43 二学期
「ああ…もう」
部屋にもどるとベッドに顔を埋めてミナは呻いた。
(エドモント様が…私を?)
確かに最近のエドモントのミナへの態度は、最初の頃に比べてかなり好意的だとは思っていたけれど。
(でも婚約とか言われても…というか婚約って、ゆくゆくは結婚するんだよね?!)
エドモントやアルフォンスと結婚。
———ミナには想像もつかない事だった。
この世界では、平民でも十代で結婚する者は多い。
だが魔法が使えると知った時から魔術師になる事を目標としていた、しかも前世の日本人の記憶を持つ十六歳のミナにとって、結婚などというのはまだ遠い未来の話だった。
「もう…本当に、どうしたらいいんだろう」
色々な事を考えないとならないのに、さらに問題が増えてしまった。
考える事が多すぎて、頭の中が混乱してくる。
(こういう時は…冷静に…)
ミナは大きく深呼吸をした。
〝お前が大切な事を認識させてくれた。先ずは一人前の魔術師にならなければならないと〟
エドモントの言葉が蘇る。
「私にとって大切な事…」
ミナにとって一番大切な事。
それは何よりも。
「呪いを解く事…?」
ミナがこの世界に生まれたのは、邪神を消し去るためだ。
だがその邪神の呪いによってローゼリアとして生まれるはずだったのがヴィルヘルミーナとして生まれてしまった。
呪いが解けなければ…邪神は倒せないのだ。
「呪いを…」
それは教会が行うと言っていた。
以前、ハルトヴィヒ達が魔女に魅了された時も教会が解いたのだと。
「魔女と邪神は…同じ?」
あるいは、ミナ達と同様に転生者だったらしいマリーは邪神に操られたりしていたのだろうか。
魅了されたままだったら、魔女マリーが王妃になっていたかもしれないと言っていた。
魔女を王妃とし、この国を手に入れる…それが邪神の目的だったのだろうか。
「…誰かに…相談できたらいいのに」
ミナが女神の力でこの世界に転生した事は言えたとしても、乙女ゲームや小説の事はどう説明したらいいのだろう。
この世界が異世界でゲームや小説の舞台になっているなど、信じてもらえるとは思えない。
それを思うと…誰にも言えそうにない。
せめてもう一度、女神と会えたらいいのに。
室内に長いため息の声が響いた。




