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【コミカライズ&書籍化】空の乙女と光の王子(旧題:私、悪役令嬢だったようです)  作者: 冬野月子


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47 呪い

《おかあさん…苦しい…助けて》


金と黒の光の糸に絡まりながら、ミナは胸を押さえ涙を流していた。


《どうして…側に…いないの。一人で死にたくない…おかあさん…おとうさん…》



「ミナ!」

「殿下!」

ミナに駆け寄ろうとしたアルフォンスをエーミールが制した。


「途中で止めるのは逆に危険です」

「だが!」



「エーミール殿の言う通り、手出しはしないで下され。今術を解く」

そう言うと司祭長の手の光が強くなった。

ゆっくりと、ミナを囲んでいた金と黒の糸が消えていく。


光が消えると力が抜けたミナの身体が椅子から崩れ落ちた。


「ミナ!」

飛び出したアルフォンスがミナを抱きとめた。




「———あの黒い光はヴィルヘルミーナ嬢の魂に深く結びついておる、呪いの元だ。金の光はその呪いから彼女を守ろうとしておるようじゃな」

意識のないミナを見つめて司祭長は言った。


「黒い光…魔女か?」

「いや…魔女よりももっと強いもののようじゃ」

「魔女よりも?」

「それが…神託にあった〝古の邪な力〟ですか」



「古の…魔女よりも強い…黒い光…」

リゼが口の中で呟いた。

「———黒い女神?」


「え?」

「…昔…読んだ事があるわ。この国に起きる戦争や厄災は黒い女神がもたらすと」


「読んだ?本でですか」

「ええ…子供向けの本の中にあって…でもお伽話とは思えないほど怖かった覚えがあるわ」

リゼはエーミールを見た。


「金の女神が何度も黒の女神と戦い、勝つけれど黒の女神はまた復活してしまうって」

「…そんな物語、ありましたか」

本好きのエーミールは考えるように眉をひそめた。

「どこで読んだのかしら…確か王宮の…王族専用の図書室?黒い女神と戦う〝黄金の王子〟の挿絵が綺麗だったのを覚えているわ」


「黄金の王子…光魔法か。百年前にもいたという…」

エーミールは目を見開いた。

「…まさか光魔法の使い手が生まれるのはその黒い女神と関係が?」




「…ん…」


ミナが身動いだ。


「ミナ…大丈夫か」

目を開いたミナを、心配そうにアルフォンスが覗き込んだ。


「…で…んか」

瞬いて、ミナは自分がアルフォンスに抱き抱えられている事に気づき、慌てて起き上がろうとした。


「急に動くな、危ない」

バランスを崩したミナの身体を支えるように、アルフォンスはそっと抱きしめた。


「っあの…」

「———殿下、どさくさに紛れて何をしておられるのですか」

リゼの冷めた声が響いた。


「まったく…兄弟揃ってどうしてそうすぐ触れたがるのかしら」

「そうですよ、まだ殿下の婚約者になると決まった訳ではないのですから」

エーミールはそう言って司祭長を見た。



「それで司祭長。どこまで分かりましたか」

「先刻も言った通り、この呪いはヴィルヘルミーナ嬢の魂に深く結びついておる。これを解くのはよほど難しい」

「…我々の時よりも?」


「あの時は外側から覆うように魅了魔法が掛けられておったが、今回は内側…もっと根深いものだ」

司祭長はミナの側まで来るとその瞳を覗き込んだ。

「…どうやらヴィルヘルミーナ嬢の魂は、特殊なようだの」


「特殊?」

「普通の魂とは質というか…種類が違うようじゃ」

「それは…呪いのせいですか」

「いや…呪いとはまた別じゃな。それにあの奇妙な言葉」


「…奇妙な言葉…?」

「うわ言のように何か言っておったのじゃ」

「何度も《オカアサン》と言っていたな」

アルフォンスの言葉に、ミナはびくりと肩を震わせた。


(あ…そうだ…夢を見ていたんだ…)


夢なのか、記憶なのか。

司祭長に術を掛けられて…前世で死んだ時の事を思い出していたのは覚えている。

あの時の苦しさが蘇り、ミナは無意識に胸を押さえた。



「あれは何を言っていたのだ?…覚えているのだろう」

ミナの反応を見てアルフォンスが言った。


「え…えと…」


(どうしよう)


あれは前世の世界の言葉だと…説明してもいいものだろうか?

だがそれを言ったらゲームや小説の事なども明かさなければならないのだろうか。

———そもそもそんな事、信じてもらえるのだろうか。



「ミナ」

「その前に殿下、ミナから離れましょうか」

ミナを抱きしめたままのアルフォンスの肩にエーミールが手を掛けた。


「そうね、ミナいらっしゃい」

リゼがミナの腕を取ると自分へと引き寄せた。

「気分は悪くない?」

そっとミナを抱き寄せる、アルフォンスとは異なる優しげな腕に、ミナの胸の奥が締め付けられる。



《…おかあさん…》


それは前世の、そして今世でもミナが知る事のない、母親の温もりを想像させる感触だった。


「ミナ?」

《おかあさん…》




「———ミナ」

リゼはミナの背に手を回すとそっと力を込めてその身体を抱きしめた。


「辛い思いをしたのね」

「…っ」

「もう大丈夫よ」

震える背中を撫でながらリゼは言った。



「…リゼ様。ミナが何を言っているか分かったのですか」

「いいえ。でも想像はつくわ」

エーミールにそう答えると、リゼは腕の中のミナに視線を向けた。

「孤児院の子供達を何人も見ているから。…お母様が恋しいのね」

言葉を肯定するように、ミナはリゼにしがみついた。


「母親が恋しい?だがミナの母親は…」




『———ミナが望むのは今世の母親ではないわ』


ミナの口から、彼女とは異なる女性の声が聞こえた。

それは優しくて、けれど威厳のある不思議な声だった。

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