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【コミカライズ&書籍化】空の乙女と光の王子(旧題:私、悪役令嬢だったようです)  作者: 冬野月子


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62 邪神

ゆっくりと光が消えていった。



「———ミナ!」

全員が強い光に目が眩む中、最初に動いたのはアルフォンスだった。

蹲るミナへと駆け寄るとその肩に手を乗せる。


「大丈夫か」

「…は…い」

頷こうとしたミナの上体が大きくふらついた。


「ミナ!」

「…ちからが…ぬけて…」

光に包まれた時、自分の魔力がごっそり抜けていくのを感じたのだ。

「シスターは…」

アルフォンスに支えられながらミナは頭を巡らせた。



「アンネリーゼ…」

ハルトヴィヒが倒れたままのリゼを抱き起こした。

先刻よりは生気の戻ってきた頬に指先が触れると、ぴくりと動いた。


「アンネリーゼ…大丈夫か」

長い睫毛が震えると、ゆっくりと緑色の瞳が開いた。

「…私が分かるか」

「…ハル…ト…さま」


「———良かった」

ハルトヴィヒはリゼを抱きしめた。

「二度も君を失う所だった…」




「…今の光は……」

司祭長は周囲を見渡すと、倒れているローゼリアに目を止めた。

「邪神は…?」


「…う」

呻き声を上げたローゼリアに一同が身構えた。



「ん…あ…れ」

身体を起こしたローゼリアは不思議そうに辺りを見回した。

「ここは…?」


「ローゼリア!」

「———お母様?お父様も」

男爵夫人が声をかけるとローゼリアは両親を見、それから自分を見つめる人々を見て首を傾げた。

「ここはどこ…?その人たちは…?」


「ローゼリア…覚えていないのか」

「覚えて?何を?」

ローゼリアは不思議そうに頭を巡らせた。

「私…入学式に向かっていて…それから…?」


「———入学してからの記憶がないのか」

「入学してから?」

「今はもう九月なのよ」

「え…ええ?!」


「…男爵。別室を用意するから娘を休ませろ」

「はっ」

混乱するローゼリアを支えるリーベル男爵一家を退出させると、司祭長は一同を見渡した。




「とりあえず邪神はあの娘からいなくなったようだな」

「先刻の光で消えたのでしょうか…」


『消えたわけではないわ』


ふいに上から声が聞こえてきた。



「この声は…」

「女神?!」


『邪神はミナと王子の力によってローゼリアの中から弾き出されたわ』

壁にかけられた、淡く光を帯びた女神像から声は聞こえていた。


「女神…邪神はどこへ行ったのです」

『おそらく西にある、邪神を封じていた祠ね。深い森の中にあるわ』

「西…もしかして〝闇の森〟でしょうか。元々魔物が多い森ですが、最近特に凶暴化かつ増加していると報告のある」

『ええ。邪神が力を増してきたと共に魔物も力を増しているわ』

エーミールの言葉を女神は肯定した。

『あの森を邪神ごと浄化しなければこの戦いは終わらないの』


女神像から光の玉が一つ離れると、ふわりとミナの前へと飛んできた。


『ミナ。力を使えるようになったわね』

「…今の力が…」

『母親へのわだかまりが消えて心を覆っていた闇が消えたからね。けれど力を使うとあなたに負担がかかってしまう…おそらく、邪神を倒せるチャンスは一回限り』


「一回…」

『それ以上力を使ったらあなたの身体が持たないわ』




「討伐計画を立てましょう」

エーミールはハルトヴィヒと顔を見合わせた。

「あの森へ入る討伐隊を結成して、万全の準備をしないとなりませんね」

「ああ。雪が降り出す前に片付けなければな」

頷くとハルトヴィヒはミナを見た。


「ミナ。闇の森は名の通り昼でも暗く、深い森だ。ただ入るだけでも難しい場所だが…行けるか?」


「———はい」

ミナは大きく頷いた。

「もうこれ以上…邪神の呪いで苦しむ人を増やしたくないんです」

「ありがとう」




「…ところで。ローゼリアの言っていた、兄上が…死ぬだの、そう決まっているだの。あれは何だったのだ」

アルフォンスが言った。

「この世界がゲームだか小説だとか言っていたな」


『あれは邪神が自分の思い通りに彼女達を動かすためにかけた洗脳よ』


「洗脳?」

『ローゼリアやハイデマリー、そしてミナが元いた世界で遊んだり読んでいた物語を、この世界に実在する人物や出来事に置き換えて、さも自分が物語の世界の主人公であるように思わせたのね、あの邪神は人の心につけこむのが得意だから。ミナ、あなたも洗脳されていたでしょう』


「洗脳…だったのですか」

ミナは瞠目した。

「私…最近急に…思い出せなくなって…」


『それはあなたが邪神の呪いから解放されたからよ』

「そうだったんですね…」

つまり、この世界を元にしたゲームや小説は存在していなかったという事なのか。


「ミナ?君もそのゲームとやらを知っていたのか」

「は…い…」

アルフォンスの問いにミナは頷いた。

「でも今は…思い出せなくて…」

『思い出せないのではなくて、そんなものは存在しなかったの。そのうち完全に忘れるわ』

「そう…なんですね」

覚えていると思っていたのに思い出せない、胸の中にあるこのモヤモヤした感覚もやがて消えるのだろうか。


それはスッキリするようで、どこか寂しさも感じさせるものだった。

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