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【コミカライズ&書籍化】空の乙女と光の王子(旧題:私、悪役令嬢だったようです)  作者: 冬野月子


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75 闇の森

「今日はここで宿泊する」

暗い森とはいえ、まだ日暮れ前。

休息するには早い時間だったが、やや開けた場所に来るとブルーノはそう告げた。


「明日は祠に到着する予定だ。偵察隊からこの先で魔物の気配が濃く感じられるとの報告があった。つまり今日しっかり休んで明日一気にけりをつける。分かったな」

一同が頷いたのを見ると、ブルーノはテントの用意をするよう指示を出した。


討伐隊は総勢十五名。

内、女性はミナを含めて三名。

この三人で同じテントに泊まる。

———最初アルフォンスはミナと同じテントに泊まると主張したが、それだけはダメだとブルーノとエーミールにきつく言われて仕方なく諦めたのだ。

例え婚約者であっても、婚姻前の男女が同室で一夜を過ごす事は許されない。

それは貴族の多い魔術団でも同じだ。



「ふふ、また王子様が未練がましくこちらを見てるわ」

女子三人でテントを立てていると、女性魔術団員のアデーレがミナに囁いた。


「昼間あんなにべったりくっついているのにまだ物足りないのね」

もう一人のコリンナも笑顔で言った。

「…すみません…」

バカップルと思われているのではないか。

ミナは顔を赤くしながらそう言った。


「いいのよ。初々しくていいわー」

「まだ十七歳だものね」

当初、団員達はアルフォンスと婚約予定のミナに対し、アルフォンスのように敬語で接しようとした。

けれどミナにとっては彼らは魔術師の先輩。

どうか普通に接して欲しいと頼んだのだ。


なので女性二人もミナに対し、気軽に接してくれる。

王宮で未来のお妃として扱われていたミナにとって、彼女達の態度はありがたかった。




テントを張り終えると周囲に結界を張り食事の用意をする。

食事といっても簡素なものだが、それでも馬から降り、緊張感から解放されて皆で食べる食事は美味しい。

明日はいよいよ邪神と対峙するというのに、団員達は楽しそうで雰囲気も穏やかだ。



「ミナ、これも食べるか」

デザートのリンゴを食べ終えてお茶を飲んでいると、アルフォンスが自分の分を一切れ差し出してきた。


「いえ、大丈夫です」

「あまり食べていないだろう」

「…でももうお腹がいっぱいなんです」

心配そうに見るアルフォンスにミナはそう答えて微笑んだ。


「だが明日に備えてもっと栄養を取らないと。一口でもいいから」

「……」

諦める事なく目の前に差し出され続け、仕方なくミナはリンゴを一口かじった。


(…本当に…毎日毎日…)


満足そうな表情のアルフォンスを見ながらミナは心の中でため息をついた。

出立してから、食事の時は毎日のようにこうやってアルフォンスはミナに少しでも多く食べさせようとする。

王子手ずから食べさせる様子に最初の頃は団員達も驚いていたが、さすがに十日間も続くと見慣れたのだろう、こちらのやりとりを気にとめる様子はなかった。



(それにしても…アルフォンス様の過保護っぷりは…)


ミナがアルフォンスとの婚約を受け入れる事を決めてからの、アルフォンスのミナへの態度は甘さが増すばかりで、長年従者を務めているフリードリヒも驚くほどだった。

そうしてあまりにもミナの身体を心配するものだから、「婚約者というより保護者ですね」とまで言われてしまったのだ。


平民として、そして孤児院で揉まれてきたミナは決してひ弱ではない。

小柄な方だけれど、体力もある。

アルフォンスもそれを分かっているはずだし言葉でも伝えているのだが…どうにも止まらないようだ。

その心配ぶりは、食事だけでなく王宮での生活やお妃教育の事まで多岐に渡る。


(なんだっけこういうの…『オカン男子』?)


ふと前世の言葉を思い出した。

アルフォンスの保護者ぶりは、父親というよりも母親に近い。

けれど、自分を大切にしてくれる事は嬉しいけれど…ミナだって護られるばかりではないのに。



「ほらもう一口」

少しモヤモヤしながら、ミナは更に差し出されたリンゴを無意識に口にした。


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