59 尋問
「殿下…どうしてここに」
ハルトヴィヒの姿を見てリゼは眉をひそめた。
「何故自分が死ぬのか気になるだろう」
事もなげにハルトヴィヒはそう笑顔で答えた。
司祭長によるローゼリアの尋問を行う事になった。
エーミールとリゼ、そして万が一の時に光魔法でローゼリアを抑えるためにアルフォンスが立ち合う。
ミナは先日襲われたため隣の部屋で控える事になったのだが、その部屋にハルトヴィヒが現れたのだ。
「すみません…どうしても来ると聞かなくて」
申し訳なさそうにエーミールが言った。
「ミナと共に別室にいるならという条件を付けましたので」
「———絶対に出てこないで下さいませ」
眉をひそめたままいつもより低い声でリゼは言った。
「ああ、分かっている」
そう答えるとハルトヴィヒは小さな窓辺へと歩み寄った。
カーテンを開けると隣の部屋が見える。
小さな祭壇がある部屋には三人の男女が座っていた。
「あれが例の女生徒か。…特に禍々しさは感じないな」
他の二人は共に呼び出したローゼリアの両親だ。
こちらに背を向けているためローゼリアの表情は分からないが、両親は落ち着きがなさそうにそわそわしているようだった。
この部屋は暗くしてあるのと、ガラスに色がつけてあるので向こうの部屋からはほぼ見えないという。
「リゼ嬢の風魔法で向こうでの会話はこちらに聞こえるようにしますから」
エーミールが言った。
「ああ」
ハルトヴィヒは振り返るとリゼに笑顔を向けた。
「頼んだよアンネリーゼ」
「私は〝リゼ〟です」
リゼは目を吊り上げた。
「いいですか。絶対に出て来ないで下さいね」
「分かっているよアン……リゼ」
ハルトヴィヒを一瞥すると、リゼはため息をついてミナを見た。
「ミナ。殿下を見張っていて」
「はい…」
リゼ達が部屋を出ていくのを見送ると、ミナは笑顔のままのハルトヴィヒを振り返った。
「…楽しそうですね?」
「懐かしくてね。よくああやって小言を言われていたんだ」
ハルトヴィヒは目を細めた。
「彼女の小言は私のためを思ってのものだから心地良いものだったんだけど…少し煩わしく思うようになってきてね。———その頃だったな、あの魔女が学園に入ってきたのは」
ふと真顔になると、ハルトヴィヒは再び窓の向こうへと視線を向けた。
「…少しの心の隙が相手につけ込まれ、時に取り返しのつかない事になる。そう学んできたはずだったのにね」
「殿下…」
「———過去は取り消せないけれど、これから起きる可能性のある未来は変える事が出来る。そうだろう?ミナ」
「はい」
大きく頷くと、ミナもハルトヴィヒの隣へ立ち窓の向こうを覗き込んだ。




