第25話、持ち回り
食事が終わったら、リーディッドさんと出かける事になった。
リズさんは付いて来ないらしい。申し訳ないけどホッとした。
嫌だとかじゃないんだけれど、あの人の傍は凄く緊張してしまう。
「あははっ、リズに見送られて、あからさまにホッとしてますねぇ。くくくっ」
「・・・すみ、ません」
「謝る必要なんてないですよ。言ったでしょう。リズが張り詰め過ぎなんですよ」
『更に彼女は無自覚だからな。グロリアとは少々相性が悪いのかもしれん』
相性。そうなのかな。ただ私が一方的に緊張してるだけの様な。
でも色々慣れて欲しいって言われたし、何時かは慣れないと駄目なんだろう。
別に嫌な訳じゃないので、多分、きっと、そのうち慣れる、と思う。多分。
そうして暫く歩くと、ガンさんとキャスさんが手を振っているのが見えた。
「ういっす、グロリアー」
「グロリアちゃんおっはよー♪」
「おはよう、ござい、ます」
「二人とも私に挨拶は無しですか。良いですけど」
二人は私を見つけると走ってきて、キャスさんは何時もの様に抱き付いて来る。
そしてまた何時もの様に頬を擦り付け、私はなすがままだ。
「今日も可愛いねぇグロリアちゃん。この紅いドレス、最初に着てたのと違うね?」
「流石に汚れ過ぎだったので、新しく用意しました」
「血まみれだったし、動物の汚れもついてるっぽかったもんねぇ。でもドレスのまま行くの? 流石に防具はつけておかないと不味くない?」
「彼女には、防具はむしろ邪魔の様ですから。元々戦う時はドレスだった様ですし」
防具に関しては、領主館に行った時に色々あった内の一つ。
領主館で過ごす間は、ドレスの類を着て過ごす事になった。
色々頷いていたらそういう事になったらしい。
ただ外に出ていく際、傭兵として仕事をする時はどうするのか。
そんな話をされた時に、私は自分の戦い方の説明をしている。
最後に刃物を借りて首に当て、ぐっと押し込んで曲げたら皆凄く慌てていた。
多分リーディッドさんの言う通り、戦う時はドレスだった、と言ったのも理由だと思う。
ガライドが言うには『私の拘り』と思われたそうだ。この『紅いドレス』は。
だからなのか、今後の着替えも全て紅い物になるらしい。
手袋と靴下は良い物がないのでそのうち揃えるとか言われた。
因みに首に刃物を当てた件はガライドに怒られている。
そういう事はやる前に説明をしろと。やるとしても首は止めろと。
初めてガライドに怒られて、少し落ち込んだ。
けどそんな私を見て『心配をしているんだ』と言い、私もそれには納得した。
だって『リーディッドが同じ事をしたらどう思う』と言われたら何も言い返せない。
「手袋と靴下を付たら魔道具が隠れて、普通に良いとこのお嬢さんに見えるな」
「そう、です、か?」
「ああ、可愛いしな。戦ってる時は激しいけど、普段は大人しいから余計にだろうな」
可愛い。そんな訳無いのに、ガンさんに言われると何故か嬉しい。
頭を優しく撫でてくれる手と言葉を、目を細めながら受け入れる。
「聞きましてリーディッドさん。あの男、あんな歳の下の娘を口説いてますわよ」
「聞きましてよキャスさん。これは姐さん方に報告ですわね」
「おいコラ。人聞きの悪い事を言うな。客観的な感想だろうが」
『・・・まあ実際、ガンは妹みたいな感覚だろうな。本当に口説いていたら私が制裁を下す』
口説くって何だっけ。確か人を誘うとかそういう意味だったっけ。
完全に聞いた言葉での物でしかないから、私には判断が出来ない物だ。
けれどガンさんの妹なら、家族なら、嬉しい気がする。
そしてガライドの制裁って、一体何をするつもりなんだろう。
というか、何か出来るのかな。体当たりとか?
