77 闇の森
「ここが祠…?」
樹々の間から現れた洞窟の、ぽっかりと空いた穴の奥は真っ暗で、そこから漏れてくる邪悪な気配は凍りそうなほどの冷たさを感じた。
「この洞窟の奥だ。入るぞ!」
洞窟に飛び込んだ途端魔物の気配が消えた。
背後を振り返ると、倒しきれなかった魔物達が洞窟の前に集まっている。
「ここまで追ってこないのか」
「入れないのだろう…結界を決して解くな、おそらく魔物ですら近寄れないほどの邪気が充満している」
「防御魔法を重ねろ。火魔法で灯りを灯せ」
エーミールの言葉を受けてブルーノが命じた。
灯りがつくと、不気味な空間が浮かび上がる。
その先は長く…闇に吸い込まれていくような錯覚を覚えた。
足音ですら吸収してしまう、ひどく静かな洞窟の中を慎重に歩いていくと、やがて開けた空間に到達した。
正面には大きな石碑のようなものが置かれていた。
古びていてかなりかすれているが、文字が書かれているようだった。
「これが邪神を封じた石か…」
呟いたエーミールの声が反響して響いた。
『よう来たな』
洞窟内に大きく響いた、それはローゼリアの口から聞こえた女の声だった。
「邪神…!」
全員が身構えた。
『鼠共が大勢で来ても我は倒せぬわ。ここは我の力が最も強い地だからの』
本来、この祠は邪神を封じる場所だった。
だが封印しきれず、漏れ出した邪神の魔力が積もり続け…いつしか最も闇の魔力の強い場所となってしまった。
過去幾度も光魔法を持つ王子が邪神を倒そうとここまで来たが、再封印出来てもまたしばらくすると邪神の魔力が漏れ出してしまう。
その繰り返しだった。
これ以上は繰り返さない。
その為にミナはこの世界に呼ばれ力を与えられたのだ。
(絶対に…失敗は出来ない…でも…本当に出来る…?)
守られているはずの結界の中へも、あまりにも濃い邪神の魔力がじわじわと流れ込んでくる。
こんなに強い魔力を完全に封じる力が…本当に自分にあるのだろうか。
不安になったミナの手を温かなものが握りしめた。
「大丈夫だ」
顔を上げるとアルフォンスがミナを見つめていた。
「私がついている」
「…はい」
そうだ。
アルフォンスはいつもミナの側でミナを見守っていてくれる。
一人ではないのだ。
ミナはアルフォンスの手を握り返した。
「ここで全てを終わらせる」
ミナから手を離すとアルフォンスは剣を抜いた。
『何人もの王子がそう言ってここへ来ては半端な封印で満足して帰っていきおったわ』
嘲笑うような声が響く。
「今回は違う。女神の力は一つではない」
『ふ、その小娘は生まれ落ちた時に我が呪いをかけた者———まだ完全にその呪いは消えておらぬ』
真っ黒な光がミナの視界を覆った。
「ミナ!!」
アルフォンスの叫び声を遠くに聞きながら、ミナの意識は闇へと吸い込まれていった。




