05 魔力テスト
「ミナ。今のはな、二組レベルの卒業試験問題なんだ」
苦笑しながらライプニッツ先生が言った。
「え…?」
「殿下、今の魔法で求められる技量が分かりますか」
先生はアルフォンスへと視線を移した。
「そうだな…まずあの火球が本物か幻かを見極める力。本物の場合は魔力攻撃の強度を見極める力と、相殺できる魔力を出せるか、コントロールできる能力があるか。幻の場合はその対処方法」
「さすが殿下ですね」
頷くとライプニッツ先生はミナへと向いた。
「だが今回は、ミナが水球を出せるか見たかったんだ。幻を使用したのは君の力が分からなかったから、万が一を考えてだ」
火と水は相反する力だ。
上手く相殺できればいいが、火球に対して水の魔法が弱すぎる場合消えないどころかさらに火球の威力が増す場合もある。
だから教師は幻の火を使用したのだが。
「でもミナはあれを幻と見破っただけでなく、綺麗に消し去ったね。威力もまったく無駄がない。これほど完璧に出来るようになるには相当訓練しなければならないはずなんけど…」
ライプニッツ先生の鋭い瞳がミナを見据えた。
「君はどこで魔術を学んだのかな」
「…孤児院です…」
完全にやらかした事に気づいたミナは、消え入りそうな声で答えた。
———あれがそんなレベルの魔法だなんて、教えてくれなかったのに。
「孤児院で?誰が」
「…シスターです」
「シスター?」
「はい…私が魔法が使えると分かってから…基本から色々と教えてくれました」
ミナの答えに教師達は顔を見合わせた。
「…なるほどね」
「そのシスターは元貴族なのかしら」
「聞いた事はありませんが…おそらくそうだと思います。この学園の事も教えてくれましたので」
貴族女性がシスターになる事はそう珍しい事ではない。
働いたことなどない貴族の女性は、家が没落したり離縁されるなどして行き場を失うと修道院に身を寄せる事が多い。
そこで能力があると判断されれば、シスターとなり修道院の経営側に回ったり孤児院で子供達の面倒を見る事も多いのだ。
ミナがいた孤児院のシスターは、とても綺麗な人だ。
まだ若くて、二十を過ぎたくらいだろう。
平民のミナが貴族の多い学園に入っても困らないよう、あれこれ教えてくれた。
———普段は優しいのに魔法の指導はとても厳しかったな、と思い出してミナは思わず遠い目になった。
「しかし既にこれだけ育て上げているとは…そのシスター、この学園の教師として招いた方がいいんじゃないのか」
ベーレンドルフ先生が言った。
「そうだな、ライザー先生ももっと女教師が増えて欲しいとよく言ってるな」
「そうなのよ…魔術師ってどうしても男性が多いから。女生徒達の悩みを相談できる人が増えるといいんだけど」
ふう、とため息をつくとライザー先生はミナを見た。
「そのシスターの名前は?」
「…分かりません…みんなシスターと呼んでいたので」
「まあ本名は名乗らないだろうな、訳ありなら特に」
「じゃあミナは魔術の基本…いやもう卒業できるくらいの力は既に身につけているんだな」
ライプニッツ先生はそう言うと、にっと笑顔を見せた。
「それじゃあミナは一組で問題ないな」
「一組…ですか」
クラス分けは能力別だ。
一組というのは特に優秀な生徒達が集められるクラスで、小説ではアルフォンスとヒロイン、それにミナも在籍していた。
「ああ殿下ももちろん一組ですから」
「そうか。それじゃあよろしくねミナ」
笑顔でアルフォンスはミナに手を差し出した。
「え、あの…」
これは握手を求められているのだろうか。
だが王子様の手に平民が触れるなど、ありえない話だ。
「この学園内では平等だ、特に君のような優秀な子はね」
「…は、はい…」
更に間近に手を差し出され、ミナはおずおずと手を差し出した。
アルフォンスの手は大きくて、とても力強かった。