40 女神
この世界には何柱もの神が存在する。
彼らは性別も能力も様々で、人間にとって良い神もいれば悪い神もいる。
それはミナの前世、日本の神々と同じようなものなのだろう。
女神が守護するこのブルーメンタール王国をある邪神が狙っていた。
元々は良い女神であったのが、自身が守護していた国が戦争に負けたせいで追放され、長い年月を彷徨ううちに邪神と成り果ててしまったらしい。
そして目をつけたのが自然に恵まれた美しいブルーメンタール王国だった。
長い間、女神と邪神は戦ってきた。
それは人間が知らない所であったり、また戦争など目に見える形となって起きる事もあった。
戦いが起きるたびに女神は邪神を封印していたのだが、完全には封じきれず百年ほど経つと再び出てきてしまう。
だから女神は邪神の封印が解けそうになると、王族に自身の力を与えてきたのだ。
「それが…光魔法ですか」
『ええ。いつも王子に光魔法を授けるのだけれど…何度も同じ事を繰り返しているのもキリがないから、今回はもう一人別の力を持つ者を用意しようとしたの』
「…もしかしてそれが…」
『そう、神託で〝空の乙女〟と呼んだ、異世界からの少女…あなたよ』
女神の授ける光魔法は、魔物など邪神によって生み出された穢れを浄化させる事ができる。
けれど根本を断つにはもっと別の、女神に近い力が必要だ。
だがその力を与えられる者が王国内では見つからず…代わりに見出したのが異世界にいたミナだ。
『あなたの声が聞こえたの。愛して欲しいというあなたの願いと声が』
この世界とミナが前世で生きていた世界、それに幾つかの世界とは繋がっているという。
そして普段別の世界と干渉する事はないが、まれに影響を与える事もあるという。
『世界を超えて声が届いたあなたの魂はとても綺麗で純粋で、この魂ならば私の力を受け止められると思ってこの世界に呼んだの。…でも、それを邪神に気付かれてしまったわ』
女神の意図に気付いた邪神は、女神がこの世界に召喚したミナの魂に呪いをかけ———本来入るべき身体へ別の魂を入れてしまったのだ。
「…それって…まさか…ローゼリア?」
『そう、あなたは本当はローゼリア・リーベルとして生まれるはずだったの』
ローゼリアとして生まれるはずだったミナの魂は行き場を失ったため、女神は仕方なく別の身体へミナの魂を入れた。
そうして邪神の呪いがかかったまま、ヴィルヘルミーナとして生まれたのだ。
「その呪いとは…」
『あなたの一番の望み、〝親に愛される〟事が叶わない呪いよ』
ミナの望みを叶えず、逆に両親から嫌われる事で心を追い詰め———虐待で死なせるつもりだったという。
だが女神の守護に守られていたミナは逃れる事が出来た。
そうしてヴィルヘルミーナは平民ミナとなり、家族から離れる事で邪神の呪いも弱まっていったという。
『あなたは今、私の力と邪神の呪いが複雑に絡まり合っている状態なの。少しずつその絡まりは解けつつはあるけれど…まだまだ根深いわ』
女神がこれまでミナに話しかける事がなかったのも、邪神の呪いによって遮られていたからだという。
だがミナが自分とローゼリアが入れ替わっているかもしれないと気づいた事で綻びが生まれ、接触する事ができたのだ。
『呪いが解けないと邪神を消し去る事はできないわ。でもまだ時間がかかるわ、もう少し待ってね』
「… はい…あの、私に与えられた力というのは…どういうものなのですか」
『それはね———』
ふいにくらりと目眩を覚えると、ミナは元のベッドの上に座っていた。
「あ…れ?」
これは…また遮られてしまったのだろうか。
「———女神の力…本当はローゼリアに生まれるはずだった…」
つまりミナがヒロインになるはずだったという事なのか。
「私が…ヒロイン?でもこの身体はヴィルヘルミーナだし…?!」
女神の言葉のせいでさらに頭の中が混乱して、ミナは頭を抱え込んだ。
(女神の力の事とか…あの小説との関係とか…知りたい事は沢山あるのに)
「どうしたらいいんだろう…」
ミナの呟きに答えるものは誰もいなかった。




