第55話、傀儡
「上位端末、だと? 何言ってやがる。おい、とうとうぶっ壊れたのか!?」
『否定。当機ノ自己修復機能健在。システム正常。問題無シト判断』
「ふざけんな! なら何で今撃たなかった!!」
『自己防衛以外ノ戦闘使用ヲ求メル場合、上位端末所持者ニ許可申請ガ必要。仮登録者ニハ機能ガ制限サレル』
「仮・・・登録者・・・? おい、ちょっと待てよ、笑えねえ冗談だぞ・・・!」
女性は光を消した魔道具の言葉に、声を荒げて文句を言う。
その間も私達から目を離さない辺り、彼女は闘う意思がある様に見える。
けれど魔道具の返答が想定外なのか、段々と勢いが落ちて行く。
「何を・・・何を、しやがった・・・!」
けれど彼女は魔道具の筒を私に向け、目に殺意が宿るのを感じた。
思わず構えた瞬間『ブーー』っと変な音が部屋に響く。
『使用登録者ニ武器ヲ向ケタ事ヲ確認。システム強制終了』
「な、ちょ、はぁ!?」
そして魔道具は突然四角い形に戻り、ゴトンと床に落ちた。
まるで「お前に使わせる気は無い」とでも言う様に。
「な、何だよこれ、何で使えなくなってる! 何で仮登録者になってんだ! 私が正式登録者のはずだ! 私がこの魔道具の使い手なんだ! 私しか使えないはずなんだ!!」
「ええ、そうでしょうね。本来は」
ポカンとする私と焦って叫び出す女性に、リーディッドさんの冷たい声が届く。
そこで彼女はリーディッドさんに目を向け、私も同じく目を向けた。
「使用登録者、でしたっけ。貴方の家系の女にしか本来はなれないんでしたよね」
「そ、そうだ! 女が中々生まれなくて、やっと生まれた魔道具使いなんだ! 先代のババアがやっとくたばって、私が今代の古代魔道具の登録者なんだぞ!」
「ですがそれも終わったようです。何せグロリアさんが登録者になったらしいので」
「はぁ!? ふ、ふざけるな! その魔道具は私の家の血筋にしか反応しない!!」
「らしいですよ、グロリアさん。現実を見せてあげて下さい」
そこでリーディッドさんの優しい目と、女性の血走った眼が私に向かう。
向けられた私はまだ状況が把握できなくて、オロオロしながら判断に困っていた。
『グロリア。困惑するのは解るが、取り敢えずあの『箱』に手を伸ばしてくれ』
「・・・わかり、ました」
良く解らないけれど、ガライドの言う通り四角い『箱』に手を伸ばす。
すると箱はさっきと同じ様に『システム起動』と言って筒の形になった。
「う、うそだ・・・こんなの、うそだ・・・嘘だ嘘だ!!」
「喚いても現実は変わりませんよ。これが現実です。彼女が二種の古代魔道具の使い手です」
「た、たとえ起動したとしても、登録者だとは限らねえ! そうだろ!」
「往生際が悪いですね・・・グロリアさん、空に向けて撃って下さい。軽くでお願いします」
リーディッドさんは窓を開けると、促す様に手をかざす。
ただそう言われても、私にはこの魔道具の使い方が解らない。
ガライドは何となく手足として動くけど、これは明らかに別物だし。
『グロリア、砲身を・・・小さくなってる方を窓の外に出してくれ』
「えっと・・・こう、ですか?」
『ああ、そうだ。それで良い。今日の所は此方で補助をする』
『エネルギー充填開始・・・完了。発射』
困惑しつつ筒を固定していると、軽く魔力が吸われる感じがして筒が紅く光り始める。
そして『発射』の声と共に紅い光が空に伸びて行き、静かに消えて行った。
「さて、ご納得いきましたか、古代魔道具使いの名家のお嬢様?」
リーディッドさんが女性に声をかけると、彼女は愕然とした表情で腰を落とした。
「嘘だ、嘘だ、私は、私はあれが有るから、あれが無いと、私は・・・!」
「あら、馬鹿女でも古代魔道具が無くなったらどうなるか、良く解っているみたいですね」
「っ! た、頼む! 助けて、助けてくれ! な、何をしたら良い! その女が古代魔道具を使えるのに私を生かしてるのは、私に使い道が有るからだろ!?」
『・・・悪知恵だけはきっちり働く女だな。甚だ不愉快だ。良くあれだけ悪態をついた相手に、恥ずかしげもなく命乞い出来るな。いや、だからこそ、あんな非人道行為が出来るのか』
女性はリーディッドさんに掴みかかろうとして、兵士さん達に防がれた。
そんな女性を見て、ガライドはとても不機嫌そうな言葉を漏らす。
けれど私には相変らず状況が解らなくて、ただただ話を聞くしか出来ない。
「ええ、その通りです。貴女を殺してもどうにかなるでしょうが、利用した方が価値がある」
「な、なんだ、何でもやるぞ。何でも言ってくれ!」
「・・・せめて淑女の体を保つ程度の事はして欲しいですね」
「わ、解りました・・・」
女性は大人しく椅子に座り、リーディッドさんも椅子に座る。
領主さんも静かに席に付いて、兵士さん達は女性から離れた。
「グロリアさんも、お座り下さい」
「は、はい」
その様子をポーッと見ていると、座るように言われて慌てて動く。
ただ席を兵士さんが引いてくれて、お礼を言ってから席に付いた。
「先程の光景を見ての通り、この魔道具の正式な使用者はグロリアさんになっています。この事を国に報告すれば、間違い無く貴女は死罪でしょう。いえ、死罪で済めばいい方、でしょうね」
「は、はい。わかって、おります」
「宜しい。では続けましょう。ですがそうなると、貴女の家も責任を問われるでしょう。貴女の家は代々『古代魔道具使い』を生むからこそ、今も高い地位を確約されている家ですから」
「・・・はい」
「次に国が荒れます。そして本格的なグロリアさんの取り合いが始まる。私としては、そんな面倒は避けたいんですよ。ただでさえ本当はこんな交渉なんてしたくもないのに」
『ははっ、本気で嫌そうだな』
彼女の言葉にガライドが苦笑をして、見ると領主さんも苦笑していた。
リーディッドさんに睨まれると、すっと怖い笑顔に戻したけど。
「なので貴女は今までと変わらず『古代魔道具使い』で居続けて貰います。後は簡単な話です。貴女の家が、この家とグロリアさんの後ろ盾になれば良いだけですよ。勿論貴女が傀儡に相応しくないと判断すれば、貴女を嫌う歳の離れた貴女の妹が『古代魔道具使い』になるでしょうが」
「っ、それは・・・どうか、お許しください・・・!」
リーディッドさんが告げた内容に聞いた女性は目を見開き、怯える様にそう言った。
妹さん、怖い人なのかな。偉い人の怖い妹さん・・・会いたくないなぁ。
『・・・今まで通り自由に振舞えない事が、多少なりとも罰になる、と思うしかないか。この女が罪に問われないのは不服だが・・・グロリアの為を想えばそれが一番なのだろう』




