第14話、焦り
ギルマスさんとリーディッドさんが奥へ行くと、私は端にある椅子に座らされた。
隣にはキャスさんが座っていて、何故か他にも沢山人が居る。
この建物に居た女の人の殆どが私の傍に寄って来た。
「あー、大分汚れてるねぇ。綺麗な髪なのにもったいない」
「このドレス、かなりいい物ね。汚れてるけど全然破れてないわ」
「はー、肌ぷにぷにー。良いなぁー」
「こんな可愛い子が魔獣を殴り倒すとか、聞いただけじゃ中々信じられないわねぇ」
「この魔道具やけにぴったりだし、外せそうな部品が無いね。どうやってつけてるんだろう」
「足についてるの、結構重いわよ。よくこの体でこんな重いの付けて歩けるわね」
そして更に何故か皆私の頭を撫でたり、頬をうにうにと触って来た。
中には腕や足を触る人も居て、けど嫌な気分は無いので無抵抗で居る。
「グロリアちゃん、お茶をどうぞー」
「・・・おちゃ?」
良く解らない状況にされるがままになっていると、フランさんが何かを持ってきた。
お茶と呼ばれたそれを見つめ、何となくリーディッドさんの作った物を思い出した。
手に取ると暖かい、というか少し熱い。食事を渡された時の様な道具は無い。
ならこのまま口を付けて良いのかな。
ゆっくり口を近づけて器を傾け、初めての感覚に目を見開く。
「どうかな。口に合いましたか?」
「・・・おいしい、です」
「良かった。私が入れたんですよー」
「・・・ありがとう、ござい、ます」
ニコニコと笑うフランさんに、ぺこりと頭を下げてお礼を言う。
胸が、暖かい。お腹まで暖かい。不思議な味だけど、きっと、これは、美味しい。
なんだか頭がほわほわする。体の力が、抜ける。
「ほらほらフランちゃん、可愛いでしょー」
「確かに。普段も可愛いけど、笑ってると尚の事ですね」
可愛い。何度かキャスさんに言われた。けど自分では良く解らない。
闘技場でもそんな言葉を言われた気がするけど、主人は私を化け物と言っていた。
魔獣と同じ化け物と。一番近い所にいた人間がそう言う以上、私はきっと可愛くは無い。
「そうえいばその魔道具、というか手甲と脚甲つけっぱなしは疲れませんか?」
「結構重そうだし、ここは安全だから、外して大丈夫よ?」
「そうそう、もし盗むような奴が居たら私達全員で殴り飛ばしてあげるから」
「おねーさん達これでも結構強いのよ?」
重い、と感じた事は無い。むしろガライドは凄く軽い。
元の手足より軽いと思うぐらいだ。それに・・・。
「私、これを外したら、手足ない、です。お茶、飲めま、せん」
「「「「「!?」」」」
『あー・・・いや良いか。下手に隠すより言ってしまった方が良いかもな』
手足の事を聞かれたから答えると、何故か皆動きが止まった。
不思議に思って首を傾げていると、ガライドがそう言うので続ける。
「最初に、右腕、落とされ、ました。次に、左足。その後、残りの手足。だから、ガライドが居ないと、私、手足無い、です。目も、潰され、ました」
「「「「「――――――っ」」」」
「今は、ガライドが居るから、手足、有ります。目も、見えます」
『あー・・・グロリア、それはちょっと、言い過ぎかもしれない。いやもう遅いか』
どの辺が言い過ぎだったんだろう。でも斬られたのは事実だ。
手足が無い事が事実な以上、言っても言わなくても変わらない気がする。
あれ、なんだか、皆、顔が険しい、様な?
「フラン! 今のギルマスに言って来て!」
「解った!」
「かわいそうに、痛かったでしょ」
「グロリアちゃん、大丈夫だからね。ここにはそんな奴居ないからね」
「ごめんね、ぶしつけに触って。そっか、これ、手足に付けてる訳じゃなかったんだ・・・」
「どこのどいつだ、こんな可愛い子をそんな目に遭わせたのは・・・!」
「もしかしてこれ、赤い目も魔道具?」
目? 目は治ったと思ってた。ガライドが治してくれたと。
けどどうも違うらしい。目も手足と同じで、魔道具が入ってるみたい。
でも赤いと言われた。何で目だけ赤いんだろう。手足は黒いのに。
「うーん、後で浴場にでも連れてってあげようと思ったんだけど、目立っちゃうわね」
「付けたままでも外しても目立つでしょうねぇ。とはいえ外せない以上目立つのは仕方ないか」
「まあここで暮らすならどっちみち周りが慣れるしかないわよね」
「何か言って来る奴が居たら黙らせましょう」
浴場。って何だろう。どこかに連れていかれるんだろう。
これからはそこで暮らすのかな。そこで魔獣と戦うのかも。
勝てば、また美味しい物を、食べさせて貰えるかな。
なんて食べさせて貰った物を思い出していると、扉がバンと勢いよく開いた。
見ると息を切らした男の人が、部屋の中をキョロキョロ見回している。
「ギルマスは居るか!? 奥か!?」
「ど、どうしたの、慌てて。何かあったの?」
「強いのが出てきたせいで、それ抑えるだけで手が足りねぇ! ギルマスに出て欲しい!」
「はぁ? 兵士達は何してんのよ。その為にアイツらも出てんでしょうが」
「全員でやってるからもってんだよ! 良いから早く! ケガ人も出てんだって!」
「はいはい、すぐに呼んで来るから。ったく、今の現役共は情けないわねぇ」
「早くって!」
「るっさいわね、解ったわよ! あたし達も行くから黙ってな!!」
