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第60話、会談

「歓迎感謝致します」


 リーディッドさんが『淑女の礼』と言っていた動きを見せ、私も慌ててそれに倣う。

 彼女がこの動きを見せた時は、その後に続く様にといわれている。

 その後でリーディッドさんはおじさんの正面に座り、私はその隣に座った。


「お父様、私には何か有りませんの?」

「・・・お前も座りなさい」

『何とも仲の良さそうな親子だな・・・』


 古代魔道具使いの女性が問うと、おじさんの表情が少し険しくなった気がした。

 けどすぐに笑顔に戻り、女性も座るように促す。ただしその表情は少し不服そうだ。


 この人が彼女の父親。つまりここの『偉い人』なんだ。

 私には険悪そうに見えたけど、ガライドは仲が良さそうに見えるらしい。

 ガライドは良く私に解らない所を見ているから、多分彼の方が正しいんだろう。


「さて、まどろっこしい自己紹介は要りませんよね」

「こんな部屋で待っていた以上、建前の挨拶は要らんさ」

「では早速本題に。先ず古代魔道具の件ですが、状況は認識出来ていますか?」

「ああ、今はそちらのお嬢さんが所持者になっていると手紙で確認したが・・・古代魔道具は娘に持たせているのだね。てっきり話し合いが終わってから渡して貰えると思っていたよ」


 おじさんはちらっと娘さんを見てから、その手に在る『箱』に目を向ける。

 あの古代魔道具はずっと彼女が持っていた。屋敷に居た間も、移動の間も。

 私は正直に言えば心配だけど、ガライドが大丈夫だというので気にしない様にしている。


「この場が無駄にならないのであれば、彼女が魔道具を持っていなかった理由を作る方が面倒ではありませんか。惚けないで貰いたいものですね。解っていて言ってるでしょう」

「だがこの馬鹿娘に持たせるよりも、下の娘の方が良いのでは、と思うのだけどね」

「・・・もう一度言いますよ。惚けないで下さい」


 おじさんの返事が気に食わなかったのか、リーディッドさんが目を細める。

 けれどおじさんはにこやかな態度を崩さず、むしろ更に笑みを深めた。

 後『下の妹』の所で一瞬女性がビクッとした様に見えたけど、やっぱり妹さんが怖いのかな。


「いやいや、お待ち頂きたい。惚けている訳ではないよ。本当に古代魔道具の使い手は馬鹿娘で宜しいのかと思ってね。貴女はこの馬鹿娘に相当面倒をかけられたのだろう」

「構いませんよ、そこの馬鹿娘で。利口な者の方が扱い難いでしょう、貴方も」

「そういう事か。解った。今後も変わらず馬鹿娘を我が家の古代魔道具使いとして扱おう」

『馬鹿娘、というのは共通認識なのだな・・・私も反論は無いが』


 三人が三人『馬鹿娘』と言い、言われた本人は気に食わなさそうだ。

 けど反論する様子が無いという事は、気に食わなくても納得しているのかな。


「そして貴方の家を守る対価として、グロリアさんと私の家の後ろ盾になる様にお願いします」

「当然の要求であろうな。私でも同じ事を言う」

『・・・何一つ動じる様子を見せんな。要求は全て想定済み、という事か』


 ガライドは少し不服そうだけれど、お願いを聞いてくれるなら良いんじゃないかな。

 話し合いがちゃんと進めば、リーディッドさんにとっては良い事なんだし。


「他には何かあるかね」

「今の約束さえ守って頂けるなら、これ以上の要求は有りませんよ。代わりに森で取れた素材を貴方に幾つか融通しましょう。それである程度外面は保てるでしょう?」

「いいのかね。それでは君の家が私に下った、と見る者も出て来るが」

「そう思いたい者にはそう思わせておけば良いでしょう。どうせその程度の相手は貴方に手出しなど出来ませんし、私達に実害が無ければどうでも良い事です。三下の評価など興味も無い」

