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第32話、上手く

 最近毎日忙しい・・・様な、そうでもない様な、少し悩む日々を送っている。


 読み書きは相変らず苦戦しているし、算術も出来る様になったとは言い難い。

 対人戦闘訓練も少しずつ加減は解って来たもの、良く加減を間違えて色々壊している。

 日常生活の力加減は余り難しくないけど、戦闘という意識が有ると失敗が多い。


「んー、早めの打ち合いになると力が入り過ぎるみたいですね」

「・・・みたい、です」

『受け止めるだけなら行ける様になったが、中々上手く行かんものだな』


 木の武器を壊さない加減を覚えたら、兵士さんの振る木剣に合わせて防ぐ訓練が始まった。

 単純に受け止めるだけなら大丈夫だけど、弾いて逸らす様にと指示を受けている。

 すると途端に難しくなり、頻繁に叩き折ってしまう。

 なのでもう最近は薪で訓練している。これならいくら割っても良いかららしい。


 最終的にはお互い武器無しで、防具も無しでやるという話になっている。

 この状態ではそんな訓練なんて、まったく出来る気がしないけど。

 もし今やったら、絶対相手を殺してしまう。そんな事は出来ないし怖い。




 ・・・怖い。そう怖い。私はここに来てから、怖い事、不安な事が増えた。




 リーディッドさんが、キャスさんが、ガンさんが居なくなるのが怖い。

 ギルマスさんやフランさん、受付の人達や傭兵ギルドの人達。

 一緒に遊んでくれる子供達に、優しい街の人達。


 あの人達が、あの時の様に、闘技場の様に、私の死を願うかと思うと、怖くて不安になる。


 もしかして私は、どこかおかしくなってしまったんだろうか。

 以前はこんな気持ちは持たなかった。あっても嫌だなと思う程度。

 けれど今の私は不安の無い日が無い。怖いと感じない日が無い。


 ただこうやって訓練をやっている間は、勉強をしている間はそんな不安が薄らぐ。

 だから訓練の時間は好きだ。勉強の時間も楽しい。お昼寝だけちょっと大変だけど。

 あと何故か最近ガライドまで「頑張って休め」って言って来る様になった。


 でもガライドの言う事は聞かないと。

 きっとちゃんと考えての事だと思うし。

 でもやっぱり、休むのって、少し難しい。


 なんて余計な事を考えていたせいか、また木を一本折ってしまった。

 今日はもう隣に沢山の木屑の山が出来てしまっている。


「今日はこの辺りにしましょうか」

「え、でも・・・まだ、時間が」


 日の傾きを見ても、まだ夕暮れには程遠い。

 普段ならもうちょっと続けているはずだ。

 そう思い戸惑っていると、彼は私の頭を撫でた。


「グロリア様、焦りは禁物です」

「焦り・・・です、か」

「はい。私の目にはそう見えました」

「そう、ですか・・・」


 焦っている、のだろうか。いや、焦っているのかもしれない。

 何時まで経っても加減が上手く出来ず、それを不安に思っているのだから。

 自分の気持ちを振り返ってみれば、確かにこれは焦りなのだろう。


「グロリア様は良くやっています。誰も貴女を責めたりはしません。むしろ私が自らの未熟を感じている所です。貴女の善き師になれない事を。だから、焦る必要はありませんよ」

