46 呪い
「ミナ」
「…シスター?!」
教会で出迎えた相手を見て、ミナは目を見開いた。
「どうしてここに…」
「〝命令〟で呼ばれたの。ミナの呪いの件で協力するようにって。———私を推薦した人がいるらしくて」
シスターは脇へと視線を送った。
「リゼ様は私よりも魔術の事に詳しいですからね」
視線の先にいたエーミールは笑顔でそう答えた。
「え…でも孤児院は…?」
信頼しているシスターが来てくれたのは嬉しいけれど、そのせいで他の子供達が寂しい思いをしてしまうのはよくない。
「しばらく代わりの者が来るわ。子供達もミナの為ならって納得して送り出してくれたの」
「そうだったんですか…」
「リゼ…アンネリーゼ嬢?!」
ミナと共に来たアルフォンスはシスターを見て目を瞬かせた。
「…どうして…」
「シスターの〝リゼ〟と申します」
アルフォンスの前へ立つとリゼはそう言った。
「アンネリーゼという者はもう存在いたしません。よろしいですね」
「…あ、ああ…」
自分を見上げる強い眼差しに思わず頷くと、アルフォンスは問うようにミナを見た。
「この方が私に魔術を教えてくれたシスターです」
「ミナに?」
「先日、ハルトヴィヒ殿下が調査でミナのいた教会に向かった時にお会いしたそうで。それでリゼ様の魔術の知識の高さと能力を見て是非今回の件に参加して頂きたいと」
エーミールがそう説明した。
「兄上…が」
アルフォンスはしばらく考えるようにミナとリゼを交互に見、やがて頷いた。
「そうか…分かった。よろしく頼む」
「それではよろしいかな」
司祭長が声をかけた。
「ヴィルヘルミーナ嬢、祭壇の前へ」
「…はい」
促されるまま、ミナは祭壇の前に置かれた椅子に腰を下ろした。
「これはハルトヴィヒ殿下達にも行った方法で、まず呪いの内容を探るのじゃ。目を閉じて…力を抜いて」
司祭長はミナの額へと手をかざした。
呪文のようなものを唱え始めると、やがて司祭長の手が白い光を帯びた。
光はゆっくりとミナを包み込んでいく。
静かな祭壇に司祭長の声が響く。
やがてそこに、かすかに呻き声のようなものが混ざり始めた。
ミナが苦しげに眉をひそめる。
その身体を覆う白い光の中に、黒い、モヤのようなものが混ざり始めた。
「あれは…」
「あの黒いものが呪い…?」
「…黒だけじゃない?」
金色の光が一筋現れた。
黒いもやと金色の光が細長く、紐のように絡まりながらミナの身体を覆っていった。
「これは…二つの力がミナに関わっているという事?」
リゼは隣のエーミールを見た。
「おそらく…あの金の光はアルフォンス殿下の光魔法と似ていますね」
ミナが苦しげに息を吐いた。
「…大丈夫なのか」
不安そうにアルフォンスが呟いた。
「———あなた方の時もこんな感じだったの?」
「いえ…苦しさはなかったです。我々の時と違い、ミナに掛けられているのは〝呪い〟ですから」
「過去に呪いを解いた例は?」
「現在の王政になってからは記録にありません」
「…それは本当に、大丈夫なのか」
リゼとエーミールの会話を聞いてアルフォンスは眉をひそめた。
《…お…か…さ…》
かすかにミナが声を発した。
《おかあさん…》
それは短いけれど、聞いたことのない言葉だった。




