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71 二回目の実戦

「改めて紹介するね、彼はブルーノ・バルシュミーデ。邪神討伐隊の隊長を務めてもらう」

ミナはアルフォンスと共に、王宮から来た馬車に乗っていた。

目の前にはエーミールとブルーノが座っている。


王宮に戻るというエーミール達がアルフォンスと同乗するのは分かるが、ミナまで王宮に行くのは兄から伝言が届いたからだ。

———娘の事が心配なあまり宰相の仕事が手につかない父親に、少しでも早く無事な姿を見せてやって欲しいと。



「ブルーノはいつもはハルトヴィヒ殿下の下に付いているけれど、殿下が不在の時はリーダーを務めているし経験も豊富だ。安心して任せられるからね」

ハルトヴィヒは討伐に参加しないという。

本人は行きたがっているのだが、さすがに王子が二人とも行くという訳にはいかないのだ。


「よろしくね、ミナ」

「…よろしくお願いします」

差し出された手は長身の彼らしく大きく、握手の強さは頼り甲斐を感じさせた。



「それで、二人の戦闘力はどうだった」

エーミールがブルーノに尋ねた。


「魔力の高さは魔術団の中でも上位に入るだろう。魔物に対する反応も判断力も悪くない。問題は実戦経験の少なさだが、これは討伐前に何回か魔術団の実戦に参加して経験を積んでもらいたい」

「個々の問題点は?」

「そうだな、ミナは少し集中力に欠ける所があるようだ。我々の動きに気を取られていただろう」


「…はい」

身に覚えのあるミナはコクリと頷いた。

「魔物との戦いでは一瞬の隙が命取りになる。集中力を維持させ続けるのは大変だが、少なくとも目の前に魔物がいる時は決して気を抜くな」

「はい」

「それから殿下ですが」

ブルーノはアルフォンスを見た。

「エドモントの指示に従うのが不満なようでしたが。リーダーの指示は絶対、それを覚えておいて下さい」




「———そのようなつもりはなかったが」

「どこまで自覚していたかは分かりませんけれど、リーダーの指示への反応で分かるんですよ、その指示に対してどう思っているのか」

経験豊富だという言葉を裏付けるように、ブルーノは言葉を続けた。

「例えその指示が間違っていたとしても従わなければならないのが決まりです。チームに大切なのはリーダーの能力と信頼関係。エドモントは確かに最初は固かったが、命令の出し方や中身に問題はなかった。つまり今回の問題は殿下とエドモントの間の信頼関係ですね」

「———エドに対して思う所はあるでしょうが。実戦の時は私情は忘れていただきたいですね」

エーミールが言った。


「何か心当たりがあるのか」

「ま、年頃だからな」

意味ありげにミナへ視線を送ってエーミールが答えると、察したのだろうブルーノは小さくああ、と呟いた。


「エドももうそんな色気付く年頃になったか。兄は変な女に引っかかったが、弟は見る目があるようだな」

「…そうだな」

苦笑しながらエーミールは頷いた。



「そうか…。色恋沙汰は魔術団の中でも時々問題になりますが、任務中はそういったしがらみを全て忘れて協力するものですよ、殿下」

「…分かっている」

アルフォンスはそう答えてふいと顔をそむけた。




「ところでミナは誰がいいんだい?」

「えっ」

突然ブルーノに振られてミナは目を見開いた。


「だ、誰って…」

「君の選択次第でチームの雰囲気も変わるし討伐隊の作戦にも影響が出るからな」

「え…」

「おい、あまりミナを追い詰めるな」

エーミールがブルーノを小突いた。


「隊長として隊の人間関係を把握しておくのは当然だ」

「だとしても当事者がいる前でそんなデリケートな事を言えないだろう」

「そうか。ではミナ、その件に関しては後で…」

「ミナは私の妃になる」

アルフォンスがミナを引き寄せて言った。

「もう王太子妃の指輪も渡してある」



「え」

ミナは思わずアルフォンスを見た。

「…もしかして…この間の…」

誕生日に渡された指輪を父親に見せると「まさか…」と慌てた様子を見せていたのだ。


「や、やっぱりお返しした方が…」

「持っていてくれと言っただろう」

「———騙し討ちですか殿下」

「ミナ以外に渡すつもりはないから先に渡しただけだ」

エーミールを見てアルフォンスは答えた。


「本人の同意を得ていないようですが?」

「ミナは私の妃になるのが嫌なのか?」


「え…い…嫌…という訳では…」

手を握りしめられ、息がかかりそうなほど間近で見つめられながらアルフォンスに問われて、ミナは顔に血が集まるのを感じた。



「同意は得たぞ」

「それは同意とは言いませんよ」

勝ち誇ったような顔のアルフォンスに、エーミールはため息をついた。


「婚約者でもない女性にその距離はいかがかと思いますよ」

「じきに婚約するのだから問題ない」

「殿下と婚約するとは限らないではありませんか」



「そもそも国王が言い出した婚姻話だ。なぜお前の家が横槍を入れてくる」

「…苦労をかけている弟の望みを叶えてやりたいと思うのは当然ではないですか」


睨みつけるアルフォンスを見つめ返してエーミールはそう答えた。

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