69 二回目の実戦
「やあ。今回もよろしくね」
実戦地である森の入り口には、エーミールをはじめとした五名の魔術団員が待っていた。
その中にハルトヴィヒの姿はないが、一際背の高い男性は夏休みに教会へ行く途中で会った事がある。
ブルーノ・バルシュミーデという、ハルトヴィヒの隊の副長を務めていると紹介された人だ。
今日は一組十名と担任、五名の魔術団員の計十六名の大所帯チームで実戦を行う。
生徒達には前回から魔物が増えているため、その調査を兼ねた生徒達の護衛として魔術団員が参加すると伝えてある。
けれど実際は、邪神討伐に向けてミナとアルフォンスの能力を知るために彼らも参加するのだと聞かされていた。
邪神の祠にたどり着くまではミナ達も魔術団の一員として魔物との戦闘に参加しなければならない。
今日はその為の訓練でもあるのだ。
「それじゃあエドモント。後はお前が仕切るんだ」
ライプニッツ先生とエーミールとの間で最終確認を終えると、先生の言葉にエドモントは一同を振り返った。
「出発!」
サブリーダーで先鋒のアルフォンスを先頭に、一同は森へと入っていった。
前回は初夏の心地良い空気に満ちていた森だが、今日は秋の冷たさを感じさせる風が吹いていた。
それでも魔物さえ出なければ散策するには良い気候だ。
孤児院では今の季節になるとキノコなど秋の恵みを採りに毎日のように山に入っていた。
———あの山も今は魔物が多く、子供達は入れなくなってしまった。
(早く、元の生活に戻れるといいのに)
それは全て、ミナが邪神を倒せるかにかかっている。
自分の役目の重さと大切さを改めて感じながら、ミナは森の奥へと歩みを進めていった。
前回と違い、森は頻繁に魔物が出没した。
だがほとんど一、二頭、多くても五頭と一度に出る数は少なく、生徒達の力で難なく倒せた。
「前回から随分と腕を上げたな」
「これはもう新人団員レベルには達していますね」
「一年生でこれだけ連携が取れるのはすごいな」
リーダーの指示の元、的確に各自の役目を果たし動く生徒達にエーミール達魔術団も感心していた。
このクラスは連携力が高いと先生達も褒めている。
それに夏休み中、皆個々に領地などで自主練を行いレベルを上げていたのだ。
———それでも、実際に魔術団の戦闘を見たミナからすればまだまだだと思えた。
「それではここで休憩する。何かある者は申し出てくれ」
折り返し地点へと差し掛かったところで休憩を取る事になっていた。
休憩といっても魔物が出る森の中、交代で見張りをしながら軽い食事を済ませていく。
「…訓練の中で一番キツいのが、実はこの食事なのよね」
細長く切った干し肉をかじりながらフランツィスカが言った。
「やっとこの味と固さに慣れてきたけど」
魔物の討伐では森の中で数日過ごす事もあるため、食事も日持ちのする干した肉や果物といった携帯食になる。
柔らかな食事が基本の、貴族令嬢であるフランツィスカには確かにキツイのだろう。
「ミナは?」
「私はいつももっと固いのを食べていたから…」
貴族が食べるようなものではないとはいえ、貴族が多い魔術団の干し肉は平民の手に入るものよりずっと上等なものを使っている。
孤児院では安くて固い干し肉しか買えなかったのだ。
もしも孤児院の子達がこの干し肉を食べたら御馳走だと喜ぶだろう。
ミナにとっても今食べている携帯食は美味しいと思えるものだった。
「もっと固い肉か…」
二人の話を聞いていたアルフォンスが呟いた。
「平民はそんなものを食べなければならないのか…大変だな」
「…でもそれが当然と思っていますので」
もっと柔らかくて美味しい干し肉も、甘いお菓子も存在するのは知っている。
憧れる気持ちはあるけれど、同時に自分達には手に入らないものだという事も知っている。
固い干し肉はアルフォンスや貴族達からすれば貧相な食べ物でも、平民にとってはいつも食べる馴染みの味なのだ。
———現にミナは、孤児院で食べていた干し肉をもう一度食べたいと、懐かしく思い出していた。
(その内…私は柔らかいお肉の方が馴染みの味になってしまうのかしら)
そう思って、ミナは少し寂しく感じた。




