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第46話、怒り

 私の怒りに応える様に魔道具が紅く光り、けれど私は出来るだけ心を落ち着ける。

 この状態になると私は少し興奮状態になるらしく、力を抑えた攻撃が上手く出来ない。

 けれど怒り自体は抑えられないせいなのか、光は未だに収まらないでいる。


「おいおい、話と違うぞ。回復の魔道具を使えるだけの小娘って話じゃなかったのかよ!」

「どうやら違うらしいな・・・迂闊に近づくなよ・・・あの光、多分やべえぞ」

「ふ、ふざけんなよ! ガキを攫う簡単な仕事だから来たんだ。俺は逃げ――――――」


 逃げようとした男の前に先回り、思いっきり地面に拳を振り抜く。

 すると紅を纏っているせいか、思っていた以上の衝撃が地面に走った。

 地面は弾け飛び、男も一緒に飛んで行く。そして地面に落ちると気絶した様だ。

 そのまま殴ると殺すと思っての行動だったけど、上手く行ったようで良かった。


「逃がさない、です」

「マジかよ・・・完璧に魔道具使いじゃねえか・・・!」


 気絶した男を確認してから、残りの男達に目を向ける。

 これは子供達と遊んでいる間にガライドと相談して決めた事。


 彼らは人を攫う。子供を攫う。何より子供を殺しても構わないと言っていた。

 もし彼らが相談をしている時、その方が都合が良いと判断していたら。

 その時はきっと子供達を殺しにかかっただろう、とガライドは断言した。


 なら何時かあの子達が、私を友達と言ってくれる子達が、私の友達が狙われるかもしれない。

 私が傍に居れば良い。けれど居ない時はどうしようもない。助けられない。

 解決方法は一つだ。彼らを此処で逃がさずに捕まえる。


 最初はすぐに捕まえに行こうと思っていたけれど、それはガライドに止められた。

 あの時点ではまだ彼らは何もしていない。なのに私が攻撃しても罪には問えないと。


『・・・どうしても捕えたいのであれば。一つ簡単な策が有る。目的である君を囮にして、奴らが襲い掛かって来た所を捕らえる。なれば逃がす事は無いだろう』


 最後に『あまりやりたくは無いが』とは言ったけれど、私はその案で行く事にした。

 私一人が襲われて済むならそれで良い。ううん、それが良い。

 誰も傷つかないし、誰も困らない。だからこれがきっと一番良い案だと思う。


「まてまて嬢ちゃん、落ち着いてくれ。少し俺の話を聞いてくれないか。頼む。どうかこの通りだ。時間は取らせないから。なっ?」


 男達を見据えたまま立ち上がると、男が片手を前に突き出しながらそう言った。

 他の男達が慌てている中、彼だけは冷静な気がする。


『服の中に何か隠している。武器の可能性が高い。気を抜くな、グロリア』


 ガライドが警告をして来たけれど、元から気を抜くつもりは無い。

 既に『光剣』の様な物が在る事も知った。なら知らない相手に油断なんて出来ない。

 そういえば『反応』が違うから、事前判別が付かないとかガライドが悔しがっていた。


「俺達が悪かった。まさかアンタがそんなに凄い使い手とは思ってなかったんだ。もし最初から知っていたなら手を出さなかったさ。俺達は勝てない相手に喧嘩は売らない主義なんだ」

『勝てる相手には、弱い者には容赦しないという事だろう。反吐が出る』


 彼の言葉を聞いたガライドは、心底気に食わなさそうにそう言った。

 弱い者。つまりあの子供達。私があの子達ほど弱ければ謝る気も無かったという事だろう。

 むしろあのまま痛めつけられて、何も言えずにガライドも取り上げられたと思う。


 そう考えると余計に怒りを抑えられない。元々怒っていたから余計に。

 だからその感情を乗せた目を向けると、彼らは怯む様子を見せて一歩下がった。

 けどそれ以上動く様子は無くて、暫く無言の時間が続く。


『・・・仕掛けてこないな。逃げるか謝る振りをしながら、襲って来るかと思ったんだが』


 私も攻撃を警戒していたけれど、男は後ろに回した手をそのままにしている。

 今の所嫌な感じはしない。この人自身にも強そうな気配はない。

 多分ギルドに居る男の人達と同じぐらいだ。なら少しは安心だろうか。


 そう思いながら怒りを抑えようと深呼吸していると、男はへらッと笑顔を見せた。

 警戒の欠片も無い態度を見せた事に、思わず首を傾げてしまう。


「俺達は騙されたんだ。だから逃がしちゃくれないか。もう二度とアンタには近付かねぇ。勿論ただでとは言わない。金は払う。何なら有り金を全部渡しても良い。それに俺達を捕まえたって首謀者は解らねえんだ。俺達はただ『貴族の使い様』から依頼を受けてるだけだからな」

