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30 神託

「はあ…」


馬車に乗って何度目かのため息をつくと、向かいに座ったフランツィスカが笑みを浮かべた。


「そんなに家族に会うのが不安?それとも嫌?」

「———それもあるけれど…」

ミナはもう一度ため息をついた。


「どうして…王宮なのかしら…」



教会で十日ほど過ごしてミナは王都へ戻ってきた。

調査を終えて先に戻るハルトヴィヒに、家族に会う覚悟を決めた事を伝えると———何故か王宮内で会う事になったのだ。

おそらくハルトヴィヒが根回ししたのだろうけれど…ただでさえ家族と会うのに緊張するのに、王宮に行かないとならないなんて。



「そうねえ…」

一人では不安だろうからと同行してくれる事になったフランツィスカは、ミナの姿を一瞥した。

「やっぱり、ドレスの方が良かったかしら」


ミナは学園の制服を着ていた。

ドレスを用意しようとフランツィスカに言われたけれど、これでいいと拒んだのだ。


家族に会うとは言ったけれど、家に戻るかはまた別の問題だ。

たとえ和解したとしても、ミナは家には戻らずこのまま平民として魔術師になるつもりだった。

自分は貴族ではないという意思表示の意味を込めて制服を選んだのだ。


フランツィスカは王宮に上がるのだからとドレスとアクセサリーで綺麗に着飾っている。

こうして盛装したフランツィスカは、立派な貴族令嬢だ。



「制服だって正装なのでしょう」

ミナはこれより立派な服を持っていない。

儀式用のマントも羽織ったし、問題はないはずだ。


「そうなんだけど…陛下に謁見するかもしれないでしょう」

「謁見…?!」

ミナは目を見開いた。


「どうして?!」

「だってわざわざ王宮で会うのよ」

「それは…ハルトヴィヒ殿下が仲介してくれたから…」


「それにね、父と兄が言っていたんだけれど」

馬車の中には二人しかいないのに、フランツィスカは声をひそめた。


「もしかしたら、陛下はミナとアルフォンス殿下を婚約させるつもりなのかもって」




「は…?」

ミナはポカンと口を開いた。


「な、なんで…?!」

「アルフォンス殿下はこれまでずっと婚約者を作る事を拒み続けていたの。だから高位貴族で殿下に釣り合いそうな令嬢は皆婚約者がいて、殿下の相手を探すのに苦労しているんですって」

そこに現れたのがミナだ。

宰相でもある侯爵家の娘、アルフォンスと同じ年齢。

条件的には申し分ない。



「でも…私平民育ちで貴族の作法とか知らないし…!」

「平民から王妃になった例もあるわ。作法だってこれから覚えればいいわよ」

「私は魔術師になるから…!」

「魔術に夢中な殿下にはぴったりだと思うわ」

フランツィスカはにっこりと笑った。


「そんな…」

「ミナは殿下の事が嫌なの?」

「そういう問題じゃなくて…」


婚約などしたら小説と同じになってしまうのではないだろうか。

いやそれ以前に、王子と婚約など…八年間平民として過ごし、前世の記憶を思い出したせいで更に平民感覚が強くなったミナにはハードルが高すぎた。


「まあ、もしかしたらだから。…ああ着いたみたいね」

フランツィスカの声に応えるように馬車が止まった。




王宮へ着いた二人はまず控えの間へと案内された。

出された香りの良いお茶を飲みながらしばらく休息していると扉が開き、アルフォンスとフリードリヒが入って来た。


「ミナ、彼は私の侍従でフランツィスカの兄のフリードリヒだ」

「初めまして、フリードリヒ・バウムガルトです。噂通りの可愛いお嬢様ですね」

アルフォンスに紹介されたフリードリヒはミナに向かって笑顔を向けた。


「初めまして…ミナと申します」

可愛いという言葉に何か含むものを感じながら、ミナはマントの裾をつまむと腰を落として挨拶をした。

教会に滞在中、シスターに貴族令嬢としてのふるまいを教えられたのだ。



「ミナ、君の家族は既に揃っているよ」

ピクリと肩を震わせたミナに、アルフォンスは手を差し出した。


「え…あの」

「ミナ、こういう時にはエスコートしてもらうのよ」

そう言うと、フランツィスカは自らに差し出されたフリードリヒの手に自分の手を乗せた。

それを真似してミナがアルフォンスに手を重ねると、四人は控えの間から出た。

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