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08 一組

翌朝。

学園へ行きクラス分けを確認すると、やはりミナは一組だった。


一組は十名で、うち女子はミナを入れて二名。

ミナ以外は名字があるという事は貴族ばかりだ。


「私達は三組だよー」

「まあそんなものだよね」

エマとハンナが掲示を見上げながら言った。

ミナ以外の平民の生徒は皆三組だ。

魔法の基礎を知らない平民は三組に入れられるのが普通なのだ。


「でも私、二年生は二組に上がるんだ」

エマが言った。

「それで魔術団で活躍できるよう頑張る」

「…エマは家に帰りたくないんだっけ」

「うん」


エマは田舎の農家出身だ。

魔法学園に入らなければ、村の別の農家の元に嫁がされる予定だったという。


「あんな貧しい土地で畑を耕しながら一生を終えるなんてつまらないもの」

「そっか。頑張ろうね」

ぽん、とハンナがエマの肩を叩いた。


ハンナは中規模の商家の娘だ。

娘が魔術団に入れば伝手ができて商売が広がるかもしれないという実家の期待を背負って入学したのだという。

「だからとりあえず一年間魔術団で頑張ればいいの」と笑っていた。





「お昼は一緒に食べようね」

「うん」

「それじゃあまた後でね」


友人達と別れてミナは一組の教室へ向かった。


(うう、緊張する…)


この中にいるのは貴族ばかりだ。

彼らにどんな目で見られるのか…想像もつかない。


意を決してミナは教室のドアを開いた。



「あ、ミナさん!」


突然の声に驚いて見ると、一人の女生徒が手を振っていた。

促されるまま、その隣の席へと腰を下ろす。


「私、フランツィスカ・バウムガルト。このクラス女子は二人しかいないの。よろしくね」

「…よ、よろしくお願いいたします」

ミナはおずおずと差し出された手に自分の手を重ねた。


「そんなに気負わなくていいわ。私、堅苦しいの嫌いなの」

長い金髪を緩く三つ編みにまとめたフランツィスカは、その緑色の瞳を細めた。


「ミナって呼んでいい?私もフランでいいわ。様もなしね」

「あ…はい」

あっさりと愛称呼びを許したフランツィスカは…確かに昨日見た他の貴族令嬢に比べてずっと気安そうに見えた。


そういえば昨日の測定の時、ミナ以外に強い光を放っていた女子がもう一人いた事をミナは思い出した。




「ミナ、昨日先生に呼ばれて何をしていたの?」

「ええと…魔法が使えるか確認したり、どこで学んだかを聞かれました」

「平民なのにもう魔法が使えるの?」

「はい…孤児院のシスターに教わって…」


「へえ、だから一組なのね」

フランツィスカは笑顔を見せた。

「一組って女子が少ないから一人だったら嫌だなあと思ってたんだけど、ミナがいて良かったわ」


そもそも、魔法学園に入る女子が少ない。

それなりの魔力を持っていても、魔物と戦えるかはまた別の話だ。

特にナイフとフォークより重いものを持たないような育てられ方をしてきた貴族令嬢にとっては魔物など、見ただけで失神してしまうくらいだ。

本人が無理だと思ったり、また家族が反対して入学しない者も多い。



「フランさま…フランは、魔物は怖くないのですか?」

「怖いといえば怖いけれど、弱い魔物なら倒した事はあるわ」

「本当に?」

「このクラスの人達はみんな実戦経験あるんじゃないかしら。ミナは?」

「…一応…」


「あるのか」

ふいに聞こえた声に、びくりとしてミナは顔を上げた。


いつの間にか、側にアルフォンスが立っていた。



「…レディの会話を盗み聞きなんて御行儀が悪いですわ、殿下」

フランツィスカは眉をひそめた。


「レディのする会話には聞こえなかったが?」

笑みを浮かべてアルフォンスはそう返した。

「フランツィスカ嬢、君も魔物討伐の経験があったのか」

「ええ…領地に帰った時に」

「その事はフリードリヒは知っているのか?」

アルフォンスの言葉にフランツィスカはつ…と視線を逸らせた。


「相変わらずだな。フリードリヒは君がこの学園に入る事を反対していたが。婚約者も心配しているのではないか?」


「あの方は兄と違って私のやりたいようにさせてくれますので」

にっこりと笑いながらフランツィスカはそう言った。




「…フランは、殿下と親しいのですか?」

アルフォンスが席に着くのを横目で見ながらミナは尋ねた。

先ほどの二人の会話はずいぶんと親しそうな仲に見えた。


「兄が殿下の侍従を務めているの。私も幼い頃からお会いしているわ」

フランツィスカは答えた。

「それに婚約者も殿下と親しいわ」


「そうなんですか…」

フランツィスカはアルフォンスに近い人間なのか。

———そういえば小説でも、一組の女子は三名いて。

ヒロインとミナ、もう一人は出番があまりなかったけれど…確か代々王家の侍従を務める家系だとあったのをミナは思い出した。




「よし、全員揃っているな」

教室のドアが開くとライプニッツ先生が入ってきた。


「俺はこの一組の担任のヴァルター・ライプニッツだ。このクラスは最初からバンバン鍛えていくから覚悟しとけ、ついてこれない奴は二組に落とすからな」

教壇に立つと先生は生徒達を見渡した。


「まずはお前達の今の実力を見せてもらう。訓練場へ行くぞ」

先生の言葉に、生徒達は椅子から立ち上がった。

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