閑話、フランの疑問
「今頃ガンさん達は必死になってグロリアちゃんに付いて回ってるんですかねー」
暇なので受付のカウンターに体を投げ出しながら、そんな事を呟く。
何せ彼らはグロリアちゃんに付いて行って、今頃魔獣の森の中で戦っているはず。
あの子強いのはもう解ってるし、そもそも日常的に森に出入りしてる。
ただ今日はあの三人が一緒に森に入ってるから、無事なのかとても心配なんですよねー。
「・・・グロリアちゃん、大丈夫ですかねぇ」
一番の心配はグロリアちゃんなんですけど。だって、ねぇ。一番強いのはあの子ですもん。
三人が太刀打ち出来ない魔獣が出てきた時、きっと彼女が三人を守る事になる。
人を守りながらって結構大変らしいし、グロリアちゃんが無茶する事が無いと良いけど。
「あの三人なら大丈夫でしょ」
「ま、大丈夫じゃねえのー。ガンが居るんだし」
「一人だけ付いてったなら不味いけど、三人で一緒ならあいつらはそうそう負けないわよ」
すると私の呟きを聞いた人達が気軽に返事をして来た。
その中にはギルマスも混ざっていて、思わず首を傾げてしまう。
更にお姉さま方まで肯定的な発言なのは、私としては不可解でしかないんですけど。
「前から不思議だったんですけど、皆さんってガンさん達への評価が高いですよね。特にガンさんに関しては普段の仕事以上に評価してるというか・・・何でなんですか?」
前々から思っていた疑問をぶつけると、皆キョトンとした顔を見せた。
そしてギルマスが首を傾げながら、おかしいなと言わんばかりの表情で口を開く。
「あれ、ガンが戦ってる所見た事無いのか? お前とアイツらは幼馴染だろ?」
「ありますよぉー。だから不思議なんじゃないですか。ガンさんって余り強くないでしょう?」
魔獣が溢れる時期になれば、当然ガンさんも魔獣狩りに駆り出される。
私はその際に支援物資を運んだり、事務連絡の為に壁に向かった事が何度か有った。
闘えないから裏方として頑張ってたんだけど、その際彼の戦いを見た事がある。
「魔獣相手だと基本的に小型を相手にしてましたし、大型は歯が立たなくて逃げ回ってギルマスに押し付けてましたし・・・まあ今まで怪我しないで済んでる所は凄いと思いますけど」
ガンさんの能力は小型相手にしか通用しない。大型だと苦戦どころか逃げ回る。
だからグロリアちゃんに付いて行くのをギルマスが認めたのは驚いた。
ギルマスは力量の無い人間が無茶して怪我をするのを嫌う人なのだから。
「成程ねぇ・・・お前アイツが『魔道具使い』だってのは知ってるな?」
「ええまあ。だから皆ガンさんを一目置いてるんですよね?」
私にはその『魔道具使い』の凄さっていうのが良く解らないけど。
だって魔道具の存在自体はそこまで珍しい物じゃない。私でも使える魔道具は有る訳だし。
けれどそんな中でガンさんは態々『魔道具使い』と区別されているのよねー。
「アイツはその魔道具を使って戦えば、俺が本気で戦っても多分勝てねえぞ」
「・・・え?」
ギルマスが勝てない? え、嘘でしょ? だってこの人化け物みたいに強いのに。
大型魔獣を拳で殴りつけてるのを見た時は、この人が魔獣なんじゃないかって思ったもん。
実はトカゲの魔獣が喋れる様になったんじゃないのかな、って一瞬本気で思うぐらい。
「アイツの魔道具は大型魔獣でも容易く切るし、魔道具を使ってる時の動きは明らかに俺より速いし力も上だ。普通の武器しか使えねぇ俺じゃかなり不利だろうな」
「・・・で、でもそれなら、ギルマスが魔道具を使えばガンさんより強いんじゃ」
「俺に魔道具は使えねぇから在り得ねぇ話だな」
「使えないん、ですか?」
「戦闘用の魔道具は俺には無理だな。使ったらすぐぶっ倒れちまわぁ。つまりはそういう道具を使える素質と才能が有って、使いこなす域にまで届いてるのが『魔道具使い』って訳だ。俺も若い頃にどうにかなんねえか頑張ったんだがな。どうにも才能が無いらしい」
「・・・そう、なんです、か」
ギルマスが使ったら倒れる様な物を、ガンさんは使う事が出来る。
今更初めて知った事実に驚きはするものの、上手く自分の中で情報がかみ合わない。
どうしても普段のガンさんのイメージが邪魔をして、凄いはずなのに素直に凄いと思えない。
