第51話、死の可能性
「・・・あ、れ・・・ここ、は・・・」
目を開くと天井が見えた。ただこの天井は見慣れた物のような気がする。
ああ、このこれは私の部屋の天井だ。私の部屋、と言って良いのかどうかは解らないけど。
ただ見慣れている理由が解って納得していると、その間に人の顔が突然現れた。
「お目覚めになられましたか、グロリアお嬢様」
「っ、は、はい、目覚め、ました・・・!」
そこに居たのはリズさんで、思わず慌てて上半身を起こした。
勿論リズさんに当たらない様に、ちゃんと彼女を避けている。
「ああ、駄目ですよグロリアお嬢様。いきなり動いては」
ただ起き上がった私を、リズさんは優しく寝かせに来た。
それに抵抗しても良いのか悩んでいる内に、パスンとベッドに倒される。
何で寝かせられたんだろう。そもそも私何で寝てるんだろう。
屋敷に帰って来た覚えも、ベッドに転がった覚えもな―――――。
「ガンさん達は無事ですか!?」
意識を失う前の事を思い出し、またガバッと起き上がってリズさんに問う。
あの時私は確かに指示通り魔道具を奪ったし、女性が縛られる所も見た。
けどその後すぐに意識を失ったから、彼らが無事なのかは解らない。
すると彼女は困ったような笑みを見せて、何故か私の頭を撫でて来た。
けして嫌な感じはしないけれど、それよりも皆の無事を教えて欲しい。
「はい、無事ですよ。ですから今は体をお休め下さい」
「そう、です、か・・・良かった・・・」
リズさんの答えにホッと息を吐き、そしてまたベッドに倒された。
どうやら私は起き上がらせて貰えないらしい。
「お嬢様が起きた事を報告に出ますので、ちゃんとお休み下さいね?」
「は、はい・・・わかり、ました」
有無を言わせない迫力に頷いて返すと、彼女は音もたてずに部屋を出て行った。
何とも気まずい緊張感が消えた事にホッ息を吐き、その事が失礼だなと自己嫌悪になる。
ただそこでふと視線を部屋に彷徨わせ、ガライドが近付いて来るのが目に入った。
『・・・すまない、グロリア。今回の件は私の不手際だ』
「? 何、言ってるん、ですか?」
突然謝ってきたガライドに首を傾げてしまった。
だって謝られる覚えがない。むしろ私が感謝する事ばかりだ。
ガライドが居なかったら、絶対に取り返しのつかない事になっていた。
最初の一撃を防げたかも怪しければ、あの女性に勝てたかも怪しい。
何よりも最後の一撃を受け止めきれず、皆を死なせたかもしれない。
「ガライドは、何も、悪くない、ですよ」
『君はそう言うのだろうな。勿論解ってはいたさ。だが、だからこそ、すまない』
私の意志を伝えても、それでもガライドはまた謝った。
その声はとても気まずそうで、聞いている私が申し訳なくなる。
だってガライドに謝らせていい訳がない。ガライドのおかげで助かったんだから。
「ガライド。私は、ガライドが居たから、ここに居ます。生きて、います」
『ああ。そして私はそんな君が幸せに生きて行ける様にしたい。先の行動はその理念に反する。一歩間違えれば君の人生はあそこで終わっていた。君が君でなければ死んでいた』
「し・・・ん・・・?」
私が死ぬ? 死ぬ、所、だった? でも、こうやって、生きてる、けど・・・。
『私があの端末の・・・魔道具の攻撃を防いだのは、使用者の危険信号を受けて起動した自動迎撃システムだ。使用者の能力を無視してエネルギーを吸い上げ、性能を全力で使う機能だ。あの時君も私もあのままでは『防げない』と判断した。故に起動したのだろうな』
それは・・・やっぱり謝る事ではない様な。だって防げなかったのだから。
あの時私はかなり焦っていて、咄嗟の行動が全く出来ていなかった。
自分の手加減に自信が無かったのも大きい。ガライドはそれらを全て解決してくれた。
『グロリアはあの男達を捕らえた時点で、ある程度の消耗が有った。そこから更に出力を上げての遠距離射撃。更には加速の為のスラスター、盾やアンカーの高速生成に多大なエネルギー・・・魔力を使った。あの魔力量は、君でなければ確実に致死量だ』
私でなければ死んでいた・・・なんだ、なら、何も問題は無い。
それは私だったら大丈夫って事だ。じゃあやっぱり、ガライドは何も悪くなんて無い。
『違うぞグロリア。今君が考えている事は手に取る様に解る。だがそれは違うんだ。君でなければ死んでいたと言ったが、君でも死んでいた可能性があったという事だ。君の体質・・・新鮮な魔獣を食べ、高速で魔力に変換する体質が無ければ、君でも死んでいたかもしれない』
「え・・・?」
『君は明らかな魔力の使い過ぎで倒れたが、幸いにも君には特異な体質が有った。魔獣の魔力を高純度で取り込める体質が。だから意識の無い君の口に、新鮮な魔獣の血を流し込んだ。それでも不安は有ったが・・・上手く行って本当に良かった』
「魔獣の・・・血・・・」
私が倒れた後、そんな事が有ったんだ。
倒れている間も色々迷惑をかけてしまったみたいだ。
きっとガライドは凄く心配してくれたんだろうな。とても申し訳ない。
『グロリア。あのシステムは確かに便利だ。だが君の命と引き換えにしていい機能ではない。私に端末の主導権が戻った後厳重にロックをかけた。今後は二度とこの様な事は起きない』
二度と起きないという事は、もうあの時の様に手伝ってくれないという事だろうか。
それは、ちょっと、困る。だって―――――。
「だめ、です。それじゃ、勝てま、せん・・・!」
今回かなりギリギリだったと思う。一歩間違えれば皆を死なせていたと思う。
けれどそれもこれも全部『ガライドの力』が有ったからだ。
ガライド無しじゃどうにもならなかった。ならその力を使わないなんて話はない。
『だ、だがグロリア。今回は助かったが、次は助からないかもしれないんだぞ!』
「それでも、です。それでも、戦えないより、良い・・・!」
何も出来ないで失うぐらいなら、最後まで私は闘う。
私はずっとそうやって生きて来たし、出来る事をやらずに失うなんて嫌だ。
出来る力が有るなら私は使う。それだけはガライドにも譲れない・・・!
『グロリア・・・君は、本当に、どうしようもないぐらいに闘士なのだな・・・』