「さてグロリアさん、今日はこの街の傭兵にとって、基本的に避けられない仕事に向かいます」
「あの仕事はこの街で傭兵を続ける義務みたいなもんだからなぁ」
「だから私、本当は見習い傭兵のままで良かったんだけど、勝手に格上げされたんだよねぇ」
『街の傭兵の義務となる仕事? ギルマスは一言もそんな事は言っていなかったが・・・いや、そういった仕事が在るからこそ、三人に世話を任せたという事か』
リーディッドさんとガンさんの説明を聞き、ガライドがまた一人で納得している様だ。
キャスさんは見習いのままで居たかったらしい。とても嫌そうな顔で項垂れている。
「まあガンと組んでた時点で当然ですよ。もう随分経つんですから諦めなさい、キャス」
「はぁ・・・ガンの口車に乗せられるんじゃなかったよ・・・」
「お前なぁ。俺が悪いみたいに言うけど、元はお前らが俺に付いて来たんだからな」
「そうでしたっけ?」「そうだっけ?」
「こいつら・・・」
三人は何時もの様に会話をしながら、傭兵ギルドへと歩いて行く。
到着して中に入ると女の人達に歓迎され、男の人達にも頭を撫でられた。
ただわしゃわしゃと撫でている人が何故か怒られ、その手は離れて行ったけど。
「まったくもう、綺麗にセットしてあるのに、ぐしゃぐしゃになるじゃないですか」
フランさんが怒りながら、私の髪を梳かしてくれた。
けど私は別に整えた覚えは・・・そういえば着替えの際にされた様な。
とはいえ梳かした程度だし、昨日の様な不思議な髪にはしていない。
少し乱れた程度、戦っていればよくなる事だ。
「んじゃフランちゃん、皆揃ったし、行って来るねー」
「はい、お願いします。ではこれを」
「はいはいー、受け取りましたー。という訳でグロリアちゃん。これ持っててね」
「え、あ、はい、わかり、ました」
『む、これは・・・割符の類か?』
全員そろったと告げるキャスさんに、フランさんが木の板を渡した。
そしてそれを何故か私が受け取り、両手で大事に抱える。
「ははっ、そんなに大事にかかえなげふっ!? な、何で今俺殴られたの・・・」
「うん、グロリアちゃん、ちゃんと持っててね。大事な物だから」
「そうですそうです。けしてその様子が可愛いからとか、そんな邪な事は考えていませんよ」
「キャス、フラン、欲望が駄々洩れになってますよ」
渡された木の板を落とさない様に、けれど力を入れて割らない様に気を付ける。
この手足は不思議な事に力加減が効くから、持つだけならきっと問題は無い。
けど万が一壊したらきっと迷惑になる。傭兵としての初仕事だし頑張らないと。
「・・・こういう所は子供らしいですね。いや、こんな事で子供らしく見える程、今までの生活が酷かったと考えるべきでしょうか。はぁ・・・ほら、ふざけてないで行きますよ、ガン」
「いや、俺ふざけた覚えないんだけど・・・つーか仕事前なのに腹がいてぇ・・・」
「どうしたのガン。変な物でも食べた? 早く行くよ?」
「お前が殴ったんだよ!」
リーディッドさんに背中を軽く押され、少し慌てつつも足を動かす。
後ろではキャスさんが何故かクスクスと笑い、ガンさんもちょっと笑っている。
不思議に思いつつも黙って歩き、この間来た壁の所までやって来た。
するとガンさんが壁に向かって手を振り、よく見ると武器を持っていた人が立っている。
槍と鎧を付けた男の人で、街に入る時にあった人と同じ格好だ。
確かあの格好をしてるのは兵士さんだっけ。ガライドがそんな事を言ってた気がする。
「ういっす、来たぜー」
「おうガン・・・と、昨日のお嬢ちゃん、いや、お嬢さん、ですね。おはようございます」
「おはよう、ござい、ます」
兵士さんが佇まいを直して礼をして来たので、ぺこりと頭を下げて返す。
何で言い直したんだろう。それに何で私にだけ頭を下げたのかな?
