65 復学
「ミナー!」
「久しぶりー」
翌朝、登園前に荷物を取りに寮へ寄ると、エマとハンナが出迎えた。
「久しぶり。元気だった?」
ハグし合うと、ハンナがじっとミナを見つめて来た。
「…ミナ、また綺麗になったね」
「え?」
「ホント、お肌つやつや」
「すごくいい匂いもするし」
それは家にいる間、毎晩侍女達に磨かれていたからだろう。
貴族の女性にとっては当然の嗜みらしく、肌を磨かれ、香油を髪や肌に塗り込まれているのだ。
「———ミナがね、どこかの偉い貴族の子なんだって噂になってるんだけど」
エマが言った。
「ホント?」
「…あ…ええと…うん…」
観念してミナは頷いた。
「色々あって……家に戻る事になったの…」
「そうなんだ」
「前から話してたんだよね、ミナはきっと貴族の子だよって」
エマとハンナは顔を見合わせた。
「…そうなの?」
「私達とは何か雰囲気が違うし、魔力も強いし。学園でも前からそういう噂は流れてたんだけど、最近急にまたその話が出てきたよね」
「とっても偉い…宰相様だっけ、そこの子だって」
「…それは…最近私が家に帰ったりしているのが知られたらしくて…」
ミナは目を伏せた。
「ごめんね、黙っていて」
「仕方ないよ、事情があるんでしょ」
「うちの親も言ってるよ、貴族は色々と面倒な事や隠し事が多いから気を使うって」
商家のハンナが言った。
「でもミナ、ご家族とは上手くやっているの?」
「…うん…皆優しくしてくれる」
「そう。良かった」
「…私が貴族に戻っても…友達でいてくれる?」
それはミナが一番恐れていた事だった。
黙っていた自分を二人はどう思うのか、距離を置かれてしまうのではないか…。
せっかく出来た友人を失うのが怖かった。
「当たり前じゃん」
「ミナこそ、ずっと友達でいてよね」
「…うん!」
笑顔で答えた二人に、ミナもほっとして笑顔になる。
三人はもう一度ハグを交わしあった。
「そういえば、ローゼリアさんは退学したんだって」
寮から学園へと三人で向かう途中、エマが言った。
「…そうなんだ」
「何か病気で、変な事を言ってたみたい。領地に帰って治療するって」
ローゼリアの事はミナも聞いていた。
結局学園に入ってからの記憶は失ったままで、前世の事も覚えていないらしい。
それでも彼女の狂言は消える事はなく、学園を去り、しばらく王都から離れて領地で過ごさせる事になったのだと。
(どうか…ローゼリアが幸せになれますように)
ミナの転生に巻き込まれ、邪神によって転生させられ歪んだ記憶を植え付けられたローゼリアの未来を願いながら、ミナは久しぶりに学園の門をくぐった。




