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第30話、成果

 傭兵としての初仕事を終えてから、その後も何度か三人と一緒に仕事をした。

 内容は本当に色々で、知らない事だらけで毎日が新鮮だった。

 畑を耕したり、家の修理を手伝ったり、荷運びを手伝ったりなど、本当に色々。


 ただそれも毎日じゃなくて、ある程度は日を空けてだけど。

 仕事の無い日は庭で手加減の訓練をしたり・・・何故か休む訓練をさせられた。

 良く解らない訓練だったけど、リーディッドさんとリズさんが力強く言うので従っている。

 体力を温存する為じゃなくて、特に意味のないお昼寝は中々大変だった。


 そして合間に魔獣を食べる為に、何度か森に入っている。ちゃんと許可は貰った。

 あの森は魔獣が生まれ易いと、リーディッドさんが言っていた。

 だからなのか、森に入って「まっぷ」を見ると、たいていすぐに魔獣が見つかる。


 魔獣を倒したら肉は全て食べて、食べて、食べて、いっぱい食べた。

 色々訓練や仕事が有るから、毎日魔獣と戦う事は出来ない。

 だから森に入った時は、めいいっぱい食べる様にしている。


 勿論森から街に魔獣が出て行かない様に、ガライドの指示に従って。

 私のせいで街の人達が魔獣に食べられるなんて絶対に嫌だ。


『グロリア、これとこれ・・・後これも持って帰ろう』

「はい、わかり、ました」


 そして食べ終わった後は、骨や歯や皮なんかを抱えて森を出る。

 私は解っていなかったんだけど、これらは傭兵ギルドの人達が欲しがっているらしい。

 持って行けば皆が喜んでくれると言われ、指示通り毎回持って行っている。


 実際持って行くと、ギルマスさんも、受付の人達も皆褒めてくれた。

 ただその時、財布の中にお金が入らなくてちょっと困ったけど。

 リーディッドさんが「うちで預かっておく」と言い、それ以降ずっと預かって貰っている。


 そういえば『買い物』も何度かした。街中で食べ物と硬貨を交換して。

 美味しくて大事に食べていたら、もう一つ貰ってしまって焦った。

 初めて来たからサービスだと言われ、それも美味しく食べさせて貰ったけど。


 それと買い物が一人で出来る様に、算術をリーディッドさんに教えられている。

 合わせて文字の読み書きも、ゆっくりとだけれど頑張っている。

 中々上手く出来なくて、未だに良く間違えるけれど。

 一番困るのは、間違えても皆食べさせてくれる事だと思う。偶に正解が解らない。


 大体そんな感じで、街に来てからの日々を、結構忙しく過ごしていると思う。






「おはようございます、グロリアお嬢様」

「・・・おはよう、ござい、ます」


 ただ未だにリズさんにはちょっと慣れない。やっぱり緊張する。

 前にリーディッドさんが言っていた『苦手』とも少し違う様な気がする。

 嫌いじゃない。嫌じゃない。だけど何だか別の世界の人な気がしてしまうんだ。


「今日はグローブもソックスも、綺麗な紅を用意しておりますよ」

「・・・ありがとう、ござい、ます」


 お礼を言いながらベッドを降りると、そそくさと服を着替えさせられる。

 一応自分でも着替えようとしているだけど、その間に他の物を着けられた。

 着替えが終わると部屋を出て、リズさんと一緒に食堂へ向かう。


 最近は「慣れましょうね」と言われ、リーディッドさんは居ない事が多い。

 勿論食事自体や、算術や読み書きの訓練は彼女が見てくれている。

 ただそれ以外でも何時も一緒、と言う事は無くなってしまった。ちょっと寂しい。


「おはようございます、グロリアさん」

「おはよう、ござい、ます、リーディッドさん」


 食堂に着くと既にリーディッドさんが座っていて、私もその前に座る。

 テーブルにはもう料理が用意してあって、いつもどおり美味しく食べさせて貰う。

 そう言えばこの間、作っているお爺さんにお礼を言ったら凄く喜ばれた。


 嬢ちゃんがこの家のお嬢さんなら良かったのに、とか言われて少し驚いたけど。

 それからは会うたびに『お菓子』をくれる。この間は『飴』を貰った。


「そうだ、グロリアさん、今日はいつもと違う事でもしましょうか」

「違う、こと、ですか?」

「ええ。そろそろ大丈夫かな、と思いまして」

「?」

『なんだ、一体何をさせるつもりだ。不安しかないんだが』


 ガライドが言葉通り不安そうな声音で、けれど私は単純に解らず首を傾げる。

 けれどそれ以上の言葉は無く、食事が終わると一緒に出掛けると言われた。

 私は一度部屋に戻り、財布を首からかけて、服の中に入れる。

 これは大事な物だ。出かける時はちゃんと持っておかないと。


 その間もリズさんは私お付きの使用人だからと、常に私の傍に立っている。

 屋敷を出る時も門まで見送りに来てくれて、帰った時もほぼ毎回門で迎えてくれる。