何て首を傾げていると、リーディッドさんにぽんと肩を叩かれた。
「グロリアさん、その手の物を彼に渡して下さい」
「はい、わかり、ました。どうぞ」
「はい、確かに。では宜しくお願いします」
「・・・?」
『よろしく、か。ここまでくれば、大体想像つくな』
木の板を受け取った兵士さんの言葉に、また首を傾げてしまった。
一体何を宜しくされたんだろう。そう思っていると、ガライドが何か気が付いたらしい。
「ははっ、グロリアは今後も来るだろうし、そんなに丁寧にしなくて良いと思うけどな」
「お前らはそれで良いだろうが、こちとら雇われ兵士なんだよ」
「その態度を少しでも俺達に向けてくれませんかねー」
「お前には感謝してるよ。何度も助けて貰ったしな。だがそれはそれだ」
「へーへー。じゃ、通らせてもらうぜ」
ガンさんが兵士さんと軽く話すと、横の扉が開かれた。
そして皆が入って行くので、私も後ろから付いて行く。
中は結構広くて、兵士さんが何人もいた。
その中を真っ直ぐ皆が歩いて行き、兵士さん達は気軽に声をかけて来る。
ガンさんも同じ様に気軽に応え、そして又扉を抜けて外に出た。
そこはこの間来た、壁の向こう。魔獣と戦った所だった。
「おーう、交代に来たぞー」
「あいよー。んじゃ宜しくガン。グロリアちゃんも、またな」
「あ、は、はい。また、です」
ガンさんが壁にもたれかかっていた人達に声をかけると、彼らは応えて壁に入って行った。
いや、壁と思っていた大きな建物の中に。これ凄く大きい壁だと思ってた・・・。
「という訳でグロリアちゃん、森から出て来る魔獣が街に入らない様、警備のお仕事です」
「警備、ですか?」
「そう。この森は通称魔獣の森。正式名称は忘れました! そしてこの地は魔獣領と呼ばれ、この国で一番危ない領地だって言われてるんだよー。実際危ないけど、言う程危なくないのにね」
『どっちだ』
キャスさん説明に、私もガライドと同じ事を思ってしまった。
少し困惑していると、リーディッドさんが壁に背を預けて座りこむ。
そしてポンポンと横を叩いて「来てください」と言われ、素直にトテトテと近付いて座った。
私が座った事を確認した彼女は、森に視線を向けて口を開く。
「この街は森から出てくる魔獣を国に入れない為に作られた街で、傭兵達はその仕事のおこぼれを幾らか頂いているんです。と言えば聞こえはいいですが、実際の所交代制の仕事なんですよ。だからやりたくない人も居るんですよねぇ。私達とか」
『やはり、そういう事か。街の作りからそんな気はしていたが、合っていたのだな』
国に魔獣を入れない為の仕事。この壁の向こうに、魔獣を入れない為。
ガライドは説明を聞く前からそうだと思っていたらしい。
当然私はそんな事気が付いてなかった。
「細かい説明は流石に省きますが、森から魔獣が出て来る時、大半がここに来る様に調整されています。勿論例外はありますが、出て来る時は大概ここからです」
『ふむ、詳しい理屈を聞きたいが・・・グロリアが聞くのは不自然だな。またの機会にしよう』
別に聞いても構わないと思うんだけど、ガライドがそう言うなら黙っていよう。
ただ聞いたとしても、私には全く解らない気がするけれど。
「そして更にここに『餌』を置けば、まあ向かってきますよね?」
「餌扱いを兵士に出来ないから、雇われの『傭兵』にさせる、って事なんだよな。考えると割と酷い話だ。でも苦肉の策だったんだろうなぁ」
「酷いよねー、グロリアちゃん。人を餌扱いとかさぁ」
『成程成程。それで傭兵が持ち回りで仕事をしている訳か。合点がいった』
餌。人間を、魔獣の餌に。流石に本当に食べさせる為じゃないのは解る。
森から出て来た魔獣が、食べようと向かって来るから、きっとそれを倒すんだろう。
ならここは闘技場と変わらない。あの森は、闘技場の門だ。ここが今の私の闘技場だ。
「とはいっても、一定の時期以外はそんなに森から出て来ねぇんだけどな。こうやって毎日誰かが餌になってるのは念の為と、この間みたいな例外の為だな」
「なんで今回はあんなに出て来たんだろうねー。それも結構強いのも居たし」
「・・・私は原因に少し心当たりが有りますけどね。まあ、あくまで予想ですが」
ガンさんとキャスさんの言葉を聞き、リーディッドさんがちらりとガライドを見てそう言った。
もしかしてガライドが知っているのかと思い、首を傾げて球体を見る。
すると彼は物凄く言い難そうな声音で、気まずそうに説明を口にした。
『・・・おそらく、グロリアから逃げた魔獣が出て来たんだろう。あくまでおそらくだが』
「――――――!?」
そ、そんな・・・わ、わたしのせい、だったの?




