61 邪神
「アンネリーゼ!」
部屋を飛び出したハルトヴィヒの後をミナも慌てて追った。
隣室へ飛び込むと、床に倒れたリゼとその傍に膝をついたエーミール、そして剣を抜きローゼリアと対峙するアルフォンスの姿があった。
「アンネリーゼ…!」
「ミナ!回復魔法を!」
「っはい…!」
エーミールの声にミナは慌ててリゼの側へと駆け寄った。
『我が力に回復魔法など効かぬわ』
に、とローゼリアは口端を上げた。
「お前…邪神か」
剣先をローゼリアに向けてアルフォンスが口を開いた。
「その娘に取り憑いているのか」
『まったく、なかなか上手くいかぬの。ハイデマリーの時はいま少しという所で小娘の存在のせいで王太子の目が覚めおったわ』
床に倒れたリゼを忌々しげに見つめてローゼリアは言った。
『このローゼリアはおつむも魔力も弱くての、ろくに魔術も使えぬ』
「シスター…」
ミナはリゼの手に触れた。
ひどく冷たい、生気の感じられない青白い肌に最悪の状況を想像して震えそうになるのを堪えながら、強くリゼの手を握りしめるとミナは魔力を注ぎ込んだ。
「っ…」
「ミナ?」
息を飲んだミナを不安そうにハルトヴィヒが見た。
「魔法が…弾かれた…?」
リゼへと魔力を送り込んだ瞬間、壁のようなものにぶつかり拒絶された感触があったのだ。
『無駄と言っておるであろう』
ローゼリアが嘲笑った。
『その小娘には心を閉じ込める呪いをかけてやったわ。呪いに回復魔法は効かぬ。女神の力を使えぬお主に呪いは解けぬわ』
「貴様…」
ハルトヴィヒが身を震わせた。
『ふ、悔しいか王子。お主には何も出来ぬ。惚れた女が朽ちていく様を指をくわえて見ておるがよい』
(そんなの…ダメだ)
自分が力を使えないせいでリゼが死ぬなど。
これ以上———呪いで誰かが苦しむ事は。
(女神…!)
ミナは心の中で強く叫んだ。
(力を貸して下さい…!)
「お願い…!」
ミナの身体が水色の光に包み込まれた。
『この力…おのれ』
ローゼリアの手が黒い光を帯びた。
「ミナ!」
アルフォンスが振り上げた剣が金色に輝く。
三色の光がぶつかり合った瞬間、室内は真っ白な光に満ち溢れた。




