第50話、殺意
正々堂々? 職員さん達に向けて? アレを防がないと皆が死ぬ?
この人は、この人は何を言っているんだ。言ってる事が無茶苦茶だ。
まるで意味が解らない。考え方が明らかに私と噛み合わない。
「撃て」
『ザザッ・・・発射』
「―――――っ!!」
意味の解らない言動に混乱してしまったせいか、一瞬動きを止めてしまった。
きっと即座に近寄って殴りに行けば間に合ったのに。何をやっているの私は。
違う。そんな事を考えてる場合じゃない。今は彼女の言う通り、皆を守らないと。
全力で地面を蹴り、青い光を追いかける。紅い光が私を後押ししてくれる。
光を追い抜いてどうするのか、なんて何にも考えられていない。
けど兎に角、兎に角追い抜いて前に回らないと。防がないと!
「がぁあああぁぁぁぁああああああああ!!」
紅い光が私を覆う。両手両足だけじゃなくて全身を覆っていく。
光れば光るほど力が増していき、速度もドンドン上がっていく。
そうしてやっと青い光を追い抜いて、その前に立ちふさがった。
「――――こっ、のぉおおおおおお!!」
紅い光を纏った拳で、もはや紅い大きな拳で、青い光を下から打ち抜く。
すると紅い光に呑まれた部分は吹き飛んで、けれど即座に無事な光が迫って来た。
駄目だ。これは殴ってちゃ間に合わない。力が足りない。防ぎきれない!
『シールド生成』
「っ、ガライド!?」
焦っていると腕が勝手に前に突き出され、一瞬で腕が大きく開いた。
最初に青い光を防いだような盾が、私の両腕に繋がっている。
でもこれなら、これなら皆を守れるかもしれない。
「ぐうっ・・・!」
盾に青い光が当たり、衝撃で後ろに吹き飛ばされそうになるのを堪える。
絶対に吹き飛ばされちゃいけない。こんな物が当たったら本当に皆死んでしまう。
そんなのは嫌だ。そんな事させたくない。絶対に、絶対に防ぐ!
「がああああああああぁぁぁぁぁぁあああぁあぁあああ!!」
私の心と叫びに応える様に、盾を覆う光が強くなっていく。
紅い光の盾が、まだ足りないと言わんばかりに深い紅になって行く。
最早光っているのか、紅く塗りつぶしているのか解らない程に。
『アンカー生成。スラスター追加生成。ブースト』
それでも私自身が堪え切れそうになくて、必死になっていると突然体が安定した。
また両手足から音が鳴ったから、きっとガライドが助けてくれたんだと思う。
見ると足から杭が出ていて、斜め後ろの地面に突き刺さっていた。
両腕からは紅い光が噴出していて、私の上半身を前に前に押し出してくれる。
それどころか盾からも穴が出来て、そこからも光が噴出し始めた。
「これ、なら・・・!」
青い光が紅い光を打ち抜く様子は無い。これなら防ぎきれる。
『敵エネルギータンク残量14%。使イ切ルト同時ニ使用者ノエネルギー使用ニ移行。タダシ使用者ノエネルギー量ハ脅威ニナラナイト判断。射撃終了ト同時ニブースト移動。反撃ニ移ル』
「わかり、ましたぁ!」
ガライドの様子は相変らずおかしい。おかしいけれど、やっぱりガライドだ。
私を助けてくれる。皆を守ってくれる。力を貸してくれる!
きっとガライドは何か理由が有って、最初の射撃をしたんだと思う。
彼女を殺さないといけない理由が有るんだ。殺すだけの理由が有るんだ。
なら、殺そう。きっと殺した方が良い。だって、彼女は、私の大事な人達を殺そうとした!
