50 呪い
「それってまさか…」
「———殿下。確かにその女生徒は〝ひろいん〟と言ったのですね」
険しい表情でエーミールが尋ねた。
「ああ。どんな意味だ」
「意味は分かりませんが、魔女マリーがその言葉をよく口にしていました」
「魔女が?」
「…私もよく言われたわね、〝私がひろいんなんだから私の思い通りになるの〟って」
遠い目になりながらリゼが言った。
「そんな事を言われていたのですか」
「彼女、殿方の前では繊細な風を装っていたけれど、実際はかなり強気な性格だったわ。よく女生徒を威嚇していたし」
エーミールにそう答えると、リゼはアルフォンスを見た。
「その娘、身分の高い男子生徒に色目を使ったり殿下の事を勝手に名前で呼んだりしていませんでしたか」
「…そういえば。他の女生徒の婚約者と親しくするなど問題を起こしていたな」
「ますます似ているわね、〝彼女〟に」
「まさか…その娘も魔女か」
「あの」
魔女とされればローゼリアも処刑されてしまうかもしれない。
ミナは慌てて口を開いた。
「その二人が言っていた〝ヒロイン〟という言葉…私の前世の言葉かもしれません」
「何?」
「ヒロインとは、女性の主人公という意味です」
「主人公?」
「———自分が主役って事?」
リゼはため息をついた。
「確かに、そう思っていそうだったわ」
「…それでは、魔女マリーとあの娘もミナと同じ世界から召喚されたと言うのか?」
「そうかもしれません…」
アルフォンスの言葉にミナは頷いた。
「もしかしたら邪神が…」
ミナが女神によってこの世界に召喚されたように。
邪神も彼女たちを召喚したのかもしれない。
「その件に関しては教会の方で調べよう」
司祭長が言った。
「それと、女神や邪神の力、神々の争いについて神話や過去の文献を探した方がいいじゃろう。リゼ、そなた得意だそうだな。頼めるか」
「はい。かしこまりました」
司祭長に向かって頭を下げると、リゼはミナに向いた。
「ミナ。あなたもしばらく教会にいる?その女生徒がいる学園は危険だわ」
「え?」
「そんな危険な相手がいる学園は休んだ方がいいと思うの。魔法の勉強ならここでも出来るし」
「…でも…」
ミナはアルフォンスへ視線を送った。
「チームの練習が…」
リゼの言い分も理解できるが、回復魔法を使えるミナがいなかったらチームはどうなるのだろう。
「———確かに水魔法が抜けるのは厳しいが、今はミナの安全の方が大事だな」
アルフォンスはそう答えた。
「そうじゃな。少なくともその娘の事を調べ終えるまでは学園へは行かない方がいいじゃろう」
「…分かりました」
本当は学園は休みたくないけれど。
今は自分の我儘を言うべきではないとミナは頷いた。




