66 復学
教室までの道すがら、そして昼休みに食堂へ向かう途中。
ミナは幾つもの自分へ向けられる視線を感じていた。
フランツィスカやエマ達が言っていたように、ミナの素性の噂は学園中に広まっているのだろう。
好奇と、値踏みするような、あまり好意的とはいえない視線が、教室の外にいる時は絶えず注がれ続けた。
フランツィスカから学園でミナの素性が広まっているらしいと聞いたと家族に伝えると、知られるのは時間の問題だったのだし、社交界に入ればより多くの者からの興味を受ける事になる、今のうちに慣れておいた方がと言われたけれど…本当に、これらに慣れるのだろうか。
一組の級友達は変わらない態度だったのが救いだった。
放課後、ミナはアルフォンスと共に担任のライプニッツ先生に呼び出された。
「魔術団から連絡があった。冬前に行われる討伐隊に二人が参加すると」
「はい」
「理由も聞いた。二人が行かない訳にはいかないのだろうが———ミナ」
先生はミナを見据えた。
「お前、ネズミの件はどうなんだ?」
「それは…まだ…あれから遭遇していないので…」
「闇の森はあの時よりもずっと危険な場所だし魔物の種類も強さも格段に違う。またパニックになったら命取りだぞ」
「…はい」
ミナは頷いた。
ミナがネズミ嫌いとなった原因である、母親とは和解できた。
邪神の呪いも解けているのだろう。
けれどネズミを克服できたかと言われると…自信がないのだ。
「その時は私がミナを守る」
アルフォンスが言った。
「殿下が守れない時は?それに、殿下も守られるべき存在でしょう」
そう答えてライプニッツ先生はアルフォンスに向いた。
「学園での実戦訓練と実際の討伐は全く別物。二人の腕も、学園内では優秀だけれど魔術団の中ではまだ新人レベル。今回の討伐では、出番が来るまで二人とも自分の身を守る事を最優先させる事だ。そのためにもミナ、お前は苦手なものを克服しなければならない」
「…はい」
「そこで、近い内に前回と同じ森へ実戦に行く事にした。———同じとはいえ前回より更に魔物が増えているとの報告もある。こちらの能力も前回よりは上がっているが、一組全員のチームで、入るのも前回より手前までだ」
ライプニッツ先生はミナを見て、もう一度アルフォンスに向いた。
「それから今回、リーダーはエドモントに務めてもらおうと思っている」
「…エドモントに?」
「彼も未来の団長としてチームを纏める経験を積まないとならないからな。殿下にはサブリーダーとして彼を支えてもらいます。人の下に付くという経験も大切ですよ、殿下」
「———そうか。分かった」
一瞬顔を強張らせたが、アルフォンスはそう答えて頷いた。