 まさか私が帰るまでずっと待っているんだろうか、なんて思ってしまったぐらいだ。


「リズは何時まであの調子・・・いえ、死ぬまであの調子でしょうね、彼女は。グロリアさんはどうですか、彼女。そろそろ慣れましたか?」

「・・・少し、だけ」

「あははっ。まあ少しでも慣れたなら良かった。彼女も喜びますよ」

「だと、良いん、ですが」


 私も流石にいつまでも慣れないのは申し訳ないと思ってる。

 でも少しだけ、ほんの少しだけ慣れつつあるので、何時かは慣れる・・・と思いたい。

 なんて考えながら彼女に付いて行き、何故か二人きりのまま街中を進む。

 何時もならこの辺りでガンさんとキャスさんに会うはずなんだけど。


「今日はガンとキャスは居ませんよ。仕事の為に出て来た訳じゃありませんから」

「仕事じゃ、ないん、ですか?」

「ええ、今日は訓練の成果を出して貰おうと思いまして」

「訓練の、成果」

『ふむ、一体どの訓練の事か。仕事外で街に出て来た事を考えれば読み書き算術か?』


 読み書きと算術の成果。仕事中に偶にそう言われ、一人で買い物をした。

 勿論後ろに皆が居たけれど、今日は本当に一人で行って来るという事だろうか。

 少し緊張する。まだ読める文字も少ないし、必要な物が解るかとても不安だ。

 数字は案外すぐに覚えられたから、計算さえ間違えなければ・・・。


「という訳で、今日はあの子達と遊びます」

「・・・え?」


 という予想は完全に外れた。彼女に付いて行った先は大きな広場。

 そこには街の子供たちが遊んでいて、高い声が周囲に響いている。

 勿論大人が全く居ない訳じゃない。休憩の人や老人がのんびり子供達を眺めている。


「グロリアさんは子供達に混ざって、一緒に遊んできてください。手加減の訓練を忘れずに、皆さんに怪我をさせない様に気を付け、周りの物も壊さない様に」

「え、えと、え?」

「はいはい混乱してる場合じゃありませんよー。そこの子供達、この子も混ぜてあげて下さい」


 意味が解らなくて慌てていると、彼女は私の背を押して歩く。

 ただ子供達は声をかけられた瞬間、ゲッという顔をした。


「リーディッドだー!」

「な、何でこんな所に居るんだよー! 大人なんだから働けよー!」

「みんな逃げて! また酷い目に合うよ!」

『・・・散々な評価だな。一体子供達に何をやったんだ彼女は』


 子供達はリーディッドさんからサーッと逃げ出し、けれど彼女はそれを追いかけた。

 そして男の子の一人を捕まえると、持ち上げて戻って来る。

 男の子は暴れるものの、彼女は一切意に介さない。


「そんなに慌てて逃げなくても良いじゃないですか」

「お、オマエが酷い事するからだろ! はなせよ!」

「嫌われたものですねぇ。貴方達が悪戯をしたから懲らしめただけでしょう」

「う、うるさい! 今日は悪戯はしてないんだからあっちいけよ! 帰れよ!」

『成程、悪ガキ共だったか』


 男の子がこちらに連れて来られると、他の子供達は木の陰からこちらを伺っている。


「おい、どうする、アイツまた一番に捕まったぞ」

「またなの? 本当にどんくさいんだから」

「見捨てて逃げる?」

「でもそれやるとまたアイツ拗ねるぞ。機嫌直すのに時間かかるから面倒臭くね?」

「もー、何で逃げろって言った時に、すぐ走り出さないかなー」


 子供達は隠れる気が有るのか無いのか、よく聞こえる声で話し合っている。

 男の子は「お前等後で覚えてろよー!」と叫んでいるから、皆聞こえているんだろう。


「貴方達ー、今日は何もしないので、こっちに来なさーい。コレ返してあげますからー」

「コレって言うな! お前らも助けろ!」


 リーディッドさんと男の子の言葉を聞き、子供達は顔を見合わせた。

 けれど一人が恐る恐る足を踏み出すと、他の子も同じ様に戻って来る。


「はーい、良い子ですね。そんな良い子達にお願いがあります。彼女と遊んであげて下さい」

「はっ、何で俺達がリーディッドの言う事聞かなきゃなんねーんだ。やなこっぎゃああああ!」


 男の子が断ろうとすると、リーディッドさんはその子の足を掴んで振り回し出した。

 突然の出来事にビクッとしていると、他の子達は「あーあ」と慣れた様子で見ている。

 そしてしばらく振り回した後、男の子に怪我が無い様にそっと地面に降ろされた。


「何か言いました?」

「あ、あそび、ます・・・」

「宜しい。では夕暮れ頃に迎えに来ますねー」

「ぎ、ぎぼち、わるい・・・」

「え、り、リーディッド、さん?」


 そして蹲る男の子と状況が出来ない私を置いて、リーディッドさんは去って行ってしまった。


『まさか手加減の成果を子供達でか。成果が目的か、遊ばせるのが目的か、どちらだろうな』

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