「あれ、でもそれなら、何でガンさんは普段魔道具を使わないんですか?」
使えばギルマスより強いなら、普段から使えばもっと安全に仕事が出来る。
強い魔獣を狩る事だって出来るはずだし、むしろ王都に出て良い地位にも付けそうなのに。
何より溢れの時に、あんなに必死になって逃げまわる必要は絶対無いはず。
「あー・・・アイツ魔道具使った場合の能力を自分の実力と思ってねえんだよ。後致命的な欠点が有るから、それもあって自己評価が低い。だから出来るだけ実力を上げたいらしいな」
「致命的な欠点ですか?」
ガンさんにそんな物が。いや、私のイメージからすると特に意外でも何でもないけど。
「マジで致命的だぞ。正直よく傭兵家業出来るなっつうか、魔獣相手に出来るなってぐらい」
「え、そ、そんなにですか?」
そこまで言われる程の致命的な欠点を抱えながら、けれどガンさんは評価されているのか。
でも一体どんな欠点なんだろう。そう思いゴクリと喉を鳴らしながら続きを待つ。
「アイツな、索敵が出来ねえんだよ」
「・・・索敵?」
「おう、死角から飛び出してこられたりしたら一発でアウトだ。だから単独戦闘能力が低い」
「それが致命的・・・なんですか?」
「致命的に決まってんじゃねえか。魔獣狩りなんて絶対出来ねえぞ、普通この手の家業してる奴はな、敵の接近は何となく解るんだよ。勿論魔獣にだって身を潜める奴もいるから、誰だって不意を突かれる可能性は有る。けどガンの場合はそんなレベルじゃねぇんだ」
「そんなとは、たとえば、どんなふうにですか?」
「たとえばそうだな・・・この樽の中に危険な魔獣が入ってるとする。そうすっと俺達みたいな人間は、これに近付くと危ねえって何となく解るんだよ。けどアイツは解らないから、平気でその樽の上に座ったりする。んでケツをがぶりといかれるって感じかね」
「はえー・・・むしろ皆さんがそんな風に解る事に驚きですよ」
私はギルドの受付をしているけれど、他の方々と違って戦闘能力は全く無い。
最初っからずっと事務仕事で入っていて、だからそんな感覚は良く解らない。
ガンさんがおかしいと思うより、皆さんが凄いだけなのではと思ってしまう。
「でもそういう事なら、良くガンさんは怪我も無く傭兵続けられてますね」
「キャスとリーディッドが居るからな」
「・・・二人が居ると、何か違うんですか?」
「あの二人はガンと真逆なんだよ。戦闘能力はあんまり高くないが、索敵能力は誰よりも高い。遥か彼方で隠れてる魔獣すら見つける程だ。だから二人が索敵してガンが倒す。三人何時も一緒なのはそういう役割分担が出来てるからだ。勿論昔馴染みの友人っていうのも理由だろうがな」
あの三人が組んでるのはそういう理由があったんだ。
てっきりただ幼馴染だから一緒にやってるんだと思ってた。
「つーかむしろ、お前が知らない事が驚いたぞ。アイツらとの付き合いはお前の方が長いだろ」
「まあ私も彼らと幼馴染な訳ですが、荒事は苦手なので。あの三人が危ない所に行く時は、手を振って見送るのが私の役目でしたから。ガンさんが私の前で魔道具使った事も有りませんし」
なので長年の謎が解けた気分です。今まで特に気にしてもいませんでしたが。
三人が怪我なく無事帰ってくれば良いやー、ぐらいの感覚だからねー。
「まあお前はそういう奴だよな。安全圏に一番最初に退避する奴だ」
「何ですか。戦えないんだから逃げないと皆の邪魔になるじゃないですか」
「いや、そりゃそうなんだが・・・」
「まさか突っ込んで食べられて囮になれっていうんですか。ギルマス酷い! うえーん!」
「誰もそんな事言ってないだろ!?」
全力で泣いたふりをすると、ギルマスは本気で慌てだした。
厳つい顔に似合わず可愛い人なんですよねぇ。なのでつい揶揄いたくなります。
まあその後テヘペロしたら、顔面を鷲摑みされてしまいましたが。
「乙女の顔を鷲摑みにした上に力を入れるなんていたたたたた! すみません! すみません! ちょっと調子に乗りました! 許して下さい! 本気で痛いです!」
乙女の頭が変形したらギルマスには責任取って貰いますよ! 割と本気で!
私その為にここに勤めてると言っても過言じゃないですからね!
趣味が悪いって言われても知りません。もう散々言われたので慣れました。




