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06 魔力テスト

「———あの子」


ミナが寮へと戻っていく後ろ姿を見送りながらライザー先生が口を開いた。


「貴族の隠し子よね」

「おそらくな」


「隠し子?」

「平民であれほど高い魔力を持つ者はいないはずです」

問い返したアルフォンスに向かってベーレンドルフ先生が答えた。


「彼女の魔力量は殿下に匹敵しますよ」

「おそらく高位貴族の血が流れていますね」


「高位貴族か…だがあのような黒髪の者はいないと思ったが」

ミナの艶やかな黒髪を思い出してアルフォンスは言った。


「片親が黒髪なのでしょう、平民には多い色ですから」

この国の人々の髪色は、平民は濃く貴族は薄い色が多い。

そして王族だけが赤い髪色を持つのだ。



「それにあの容姿!あんな可愛い顔、平民にはいないわ」

可愛いもの好きなライザー先生が声を上げた。

「お人形みたいよね。瞳もきらきらして…あら、そういえば」

何かに気づいたようにライザー先生は一同を見渡した。


「あの水晶の光の色、ミナの瞳の色と同じね」

「…言われてみれば」

ミナは髪は真っ黒だったが、瞳は薄い水色をしていた。

平民にも貴族にもあまり見かけない色だ。


「火球を消した時も水色の光だったな」

「ライプニッツ先生、あの水色は結局どういう事なのでしょう」


「…それは調べてみないと分からないな」

ライプニッツ先生は答えた。

「俺が知っている限りではあのような色は例がない。そのうち魔術団の方にもあたってみるよ」



「ミナは自分の血筋を知っているのかしら」

「さあな。さっきの受け答えだけでは何とも言えないな」

「立ち振る舞いは悪くなかったが」


「何にせよ…不思議な子だ」

その容姿も能力も、平民とは思えないけれど…貴族令嬢ともまた違う雰囲気を持つ少女。





「———それでは私も帰ろう。邪魔して悪かった」

アルフォンスの声に、教師達は慌てて向き直ると頭を下げた。


「ああ、先生方…ここでは私は教わる立場だから。そう畏まらないで欲しい」

「は…ですが」

「ミナにも言ったがこの学園内では生徒は皆魔術を学ぶ同志として平等であるべきだろう」


———そう言われても、王子が放つ雰囲気は明らかに上に立つ者のそれだ。


畏まらずにいるのは無理だろうと思いながら、教師達はアルフォンスを見送った。






「お疲れ様でした」


「待たせたな」

アルフォンスが馬車に乗り込むと、待っていた青年が馬車を出すよう促し自身も乗り込んだ。


「他の生徒達はだいぶ前に帰りましたが、殿下はどこか寄り道でも?」

「ああ、面白いものを見てきた」

「面白いもの?」

「フリードリヒ、お前は水色の目を持った者を見たことがあるか?」



「水色…ですか」

フリードリヒと呼ばれた青年は首を傾げた。

「アクアマリンのような瞳だ」

「…青色はよくいますが…そこまで明るい色は見た事がないですね」

「そうか」


「その色が何か」

「その宝石のような瞳の色の娘がいたのだ。髪は黒くて愛らしい顔立ちをしている」



「…おや、殿下が女性に興味を持つとは珍しい」

フリードリヒは口端を緩めた。


「———彼女の魔力の光は瞳と同じ色で美しいんだ」

フリードリヒの指摘に、アルフォンスはふいと顔を背けた。

「それだけだ」


「それだけでも大きな進歩ですよ」

王子とはいえ年頃の青年なのに全く色恋に興味を示さないアルフォンスを長年側で見守ってきた従者は、ようやくその口から女性の話題が出た事に内心安堵のため息をついた。


「殿下ももう十六歳。いい加減婚約者を持って頂かないとなりませんからね」

「その事なら何度も言っているだろう。兄上を差し置いて私が先に作る気はない」

「ですがハルトヴィヒ殿下は…」


アルフォンスの兄、第一王子ハルトヴィヒにはかつて公爵令嬢アンネリーゼ・トラウトナーという婚約者がいた。

だが魔女に魅了された時、彼女との婚約を破棄し、同様に魅了されていたアンネリーゼの兄と共に貴族社会から追放したのだ。

以来五年間、アンネリーゼは行方不明のままだ。


その後、王太子の権利を剥奪され、魔術団副団長となったハルトヴィヒは、己が原因でもある魔物討伐に身を捧げるとして婚約者を持つ事なく戦い続けている。

だから次期王の可能性が高いアルフォンスが婚約者を作り、その権力を安定させる事を周囲は望んでいるのだが。


「私は、兄上が王となるべきだと思っている」

窓へと視線を送りながらアルフォンスは言った。


「だから一日でも早く兄上の代わりに魔術団に入りたいのだ。婚約者など…今はそれどころではない」


確かに、兄よりもアルフォンスの方が魔力量が多く、魔法や剣の才能も上だと言われている。

だからアルフォンスが魔術団に入るのがいいのかもしれない。

———だが。


「…魔物の増殖はハルトヴィヒ殿下達の咎。アルフォンス殿下が危険な目に遭う必要はないのではありませんか」

「兄上の咎は王家の咎でもある。それに民を守るのは王族としての役目だ」


この五年間、疫病や魔物の増殖で国は荒れた。

疫病は収まったものの、魔物の脅威はまだ続いている。


このブルーメンタール王国がかつての平和な姿を取り戻す事。

それがアルフォンスの望みであり、義務なのだ。

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