79 空の乙女
「ミナ!」
抱きかかえていたミナの、その胸元が水色の光を帯びたのにアルフォンスは気付いた。
光はミナを包み込むように広がり、さらに結界の外へと広がっていった。
『っおのれ…我が呪いを…この力は…』
洞窟中を満たした光が消えていき———人の形となった。
「私は…もう『未奈』じゃない」
光の中からミナの声が聞こえた。
「私はこの国を…大切な人たちを守るためにこの世界に生まれた。私はここで生きていくの」
「ミナ!」
「アルフォンス様…力を貸してください」
差し伸ばされた光の手をアルフォンスが取る。
繋がった部分からミナのものによく似た、けれどもっとずっと強い魔力が流れてくる。
「この力は…」
『光の王子。空の乙女。二人の力を一つに』
水色の光の中から女神の声が聞こえた。
『長きに亘る戦いに終止符を』
アルフォンスの身体から金色の光が溢れた。
金色と水色、二つの光が混ざり真っ白な光となる。
『おのれ…!』
石碑が黒い光を帯びた。
広がろうとする黒い光を飲み込むように白い光が包み込む。
強い二つの魔力がぶつかる感覚。
激しい咆哮が洞窟に響き渡った。
光が全て消え去った。
粉々に砕けた石碑の破片が散らばる、その中心にミナを抱きかかえたアルフォンスが倒れていた。
「殿下!」
「……ぅ…」
小さく呻いてアルフォンスは目を開いた。
「大丈夫ですか」
「ああ……ミナ…?」
腕の中へと視線を落とすとアルフォンスは息を飲んだ。
「髪が…」
腕の中にいるのは確かにミナだった。
だがその髪色は黒ではなく、淡い金色となっていた。
「これは一体…」
「———以前、呪いのせいで黒髪になったと言っていましたね」
エーミールが言った。
「つまり呪いが解けて髪色が戻ったという事ではないでしょうか」
『そう。彼女の呪いは全て解けたわ』
女神の声が響いた。
『邪神の力も全て消え去った。魔物の数も減っていくでしょう。ひとまずは安泰ね』
「ひとまず?」
『この世界に神は何体もいる。また別の邪な力を持った神がこの国を狙うかもしれないという事よ』
声のする方を見ると、白い光の玉が浮いていた。
『それが現れる日が来るかは分からないけれど…その度に私はこの国を守る。けれどあの邪神のように私だけでは守りきれない時は、あなた方人間の力を借りるわ』
ふわりと光の玉はアルフォンスの側へ降りてきた。
『光の王子。神の血筋の末裔。王家の血を絶やさぬ限りあなた達は私の力を使う事が出来る。それを忘れないで』
「———はい」
『そしてミナ。異世界の魂を持つ私の愛し子』
くるりと弧を描くと光の玉はアルフォンスの腕の中で眠るミナにそっと近づいた。
『ありがとう。あなたに女神の祝福と加護を。私はずっとあなたを見守っているわ』
光がミナに触れるとその光は水色となり———そして消えていった。