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【コミカライズ&書籍化】空の乙女と光の王子(旧題:私、悪役令嬢だったようです)  作者: 冬野月子


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67 誕生日

「ミナ」

王宮に着いた馬車の扉が開くと、フロックコートに身を包んだアルフォンスが立っていた。


「———綺麗だな」

差し出された手を取り馬車から降りたミナの姿を見つめて、その漆黒の瞳が細められた。



今日のミナは瞳と同じ、水色のドレスをまとっていた。

小さな真珠を小花の形に縫い付けたこのドレスは、何着も仕立てた昼用のドレスの中で一番手の込んだものだ。

王子の誕生日に招待されたのだからこれを着用するよう言われたのだ。


化粧は控えめに、それでも白い肌に薔薇色の口紅を差したその姿はいつもと異なり、ミナを随分と大人びて見せた。


「…本日はお招きありがとうございます」

アルフォンスに会ったらきちんと淑女の礼を取るように母親から言われていたのだが、しっかりと握られた手が離される気配もなかったので、仕方なくミナはアルフォンスを見上げると言葉だけを伝えた。

「ああ。来てくれて嬉しいよ」

心から嬉しそうにアルフォンスは笑顔を見せた。




本来ならば、王子の誕生日は盛大な祝いの席を設けるのだという。

だが魔女の事件が起きて以来、そういった事はすべきではないとハルトヴィヒの誕生祝いを行う事はなくなり、それに倣うようにアルフォンスの誕生祝いも行われなくなったのだ。


王族の中では毎年祝っていたというが、家族以外を招く事は———そもそもアルフォンスがお茶会として誰かを招待する事自体、初めてなのだと父親から、そしてフランツィスカからも聞かされていた。



アルフォンスにエスコートされたミナが連れてこられたのは、王宮の奥にあるサロンだった。

大きな窓から日差しが注ぐ明るい室内には王家の象徴である赤い薔薇が壁一面に描かれ、ティーセットが並んだテーブルの上には水色の花が飾られている。


席に着くと、音もなく現れた侍女たちが色とりどりの菓子を並べ、お茶を注いでまた音もなく壁際へと去っていった。






「アンネリーゼ嬢がトラウトナー公爵と会うという話は聞いたか?」

美味しいお茶を楽しみながらの会話が先日のローゼリアの尋問の時の事に及ぶとアルフォンスが言った。


「はい…聞きました」

王都の教会に滞在していたリゼの姿を、トラウトナー公爵家と関わりの深い者が見かけてしまい、その事が公爵にまで伝わったのだと言う。

娘の無事を知った公爵から、会って謝罪をしたいと教会を通じ連絡があったのだ。


父親との再会を渋るかと思われたリゼだったが、意外にもあっさりと了承した。

———魔女の事件の原因が邪神という存在であった事が分かった事や、ミナが家族と和解する姿を見て思う所があったらしい。


家族と和解できた事は、ミナの心を随分と軽くした。

だから突然家を追放されシスターとなり、苦労してきたリゼの心も、家族と話をする事で少しでもその重荷が減って欲しいとミナは願った。



「これでアンネリーゼ嬢が公爵家に戻れれば兄上も安堵するかと思ったが…どうやらそうでもないらしい」

「…どうしてですか?」

「未来の王太子妃となる予定だったほど家柄も見目も良く、才もあるアンネリーゼ嬢だ、公爵家に戻れば引く手数多だろう。一度自ら婚約破棄をした兄上からすれば気が気でないのだ」

「…なるほど…」


リゼは二十二歳。

貴族令嬢としては既に行き遅れの年齢だが、まだ若い。

彼女を妻にと望む者も多く出てくるのだろう。

———けれどそれは、リゼにとって幸せな事なのだろうか。


シスターの仕事は大変だけれど、それでも子供達を優しく、ときに厳しく見守るリゼの姿を間近で見てきた、そして平民の生活を知るミナにとって、貴族として生き政略結婚をする事がリゼにとって良い事なのか、分からなかった。



「ミナ?」

考えが表情に出ていたのであろう、アルフォンスが首を傾げた。

「どうした」

「…いえ…貴族に戻る事がシスターにとって幸せなのかと…」


「———それは、公爵令嬢よりもシスターである事の方が良いと?」

不思議そうに答えて、アルフォンスは思い出すように視線を宙に逸らした。

「…確かに、アンネリーゼ嬢は以前に比べて顔つきも口調も穏やかになったな」

「そうなのですか」

「兄上の隣でいつもピリピリしていて、正直怖い存在だった」

そういえばリゼも以前言っていた。

貴族社会から追放されたおかげで、自分のダメな部分を知る事ができたと。


あの事件は悲劇をたくさん産んだけれど、悪い事ばかりでもなかったのだ。




「ミナは、アンネリーゼ嬢はシスターのままの方がいいと思っているのか?」

「…私は…本人が望むようになって欲しいと思います」

このままシスターであり続ける事と、公爵家に戻る事。

どちらがリゼにとって幸せなのかミナには分からない。


けれど、これまで周囲によって生き方を決められてきたリゼが自分で望む道があるならば、それを叶えて欲しいと思うのだ。

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