「は、はい・・・」
「ほら皆、準備ー」
「「「「「はーい」」」」」
女の人がみんなに指示をして奥に向かうと、他の人達もそれぞれ立ち上がって移動を始める。
そして皆色んな所からガチャガチャと武器と防具を出して、それぞれ身に着け始めた。
「ったく、事ある毎に引退した親父引っ張り出すなよ・・・」
「鈍らない様に毎日訓練してる親父の言う事ではありませんね」
皆が武具を身に着け終わった辺りで、ギルマスさんとリーディッドさんが戻って来た。
彼も女の人達と同じ様に防具を身に着けている。
そしてギルマスさんはやたら大きい、体と同じぐらい大きい剣を背負っていた。
いや、剣というか、分厚い板な気がする。あれで斬れるのかな。
「フラン、留守番は任せたぞ」
「はいはいーい。行ってらっしゃい、皆さん」
「お気をつけて、ギルマス」
「何しれっと残ろうとしてやがる。リーディッド、お前はこっちだ!」
「えぇー、私戦闘は余り得意じゃないんですけどねぇ・・・仕方ありませんか。キャス」
「はーい、いっきまーす。あ、フランちゃん、ガンが来たら伝えておいてねー」
「解りましたー」
フランさんが手を振って見送り、残りの人達は全員バタバタと出て行った。
残ったのは私とガライド、そして見送ったフランさんだけだ。
人が居なくなったせいか、部屋の中がやけに広く、静かに感じる。
「はー、皆行っちゃいましたねー」
「そう、ですね」
「あ、心配はいりませんよ。皆さんお強いですから。私以外の女性職員は、みんな元傭兵です。引退した方達が職員として働いているんですよ。まあ皆さん本当に引退したのか疑問ですが」
元傭兵。引退。そうなんだ。皆傭兵の仕事に向かった、という事なんだろうか。
だからキャスさんとリーディッドさんも行ったのかな。
「・・・私は、キャスさんと、リーディッドさんに、付いて行かなくて、良いん、ですか?」
「傭兵と兵士のお仕事ですからねー。グロリアちゃんは傭兵じゃありませんし」
「そう、ですか」
「あ、でも、グロリアちゃんお強いんですよね。なら確かに助かっちゃうのかも」
「たす、かる。私が行けば、助かり、ますか?」
「強い魔獣が出て来たみたいですからねー。倒していただけるなら大助かりだと思いますよー」
魔獣。強い魔獣。強い魔獣が出て来て、皆向かっていった。
リーディッドさんが、キャスさんが、向かっていった――――。
「っ!」
「あっ、グロリアちゃん!?」
解らない。自分でも何故か解らない。けど、嫌な、気持ちが、胸にある。
その気持ちが勝手に体を動かして、外に飛び出していた。
けど周りを見ても、もう皆の姿が無い。二人の姿が、無い。見えない。
『行くのか、グロリア』
「行く。行かなきゃ。だって、だって二人は・・・!」
あの崖の下で、そんなに強くない魔獣にやられそうだった。
強い魔獣が出て来たなら、きっと、二人は、食べられる。
『・・・解った。周辺検索をした結果、確かに他より強い反応が有る。これが件の魔獣だろう』
目の前に『まっぷ』が現れて、大きな赤い光が映った。
その近くに沢山の赤い点がある。いっぱい、いっぱいある。
「っ!」
「グロリアちゃん! どうし――――」
フランさんが建物から出て来て、声をかけて来たのは解った。
けど今の私には彼女の言う事を聞く余裕なんてなくて、全力で飛び上がる。
人が、建物が、小さくなっていく。赤く光る点の方に目を向けると、大きな壁があった。
『森からの侵入者を防ぐ様に砦が有るな。もしやこの街はその為の街か。万が一予想が合っているのであれば、我々は彼らに余計な面倒をかけた事になるな・・・』
ガライドがまた良く解らない独り言を呟いているけど、今は聞いてる余裕がない。
もう皆そこに着いたんだろうか。もう闘ってるんだろうか。
まさか、もう、食べられて―――――。
「っ!」
視界が赤く染まる。体に力がみなぎる。赤く、紅く手足が光り始める。
「っあああああ!」
『っ、また、この数値の上がり方は・・・いや、二度目だ。驚くまい。これがグロリアの力』
光が後ろに放たれ、私を思い切り前に押し出してくれた。
紅い光が空に走る。大きな壁まで、壁の向こうまであっという間に辿り着く。
「な、なんだ、何か落ちて来たぞ!?」
「何だ今の赤いの!」
「おい、下がれ! あぶねえぞ!」
「前に出てた奴は無事か!?」
「今の衝撃で後ろに吹っ飛ばされた!」
後ろの方が騒がしい。けど今はそっちを確認してる暇は無い。
目の前の大きな魔獣を、足のいっぱいな虫の魔獣を倒す方が先だ。
あの時と同じ。土煙の中なのにはっきり見える。
『蜘蛛の魔獣か。巣を張るタイプではなく、足で抑えて噛みつくタイプだ。この手は毒を持っている可能性が高い。おそらく足もかなり固いはずだ。気をつけろ、グロリ―――――』
「があああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
真正面から全力で殴る。紅く光る拳を振りぬくと、そのまま光が走り抜ける。
虫の魔獣を、その後ろにいた魔獣を、森を、土煙を、全て紅が吹き飛ばしていく。
『・・・戦闘になると、本当にサポートのし甲斐が無い。さて、残りの魔獣はどう動くか』