「あああぁぁぁぁあぁあああああぁぁぁああああああ!!」
怒りのままに叫び、紅い光が私に力を与えてくれる。
もう青い光の力なんて全く脅威に感じない。こんな物に怯む理由がない。
怖くない。恐れはない。恐怖は無い。ただただ―――――――怒りだけだ。
『敵機エネルギー枯渇。使用者のエネルギー微量。2秒後ニ射撃終了』
ガライドの言う通り、青い光はすぐに消えた。
同時に盾だった腕がすぐに両腕に戻り、杭も足の中に入って来た。
けれど穴はまだ開いたままだ。多分『ブースト』と言ってた移動をする為に。
その方が良い。彼女は逃げ出している。まだ青い光を纏っている。
逃げる分の魔力は残していたんだろう。なら普通に追いかけても追いつけない。
攻撃を終えると同時に逃げていたみたいだし、ガライドの力が無いと逃がしてしまう。
「行き、ます!」
『ブースト』
足を踏み込むと同時に紅い光が私を押し出す。
最初は驚いたけど、二回目の移動でもう慣れた。
私が走るよりも早く、けれどその速さに目は付いて行っている。
紅い光の筋を残しながら、一直線に飛んで行く。
そうして女性を追い抜いた所で、拳を振り―――――。
「逃がすかよ!」
「ぐえっ!? な、なんだこの野郎! くそっ、放せ!」
―――――抜く直前に慌てて止めた。
ガンさんが凄まじい速さで横から女性に飛びつき、そのまま押し倒したからだ。
二人がゴロゴロと転がって行くのを、私は驚きで動けずに眺めている。
あ、危なかった。もうちょっとで、自分で大事な人を打ち抜く所だった。
背中に冷たい物が伝う。さっきまでの熱さが嘘の様に寒い。心臓がバクバクなっている。
「グロリアさん、あの女の魔道具を奪って!」
「っ!」
けれど遠くから聞こえて来たリーディッドさんの声に、そんな場合じゃないと顔を上げる。
そうだ、まだ何も終わってない。むしろ取っ組み合っているガンさんが危ない!
「ガライド、もう一度『ブースト』を!」
返事は無かったけれど、ガライドはお願い通り光を後ろに噴出してくれた。
その速度のまま転がる二人に近付き、女性の魔道具に手を伸ばす。
一瞬青い光に邪魔されたけど、直ぐに打ち抜いて魔道具を掴んだ。
そして掴んだまま通り抜け、少し離れた所で『ブースト』を止めて着地する。
「あがっ!? ぐっ、いっ・・・いづっ・・・!」
「おっ、ととっ、やばいやばい。急に力が抜けたから加減間違える所だったぜ・・・」
女性は魔道具を失ったからか光が消え、そして突然痛そうに呻き始めた。
ガンさんは慌てて女性を放し、何処からか取り出したロープで縛り始める。
そしてリーディッドさんとキャスさんが、彼の元へ走って来ているのが見えた。
これで終わり、で、良いのだろうか。あの女性はまだ、生きているけれど。
あの人は人を殺そうとした。口だけじゃなくて実行した。アレは危険な人だ。
『敵機セキリュティ突破。予定時間ヨリ早クシステム掌握ニ成功。敵機無力化ヲ確認。強制戦闘モード終了。出力強制低下。待機モードニ移行。ナビシステム通常モードニ移行』
「――――――っ」
けれどそんな疑問は、突然力が抜けた感覚に止められてしまった。
それ所か体が重い。力が入らない。腕が、足が、魔道具が動かない・・・!
「グロリアさん!?」
「グロリアちゃん!」
「グロリア! くそっ、コイツはお前等に任せた! 俺はグロリアを街に運ぶ!」
手足が動かないせいでばたりと倒れ、そして段々意識が朦朧として来た。
なんで、急に、こんな。寒い。息が、苦しい。体中の、力が、抜ける。
『グロリア! グロリア! くそっ、あの馬鹿め! 何てシステムを積んでいるんだ! これでは戦闘に勝っても生き残れるかどうか怪しいだろうが! これだから頭の良い馬鹿は!!』
ああ、ガライドの何時もの声だ。良かった、元に、戻ったんだ。
そっか。それは、よか、った。




