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第23話、見習い制度

「君は君が名乗った通り、闘士、なのだな・・・」


 領主さんが何故か困った様な顔で私を見てそう言った。

 けれどきっとその言葉は正しいんだろう。だから頷いて返した。


 望んで闘士になった訳じゃない。けれど私にはそれしかない。

 私に出来る事は闘う事だけ。そして生きる為にも戦わないといけない。

 ならきっと私は闘士なのだろう。戦う事が私の生き方だ。


「解った。ボール、彼女を傭兵に登録してくれ」

「・・・良いんだな?」

『む、傭兵ギルドに? 何故だ?』


 領主さんの判断に、ギルマスさんが確認を取る。

 とても真剣な表情で、問われた訳じゃない私が少し気圧される。

 ガライドもその様子を不思議に思ったのか疑問の声を上げた。

 けれど当の領主さんは、ふっと笑って肩をすくめる


「他ならぬ彼女がそう望むんだ。私に曲げる理由はない」

「・・・そうだな。了解した。おい、誰か書―――――」

「はいはーい! もってきまーす!」

「―――――フラン、せめて指示を最後まで聞いてから出てけよ・・・」


 走り去っていったフランさんを見て、ギルマスさんは溜息を吐く。

 ただすぐに私に顔を向けて、目の前にしゃがみこんだ。


「グロリア。ギルマス権限でお前を傭兵ギルドに所属する正式な傭兵として認める」

「・・・え、と、はい、わかり、ました」


 ギルドの傭兵。に、ならないといけない、のだろうか。

 なった方が良いって事、なのかな。


「ははっ、何でそうなるのか良く解らねぇ、って顔してるな」

「・・・はい、良く、解らない、です」

「だよな。なら責任者として、少し説明をしておこうかね」


 ギルマスさんは私の頭をわしゃわしゃと撫で、ニっと笑顔を見せてくれた。

 解らないと答えた私に対し、怒る気配は一切ない。むしろ楽しそうだ。


「まず傭兵ギルドっていうのは、言葉のまま『雇われ兵』の組織だ。国や貴族に仕える程の実力は無い、もしくは実力が有っても権力に縛られたくない、そんな連中の集まりだ。ギルドが出来た当初はそういう連中が、雇い主に不当な扱いを受けない為に集まった組織だった」

『ふむ、当然と言えば当然の設立理由だな』

「ただ出来た当時は割と争い事が多くてな。仕事には事欠かなかったらしいんだが・・・そっから暫く平和な時代が続いた。結果として傭兵の仕事は激減。じゃあどうしたら良いと思う?」

『・・・そこから傭兵ギルドの形態が変わる、か』


 ギルマスさんの説明を聞いて、ガライドは納得したように答えている。

 けれど問われた私自身は相変らず解らなくて、キョトンと首を傾げた。

 そんな私をみてククッと笑いながら、ギルマスさんは続ける。


「何でもやる様になったんだよ。迷子のペット探しから。危険な魔獣の狩りまで何でもな。当然危険な仕事の方が割りが良い。だが実力に見合わねえ連中も受けようとする。個人で勝手に受けて死ぬ分は知ったこっちゃねえが、余り失敗が続くと傭兵ギルドの信用も無くなる」


 そういえば、リーディッドさんが言ってたような気がする。

 傭兵という名の何でも屋とか。元々は違ったんだ。


「んで出来たのが傭兵見習い、っていう制度だ。正直今は職にあぶれた人間への仕事斡旋所状態の為の制度だけどな。仕事が無いから仕事が欲しい、けど危ない仕事をする気は無い、って人間は大概この項目に入ってる。そして、実力が無いのに危険な仕事を受けたがる馬鹿もな」

『成程、ガンに絡んでいた小僧が見習いな訳だ。あれでは当分見習いのままだろうな』


 あれはガンさんに絡んだというか、ガンさんが私を助けてくれたからな気もする。

 結局何が言いたかったのか聞けてないし、今度機会が有れば聞いてみよう。


「んで、本当はお嬢ちゃんの年頃の場合、正規傭兵には出来ない。だからこの場でそこの領主様が見届けの下、傭兵ギルド支部のマスターとして、特別に傭兵にしました、って訳だ」

『ふむ、成程。だがそれは別に、傭兵にならなければ良いだけではないか?』


 ・・・言われてみればその通りな気がする。

 ガライドが言わなければ、そうなのかと納得していた。


「併せてこの国には、例外を除き子供に危険を冒させるな、っつー感じの決まりが有るんだわ。その例外とされるのが、実力があると認められた傭兵だったり、大貴族や国に特別に認められた人間だったりと、まあ何かしらの特別処置が要るんだよ」

『ああ、つまりグロリアがこの国で自由に魔獣を狩りたければ、傭兵になるしかないのか』


 そっか。私が魔獣と戦う為。解った、それだけ解れば良い。

 難しい事を言われても私にはよく解らないし、必要な事が解れば十分だ。


「駆け足で色々説明したが、解ったか? 少し難しかったか?」

「傭兵に、なれば、魔獣と、戦える。で、合って、ますか?」

「ん~~、まあ良いか。うん、仕方ない。そうだよな、こんなに色々言われても解んねえよな」

「・・・ごめん、なさい」

「謝る必要なんざねえよ。言ったろ、仕方ないって。それに嬢ちゃんの実力なら、無茶をするんじゃねえぞと叱る必要も無いしな。むしろ嬢ちゃんが無茶する相手が出てきた時は、嬢ちゃんに頼らないといけねぇかもしれねぇ。全く情けねえ大人達だ」


