃんがやって来た。

 だから好都合だと思って彼女を使い、あの魔獣を倒させるつもりだった。




「・・・無駄じゃ、ない、です」




 そんな自分を責めた。本当に自分は馬鹿かとなじった。

 死んだアイツ等の為に涙を流す少女を、都合よく利用しようとしていた自分が腹立たしい。

 何処が人形だ。悲痛な目で拳を握る彼女のどこに意思が無いなんて言える。


 私も同類だ。領主を敵視しておきながら、やっている事は自分も変わらない。

 現れた魔獣が自分の手におえないからと、こんな優しい子を戦場に立たせた。

 義務も義理も無いはずの、こんな優しい少女をだ。


 それでも、後悔と自責があっても、今更無しだなんて言えない。


 あの魔獣は危険だ。街中に現れた魔獣にしては危険過ぎる。

 今は動いていないから良い。けどもし動き始めたらどうなる。

 下手をすれば、この街の住民が大勢死ぬ。


 事が終わったらこの子に改めて謝ろう。馬鹿な大人として頭を下げよう。

 きっと優しいあの子はやらないと思うけど、死なない程度に殴られても良い。

 その代わりどうか、アイツ等の仇を討って欲しい。


「いき、ます!」


 そう思いながら彼女が飛び出すをの見送り、そして一瞬で勝負が付いた事に驚く。

 本当に一瞬の出来事で、魔獣は碌な反撃が出来ていなかった。

 飛び降りたと思ったら一瞬で距離を詰め、毒も無視して花を粉砕したのだから。


 赤い毒の中で紅い髪とドレスをなびかせ、たたずむ姿にゾクリとしたもの感じる。


 毒がまるで効いていない。古代魔道具の回復魔法とはここまで凄い物だったのか。

 そして何よりも彼女の力。アレは本当に、魔道具を持っているからなのか。

 明らかに戦い慣れている動きだ。魔獣の反撃に一切怯む様子無く拳を撃ち抜いた。


 アレは、なんだ。私が今まで見ていた優しい娘は、一体どこへ行った。


「えっ、な、なにしてるの、あの子!?」


 グロリアちゃんの変わりように面食らっていると、彼女は更に驚く行動に出た。

 粉砕して飛び散った魔獣を拾い、何の処理もせず食べ出した。

 あんな事をしたら魔獣の魔力にやられて倒れる。一体何を考えてるの!?


「ちょ、ちょっと、アンタ、あの子の保護者でしょ! 止めなくて良いの!?」

「止める必要はありません。アレはグロリアさんにとって日常ですから。魔獣と戦って、勝って、食べる。それが彼女の闘う理由で、私はそんな彼女を止める術が有りません」

「魔獣を・・・たべる、為に、戦う・・・?」


 彼女の言っている事が解らない。何でそんな事をする必要が有るのか。

 魔獣を食べるだけなら、今すぐ食べる必要なんかない。

 処理をすれば食べられるんだから。何よりもあの魔獣は毒を持っていたのに。


 そのまま食べたら毒に侵されるはずだ。なのにあの子は構わず食べ続けている。

 魔獣からしたたる汁で紅い服が更に紅く染まり、口も顔も染まって行く。

 それはまるで紅い戦化粧でもしている様で、未だ鋭い目が私の背筋を震わせた。


「なあ、キャス。あれってもしかして、まだ魔獣生きてるんじゃねえか?」

「え、嘘・・・あ、ほんとだ、生きてる。上手く死んだふりしてるけど、よくよく見てみたらまだ力が残ってる。ううん、内側に抑えて解り難くしてる。良く解ったね、ガン」

「グロリアの目が鋭いままなんだよ。明らかにまだ戦う気だ」

「倒していない事が解っているけど、確実を期す為に花を先に食べた、という所でしょう。いえ、グロリアさんは全てを食らいつくすつもりでしょうね」


 まだ、戦いは終わっていない。そうか、彼女のあの寒気がする迫力はそのせいか。

 等と思いながら話を聞いていると、グロリアちゃんが飛び散った魔獣を食べきった。

 すると彼女は蕾が在った所に近付き、茎のような部分を掴む。


 そして踏ん張る様子を見せると、そのまま魔獣を引き抜こうとしていた。

 根がずるりと動き、けれど抵抗しているのか土ごと動いている。

 けれども地面を掴む根など知った事かと、彼女は少しずつ魔獣を地面から引きずり出す。


 凄まじい力技だ。あれが古代魔道具の力。彼女の手足の魔道具の力。


「っ、なん、て、戦い方・・・」


 それだけでも驚いたのに、彼女はまだ私を驚かせる。

 魔獣の根をある程度引き抜くと、彼女は魔獣にかぶりついた。

 吹き出す紅い汁を被るのもお構いなしに、毒など知った事かという様に。


 暴食。そう形容するのが相応しい姿。ただただ食らう為に戦う姿。


 食らって、食らって、そしてまた引き抜き、また食らう。

 命を食らって滅ぼす様に、魔獣の命を食らい続ける姿に戦慄を覚える。

 そこにさっきまで涙を流していた、優しいグロリアちゃんの面影は一切ない。


「怖いわね・・・けど、何故か、綺麗に思えるわ」


 紅蓮に染まる彼女の姿は恐ろしい。最早化け物という言葉がふさわしい様相だ。

 強大な魔獣をものともせずに食らいつくし、返り血を浴びながらなお食らう。

 けれどのその恐ろしい姿に、目を引き付けられる美しさを感じるのも確かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