「三下か。くくっ、ではその様に」


 リーディッドさんが静かに告げた事に、おじさんが笑顔のまま答える。

 すると女性が深く息を吐き、それは安堵の様子に見えた。

 そんな彼女に対し、リーディッドさんが冷たい目を向けながら口を開く。


「命拾い出来て良かったですね。貴女のお父様の聞き分けが悪ければ、楽しい事になっていたでしょうけど・・・幸か不幸か話が纏まってしまいました。拾った命を大事にして下さい」

「寛大な処置に感謝いたしますわ・・・」

『話が纏まらなければ命が無かった訳だからな。生きた心地がしなかったといった感じか。とはいえ、この女がやった事を考えれば、余りに軽い罰でしかないが』


 再度深く安堵の息を吐く女性を見て、ガライドが気に食わなさそうに呟く。

 私も胸にもやっとしたものが有るから、きっと何か嫌な気持ちなのだろう。

 それを『どう嫌なのか』と説明するのは難しいけど。


「ところで古代魔道具を変わらず持たせて貰える事は有りがたいが、娘は全く魔道具を使えなくなった、という認識で良いのかな。それとも一応は使えて、お嬢さんが登録者という事かね」

「自己防衛の際には使える様にしています。それ以外で使うのであれば、グロリアさんに許可を仰ぐ必要が有りますね。あくまで持ち主はグロリアさんですから」

「つまり、使い手をこちらで勝手に変える、という事も不可能な訳だな」

「・・・ええ、そうなりますね」

『厳密には単純な自己防衛以外でも使えるが・・・それは黙っておくが良いか。使えると思った馬鹿が何かやらかしても面倒だ。基本使えないと思って貰おう』


 私もそれが良いと思う。あの人に気軽に魔道具を使わせるのは良くない。

 使えなく出来る様にしておけるなら、そのままにしておきたいな。


「他に要求が無いのであれば、後の事はこちらのやり易い様にやらせて貰うが、良いかね」

「構いませんよ。今まで通り、私達に面倒な干渉が無い様にして頂ければ」

「では数日泊って頂こう。今後の関係を円滑に進める為に、妻や下の娘とも顔を合わせて頂きたい。宜しいかな? 建前は、古代魔道具の使い手を持つ同士として関係を築く、という事で」


 まさか『偉い人』の家族とまだ顔を合わせないといけないんだろうか。

 それはちょっと嫌だな。特に『怖い妹』さんに会うのが凄く嫌だ。

 出来れば帰りたい、と思っていたけれどリーディッドさんの返事で叶わなくなった。


「・・・解りました。こちらも多少街を回りたいので構いませんよ」

「それは良かった。ではこれから末永く、お互いに良い付き合いをしていこう」

「ええ・・・お互いに、ね・・・」


 それで話は終わり、私達は部屋を出てガンさん達と合流。

 皆で何処かの部屋に連れて行かれ、暫く泊まる部屋だと言われた。

 早く帰りたい気持ちは有るけど、きっとこれは必要な事なんだと我慢するしかない。


『帰れないのは残念だったな。だがこれで土産を悩む時間が出来た、と考えてはどうかな』

「っ、そう、でした。頑張って、皆の、お土産、選び、ます・・・!」

『・・・素直な所が可愛いのだが、時々素直過ぎて少し心配になるな』


 ただ落ち込んでいるとガライドにそう言われ、確かにと思った。

 帰れない事を落ち込んでいる場合じゃない。悩んでただけで答えが出てないんだった。

 出来ないことを嘆くよりも、やらなきゃいけない事を頑張らないと!


『素直と言えばあの男、要求を了承するのが最善と判断しての事ではあろうが・・・余りに素直過ぎて不気味だな。使い手を変えられるかどうか確認してきた辺り、何か思う所が在る気がするが・・・さて』

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