「・・・わかり、ました」


 言葉の上では解る。だって誰も私を責めないのだから。

 勿論注意はされる。間違えた時、失敗した時、こうしたら良いとは言われる。

 けど失敗した事その物を責められる事も、嫌な事をされる事も無い。

 だから焦る必要は、本当は無いのかもしれない。けど、それでも・・・。


「・・・上手く、やり、たいな」


 やれと言われているからじゃない、出来る必要が有るからじゃない。

 私が自分でそう思う。出来るだけ皆の迷惑にならない様にと。

 きっとは私は、この幸せな場所を壊したくないんだ。自分で壊す事を、したくないんだ。


『グロリア、彼の言う通り焦りは禁物だ。焦りは大きな失敗を生む。なに、多少の加減は出来る様になったんだ、もっと訓練を重ねれば問題無く出来るさ』


 不安だけれど、ガライドがそう言うなら信じよう。

 彼は何時だって私が迷わない様に指示を出してくれた。

 私が助かる様に、上手くやれる様にしてくれた。

 なら今回も彼の指示を聞いておけばきっと大丈夫だ。


「では訓練が終わったのでしたら、汗を流しましょうか、グロリアお嬢様」

「っ・・・はい、リズ、さん」


 リズさんに声を掛けられ、思わず背筋が伸びる。

 彼女は訓練の間ずっと傍に居た。と言うよりも、私が屋敷に居る間は常に私から離れない。

 だからなのか傍に居る事自体には段々慣れて来たけど、会話は未だ緊張する。

 顔を合わせて目を合わせて、面と向かってしゃべるとどうにも駄目だ。


「お風呂の用意をすぐにさせますので、こちらでゆっくりお休み下さい」

「はい・・・」


 訓練中に用意されていたのは気がついていたけれど、庭にテーブルとお茶が置いてある。

 最近何となく解って来た。アレが用意され始めた時は休まされるんだと。

 兵士さんがチラチラと様子を見始めて、用意が終わった頃に訓練が終わるのだから。

 流石に同じ事が何度も続けば私でも解る。


「・・・まだ、日が高い、のに、な」


 それでもまだ時間がある。日が暮れるまではかなりの時間が。

 なんて考えてしまうと、やっぱり訓練の続きをしたくなる。


 正直、自分でも不思議だ。私はこんなに何かを頑張る人間だっただろうか。

 何時だって体力の温存に努めて、ただ食べる時だけ全力で戦って生きる。

 そんな人間だったと思う。けれど今の私はあの時とまるで違い過ぎる。


「・・・考える必要なんて、無かったから、かな」


 生きるのに精いっぱいだった。他の事を考える余裕なんてなかった。

 考える必要のない事をに頭を使わず、ただ生き延びる事だけを考えていた。

 だから、不安なんて、無かった。無くなって困る物なんて無かったから。


 有るのは『死ぬのは嫌だ』という想いだけ。


「・・・ガライド。私は本当に、良くやれてると、思いますか?」

『そうだな。良くやっていると思う。君が子供だ、という事を考慮すれば頑張り過ぎな程に』

「・・・頑張り過ぎ、なので、しょうか」

『私の目からはそう見えるがね。読み書き算術、慣れない対人訓練に、人間関係の構築。今までやって来なかった事を一気にやっている。そして君はそれに異を唱えない。周りの大人達からすれば、一切の我が儘を言わない君が心配だろうな』

「わが、まま・・・は、言う必要、無いと、おもい、ます」


 我が儘は、言ったらダメな事だと思う。私は皆に嫌われたくはない。

 それに私は反論する意味を感じた事が無い。

 指示されている事は全て必要な事だ。なら全部従って覚えるべきだ。


『君がそう子供らしからぬからこそ、周りは君の頑張りが心配なのさ。何時か潰れないかと』

「・・・わたし、頑丈、ですよ?」

『体はな。だが心は違うだろう。事実君は今、自分の在り方に不安を覚えている』

「・・・心が、潰れる」

『君は確かに強い。おそらく体はこの時代・・・この世界でも異端と考えられるレベルだ。だが心は他の者達と変わらない。何かの切っ掛けで、君の心が壊れる事を心配しているんだ』


 心配をかけない様に、迷惑をかけない様に、私はそう思っていた所が在る。

 けれどそうやって頑張れば頑張るほど、皆は私を心配するのだろうか。

 難しいな。人が沢山の所で生きていくのは。まだまだ解らない事が多い。


『当面は今まで通り、のんびり頑張れば良いさ』

「のんびり・・・こうやって、お茶を飲んで、ですか」

『ああ。それに先ず、リズに慣れる事の方が重要じゃないか?』

「それは・・・そう、かも、しれません」


 いい加減話しかけられる事ぐらいは慣れないといけないとは思っている。

 でもどうしても緊張しちゃう。何かこう、相変らず別の世界の人みたいで。


 とはいえそれは、最初はこの屋敷の使用人さん、ほぼ全員に言える事だった。

 上手く言葉に出来ないけど、ふわっとしてると言うか、キラキラしていると言うか。

 ただ他の使用人さんにはもう慣れた。どうしてもリズさんにだけ慣れない。


「グロリアお嬢様、お茶のおかわりはいかがですか?」

「・・・はい、いただき、ます」


 ニッコリと笑う、隙の無い彼女の佇まいに、やっぱり構えてしまう。

 別に強そうとかそういうんじゃなくて、良く解らないけどそう感じる。

 けれど優しい人だというのは何となく解るから、自分の緊張が申し訳ない。

 彼女の優しさが嬉しいから、余計に。


 ・・・やっぱり、難しいな。色々。


『・・・まあ、コレばかりはリズも悪いがな。グロリアの緊張に気が付いて、他の使用人達はある程度態度を崩している。彼女だけだ、最初のままなのは。全く、お互い不器用だな』

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