 はっと笑いながら、ギルマスさんは周囲を見渡す。

 大半の人がさっと視線を逸らし、気まずそうな顔をしていた。

 女の人達は皆苦笑している。何故だろう。


「という訳でだ・・・ガン、キャス、リーディッド!」

「ういっす」

「はーい」

「・・・はぁ、そんな気がしましたよ」


 ギルマスさんが三人を呼ぶと、三人ともそれぞれの様子でこちらにやって来る。


「正規傭兵になったとはいえ、見習い飛ばしての特別処置だ。暫くの間この三人と一緒に仕事をして、色々と学んで貰う。勿論要望通り魔獣を狩りに行っても良い。だがある程度こいつらと一緒に仕事をしてくれ。不服かもしれないが、納得して欲しい」

『まあ、致し方ないだろうな。むしろ常識の無い我々にとって、同行者は助かる処置だろう』


 三人と一緒。ガンさんと、キャスさんと、リーディッドさんと一緒。

 またあの数日間の様に、楽しい生活を送れるという事だろうか。

 不服なんてあるはずない。嫌な事なんて何にもない。むしろ嬉しい。


 それにガライドも助かると言っているし、きっと私を助ける為の指示なんだろう。

 ギルマスさんも良い人だ。優しい人だ。この人と主人は違う。


「また暫く一緒だねー、グーロリーアちゃーん! うりうりー」

「お前さぁ、いい加減にしないと本当に嫌われるぞ」

「キャスはその辺り解ってやってますよ。むしろ何故ガンが解らないんですか。馬鹿ですか」

「えぇ・・・俺気を遣って言ったのにぃ・・・」

『ガンが一番真面な事を言っているはずなのに、なぜ三人揃うと残念なのだろうか。不思議だ』


 キャスさんに抱き付かれ、頬をすり合わされる。

 ガンさんは良くやり過ぎるなというけれど、私は別に嫌じゃない。

 むしろ離れた後の方が、何故か胸にもにゅっとしたものが生まれる。

 これは上手く言葉に出来ない。無理にする気も無いけど。


「リーディッド」

「何ですか領主様」

「・・・兄上と・・・いやそれよりも、屋敷での彼女の世話は君に任せる」

「何言ってるんでしょうねこのクソ領主は。名も無い傭兵が何故領主館に――――」

「リーディッド。君が連れて来たんだろう。私の事が嫌いでも構わない。だが君がギルマスへ事細かに状況を説明したのは何故だ。彼女を連れて来たのは何故だ。最後まで責任を持て」

「――――、解りましたよ。はぁ・・・仕方ありませんね」


 リーディッドさんのお世話に? でもそれはついさっき、ギルマスさんが言っていた様な。

 それとはまた話が違うんだろうか。ただリーディッドさんの表情はとても嫌そうだ。

 嫌な事は、させたくない。私は、この人には、この人達には、嫌な思いはさせたくない。


「リーディッドさん、嫌なら、良い、ですよ。無理、しないで、ください」

「はぁ~~~~、グロリアさん、貴方は本当にもう・・・ここで我が儘の一つでも言ってくれたら助かるのに、本当に貴方は困りますね。どうやったらあの生活でそんな性格になれるのか」


 そんな性格。嫌な性格、という事だろうか。

 困るって言われたし、きっとそうなんだろう。


 ・・・一番困らせたくない人を困らせてしまった。


 この人には沢山助けて貰った。教えて貰った。

 初めて美味しい物を食べさせて貰って、いろんな物を見せて貰った。

 寝る時に、優しく、頭を撫でてくれた日があったのも、知っている。


 そんな人を、困らせてしまった。嫌な思いをさせてしまった。

 胸に何か重い物が入った様だ。凄く、苦しい。


「一応確認しておきますが、それはグロリアさんへの教育も込み、という事ですね」

「流石我が妹。良く解っている」

「人違いです。勝手に妹にしないで下さい」

「・・・まだ言うの?」

「取り敢えず了承しました。グロリアさんの世話、お引き受けしましょう」

『ふむ、教育か。文字の読み書きや、世間の常識の勉強、といった所か。手厚い待遇だな』


 文字の読み書き。私に出来るんだろうか。

 見た事は何度も有るけど、何かの模様にしか見えない。

 いや、それよりも―――――。


「良いん、ですか? 嫌じゃ、ないん、ですか?」

「嫌なのはあの知らない人としょっちゅう顔を合わせないといけない事であって、グロリアさんが嫌な訳じゃありませんよ。気にしないで下さい」

「・・・ありがとう、ござい、ます」


 胸の重みが、消えてなくなった。嫌になられたかと思った。

 きっと、多分、私はもうこの人達が『好き』なんだ。


 ここに来るまでその感覚は解らなかった。ううん、誤解していた。

 私は食べる事が好きだと思っていたし、疑う余裕なんてなかった。

 けど違う。私が食べるのは好き嫌いじゃない。そうしないと生きられないだけ。

 きっとこの感覚が、気持ちが、好きっていう物だと思う。


「よろしく、お願い、します」

「ええ。宜しく、グロリアさん」


 ぺこりと頭を下げると、彼女は優しく頭を撫でてくれた。

 野営の時に、私が寝ていた時の様に。


『私は中々に見る目が無いな。本当に、最初の印象とは大違いだ』

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