『・・・本当の事なら忌々しいな。捕まえても元凶に辿り着けんとは』


 私を攫おうとしたのは、誰かに仕事を頼まれたからという事だろうか。

 そういえばお貴族様がどうこうと、ガライドが聞かせてくれた『集音』で言っていたっけ。


 なら子供達を殺す判断もその人達がしたんだろうか。ならその人も捕まえないといけない。

 ガライドは元凶に辿り着けないと言うけれど、頼んだ人を捕まえれば良いんじゃないのかな。

 言われた事を整理しつつ少し考えて、答えを待つ男に口を開いた。


「・・・どこに、居るん、ですか、その人」

「悪いがそれは言えねぇ。流石にそこまで言っちまうと殺される。なあ頼むよ。俺達はマジで何も知らないんだ。小金が欲しいだけの子悪党なんだよ。ほら、アンタの事だって、別に殺すつもりは無かったんだ。先方だって殺すつもりは無い。ただアンタと会いたかっただけなんだよ」


 私と会いたかっただけ。なら何でその人がここに居ないんだろう。

 言ってる事がおかしいと思う。それとも私が世間知らずだから間違っているんだろうか。

 けれどその話を聞いても私の光は、胸に渦巻く紅い怒りは収まっていない。


『グロリア、おそらく奴の言う『依頼主の事は知らない』は本当の可能性が高い。ここで捕まえたとて元凶には辿り着けんだろう。だが、だからと言って逃がす理由はない』

「・・・そう、ですね」


 ガライドの言葉に応えると、何故か男達はホッとした様子を見せた。

 何故だろうか。彼らが安心する理由なんて何処にも無かったはずだ。

 だって私は相変らず彼らを逃がす気が無いし――――――。


「ふーん。話の続きはお前らを捕らえた後でゆっくり聞きたいもんだ」


 ギルマスさんが彼らの背後に立った以上、もう逃げられないと思うから。

 彼だけじゃない。ギルドの人達が何人も周囲を囲んでいる。

 受付のお姉さん達も来ている様だ。流石にフランさんの姿は無いけれど。


 これも作戦通りだ。ガライドが決めた作戦だ。

 私一人で彼らに対処するんじゃなくて、応援が来るまで待つようにと。

 最初に紅い光を放ったのはこの為で、そうすれば誰かが駆け付けてくれるからだと。


 やっぱりガライドは凄いな。全部言ってた通りになった。

 ただ誰が来るかは解らなかったけど、ギルマスさんが来てくれたなら安心だ。

 少し息が上がっているのは走って来たんだろうか。急いでくれたんだ。


「っ!? だ、誰だ!?」

「自己紹介が必要か? ここでぶちのめされる奴によ」

「ちっ、こうなったら仕方ねぇ・・・!」


 男は背中に隠していた手を横に振り、その手には鞭が握られていた。

 そしてその鞭が淡く光ると、嫌な感覚を私に与えて来る。

 アレは光剣と同じ物だ。私が挑むべき魔道具だ。


「残念だが俺も魔道具使いなんだよ! 人を集めたのは失敗だったな! これだけいるなら人質には困らねぇ! 魔道具使いの小娘相手じゃ不安だったが、他の奴らなんぞ敵じゃねえ!」

『グロリア、下が――――』


 男は叫ぶと鞭を振り回し、近くに生えていた木を切り倒した。

 鞭なのに抵抗なく大木を切り裂き、けれど扱っている本人に当たっても傷は無い。

 仲間の男達はその行動が解っていたのか、頭を抱えてしゃがみこんでいる。


『――――れと言いたかったが、指示の前に動いていたな。ギルマスも無事な様だし、やはり戦闘方面に関しては私が口を出す必要は無さそうだ』


 ガライドの言う通り、私とギルマスさんは反射的に距離を取ったから無事だ。

 けどアレは当たったらきっと大怪我じゃすまない。ギルマスさんじゃ危ないと思う。

 当然ギルドの人達も同じだ。アレに対抗出来るのはきっと私とガンさんだけだ。


「この威力を見たら解るだろ。怪我人を出したくなかったら俺達を逃がせ。もし逃がしちゃくれねえってんなら、最大限に嫌がらせをして死んでやるぞ!」

『何処までも小悪党だな・・・』


 嫌がらせ・・・って何をするつもりだろう。

 発言の意味が解らずにいると、何故かギルマスが一歩踏み出した。

 それ所か二歩三歩と、最初の立ち位置まで戻っていく。

 今の魔道具の一撃を見ていたはずなのに、一切警戒する様子の無い歩みで。


「・・・ふん、笑わせてくれる。一瞬魔道具使いかと焦ったが、ただの魔道具持ちかよ」



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